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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第1章 〝金銀花〟結成!

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反骨精神を掲げるギャルたち、それが〝がちけん〟




 唖然とする流霞であったが、とりあえず中へ入ろうということで雅と奏星、それに美佳里と雪乃と共に部室内に入室する。


 部室の広さは20畳程度といったところか。

 ソファーやローテーブルなどが置かれた談話スペースと、部屋の中央に置かれた会議用のテーブルと椅子、その横にはキャスター付きのホワイトボードと、映写機。

 壁際にはパソコンが2台ある作業用スペースまである。


 パソコンにモニターを接続する、というのは流霞たちにとっては過去の話。今ではすっかり廃れていて、今ではARグラスが使われることが一般的だ。

 奏星がダンジョンダイブ時に装着しているコンタクトレンズ型のARレンズは、基本的にスマートフォンで読み取った映像を出力するのみではあるが、ARグラスは画面の固定化や追従機能なども含め、多くの機能を有している。

 当然、ここにもそれぞれのパソコンのキーボードが置かれたデスクの上にARグラスが置かれていた。


 ――は、ハイテクを使いこなすギャルたち……!?

 そういう分野ではオタクの自分の方が知識があってもいいのに、と無駄に驚愕する流霞を他所に、雅を筆頭に奏星たちがそれぞれに中央のテーブルに置かれた椅子に座っていき、流霞も勧められるがままに一つに腰掛けた。


 一番奥の誕生日席とでも言うような位置に雅。そして奥側、雅の斜め前に美佳里が。

 美佳里の隣に雪乃が腰掛け、入口のドア側の席の奥、美佳里と向かい合う位置に奏星が座り、その隣が流霞、といった形だ。



「さてさて、るかちー。まずはご飯でも食べながら、ウチらの部活の説明してくからねー」


「あ、はい」


「お、そういや奏星がコンビニとか、何気に初じゃね?」


「病院から直だしね」


「あ、そーだったわ。食べんのだいじょぶ? なんか手伝う?」


「へーきへーき、ありがと」



 雅が説明する横から美佳里と奏星が喋り始める。

 流霞もいそいそとお弁当箱を取り出すと、正面に座った雪乃が流霞のお弁当箱を見て目を輝かせた。



「すげー、るかちそれ手作り?」


「あ、冷凍食品、だから違うかも? 一人暮らしだから、冷凍食品いっぱいあって」


「なーる。でも一人暮らしって、ミカミカと一緒じゃん」


「へ? あ、もしかしてるかちもダンジョン災害孤児?」


「うん」


「そっか、あーしもだよー。つっても、るかちみたいに冷凍食品でお弁当とか作れないけどね!」


「威張んなし」



 今となってはダンジョン災害はそうそう頻繁に起こるものではないが、実のところ、それは流霞が孤児となった事件が起因となって管理体制が改善されたおかげだ。


 今でも時折メディアで取り上げられる、〝中抜き体制が引き起こした神奈川崩壊事件〟――13年前に発生した日本史上最悪のダンジョン事件だ。


 国からダンジョン管理を委託された探索者事務所が高額で一次請けをしておきながら、子会社だのなんだのを使って下請け、孫請けと中抜きだけをした結果、最終的に管理人員が低賃金で確保できない探索者事務所が、間引きもできずに『魔物氾濫(スタンピード)』を引き起こした。


 同世代、同年代でこの年齢で一人で暮らしているとなれば、同じ境遇である可能性は高い。

 当然それは美佳里も感じていたが、お互いにそこには触れないでおくことにした。


 ともあれ、昼食を済ませている間の会話は奏星の怪我の状況、医師の判断に対するものであったりという話題であったのだが、雅が早々と食事を終えて、改めて手を叩いた。

 食べるのが遅い流霞はまだお弁当も半分近く残っているのだが。



「さてさて、るかちー。食べながらでいいから聞いてね」


「むぐ? むぐ」


「るかちなんかかわいいわー」



 ちょうどご飯を口に入れたところだったので、そのまま声を出して返事をした流霞の姿が子供っぽすぎたのが、雪乃がにぃっと笑って幼い子供を見るような目を向けて呟く。

 なんとなく恥ずかしくなって、流霞はそっと視線と声に気付かないふりをすることにした。



「はいはい。まあ話を始めさせてもらうねー。えーっと、まずはダンジョンの現在の攻略記録だけど、これが世界で見ても中層19階層。つまり、中層のボスを倒せていないってことだね」



 こくり、と流霞は頷く。


 ダンジョンの最上層の3階層を抜けると上層が始まり、ダンジョン上層15階層に差し掛かるところで〝フロアボス〟と呼ばれている強い個体の魔物だけがいるフロアがあり、そこにいるボスを倒さなくては進めないという設計になっている。

 そうしてフロアボスを倒した次の層に行くと、ダンジョンは上層とは全く違う顔を見せるようになる。文字通り、世界が変わったかのように環境や魔物の強さまでもが大きく変わるのである。

 そうして中層の1階層から19階層へと進むと、再びフロアボスが存在している。


 現在、世界最強の探索者と言われているのはレベル6。

 そんな世界最強ですら下層に到れていない。


 それでも下層という存在が認められているのは、中層にあるダンジョントラップに引っかかり、中層とも上層とも全く違う空間、全く違う魔物がいる場所に飛ばされた探索者の配信があったからだ。

 もっとも、その探索者はその後、あっという間に下層の魔物に襲われ、命を落としてしまったが。


 雅が喋りながらも横のパソコンデスクに行ってARグラスと操作用のリングをつけると、部室の窓のカーテンレールが自動で動き、部屋が薄暗くなったところで、ホワイトボードに映像が投射された。



「――で、そんなトップより下になるとー、実際のところ中層に行けるかどうかで一気に人数が減ってんだよね。実際、上層フロアボスチャレンジはちょっとしたイベントなみに盛り上がってるしね。でも、成功した人は少ないっつーわけ。ま、奥に進む人は少ないってのは理解できてるっしょ?」


「うん、なんとなく、だけど」


「で、そんな中層に行ける人たちが少ない上に、世界最強のアメリカ人探索者ですら、レベル6になって3年が経つのに、まだ中層を突破できないっていうこともあって、中層を攻略しようっていう気概のある探索者がここ最近、さらに減ってきたんよね」



 投射された映像は、ここ最近のダンジョン探索における攻略チャンネルの配信内容で、攻略階層の更新傾向を示したグラフだった。

 確かにこの3年で、中層の攻略階層の更新を目指す配信はがくんと下がっているのが窺えた。


 しかし、それも仕方のないことだろうな、と流霞は思う。

 中層に行って魔物を倒し、魔石を手に入れる。あるいは、採取してきたものを売る。これだけでも、正直に言って生活は充分に成り立ち、余裕のあるお金は得られるのだ。


 ダンジョンを潜るというのは、命を天秤にかけること。

 充分に生活ができているのに、さらに無理をして中層を踏破し、下層を目指すだけの理由がない者が多いのだ。


 そしてそれは流霞もあまり変わらない。

 中層に行けるようになって、ちょっとチヤホヤされれば、それで満足だ。

 そう、思っている。


 だが、そんな流霞に向かって雅がゆっくりと口を開いた。



「あのね、るかちー。あーしの因子、【魔法薬調合】なんだ」



 笑顔とは裏腹に、今にも泣き出しそうな声で雅が続ける。



「なんかすごそーじゃん、って、最初は思ったよ。でもさ、調べても調べても、何も見つからなかったんよ」


「え……」


「あーしもそーだよ。【魔弾の射手】だってさ。めっちゃつよそーなのに、そもそも魔弾なんて存在もしてないっぽいしさ」


「んなこと言ったら、【魔導裁縫】のあーしなんて論外じゃん? そもそも裁縫とか知らんし。やったらお得なのかなって思ったけど、どうも魔導ってついてる以上、別に普通の何かが上手くなったりもならないらしーじゃん」



 雅に続いて美佳里が、そして雪乃が続ける。

 因子の名前だけ聞けば、なんだか凄いことができそうだ、と流霞は思う。


 けれど、現実はそうではなかった。


 雅が慣れた様子でARレンズ越しに何かを操作するように手を動かせば、映写機で映し出される映像には、世界探索者協会が運営する、因子情報サイトが表示された。当然、このサイトは流霞も確認済みである。


 そうして、雅の【魔法薬調合】も、美佳里の【魔弾の射手】も、雪乃の【魔導裁縫】も、因子名は公開されてリンクがあるものの、その先で情報を公開しているページには「現在見つかっていない情報です。もしも情報をお持ちの方がいましたら、是非ご報告ください」などという言葉しか出てこなかった。


 流霞の【月】に至っては、そもそも発見例すらなかったため、それに比べれば名前ぐらいは知られているものの、けれど何も情報がない、という状態であるようだ。



「ウチらはさ、くやしーんだよね」


「悔しい……?」


「そう。ダンジョン因子はダンジョンに勝手に与えられるものじゃん? でも、情報がないんじゃ、それがあーしに合ってるものなのかどうかも分からないし、使えもしない、なんてさ」



 ――普通なら、もうそこで諦めるんだけどね。

 苦笑混じりに雅は力なく笑ってぽつりと付け足したかと思えば、次の瞬間には目に強い意思を宿して続けた。



「でも、あーしはそんなんで負けたくない。だから、ダンジョンをどうにか攻略して、因子の意味とか効果とかもガチで研究してやろうって。誰も知らないからって諦めるんじゃなくて、ウチらがトップになってやらぁ、って決めたんだ」


「そ、れって……」



 ――そんなこと、考えたこともなかった。


 因子で手に入った【月】なんてものが、どんなものなのか。

 試してみても何も上手くいかず、情報も手に入らない。

 だから、その内、いずれ分かるかもしれないけれど、分からないままなら諦めるしかないかな、と流霞は心のどこかで諦めてすらいたのだ。


 それでも良かった。

 だって、魔装があれば戦えるのだから、と。



「あーしはさぁ、分からないまま諦めるなんてしたくない。なんていうか、それで諦めるって、なんか逃げたみたいじゃん? そういうの、嫌だし」


「雅がそんな感じでアツく言うからさー。なんつーか、あーしもゆっきーも、それにノろうよ、ってなったんだよねー」


「それな」


「ふふーん、二人とも感謝してよねー! あーしが諦めなかったから、奏星が仲間になってくれたんじゃん!」


「奏星はほら、あーしも気に入ってたし」


「つか、ウチら同クラになったばっかの時に最初に奏星と話したのあーしなんですけどー?」


「ゆっきーのそれ、プリント渡しただけだったヤツじゃん!」



 ぎゃーぎゃーと言い合っているかのようで、それでも笑い合っている雅と美佳里、そして雪乃の3人の会話が面白くて、ついつい流霞も口角をあげる。


 そんな流霞に、隣に座っていた奏星が顔を向けた。



「アタシもさ、雅とミカミカ、それにゆっきーと同じような感じなんだ。因子がちょっと特殊でさ。で、その謎を解き明かしたいとも思ってんの。でも、昨日、一人じゃ結構キツいんだって思い知ったんよ」


「そー、それなー。昨日もちょっと話したけどさ、やっぱ戦力の増強は必要ってわけ。んで、そこで目についたのが、ずばり、るかち―!」


「ぇ……?」


「『ガチ攻略女子のダンジョン研究部』、略して〝がちけん〟に、入ってくれないかな!?」



 反骨精神の溢れた雅から向けられた、真剣な視線。

 その熱に当てられたかのように、流霞は静かに息を呑んだ。


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