第24話(累計 第97話) 復讐の刃
「小林さん、こんにちわ。お身体の調子はいかがですか?」
「お姉さま、倒した本人が言うのは、流石におかしく無いかや?」
「あ! そ、そうでした。お仲間の仇にこんな事を言われては、心外ですよね?」
「まったく、貴女たちは病室の入り口で漫才をしないでほしいわ。監視の方も笑いを我慢するのに必死よ?」
今日、わたし、ひな、そして警視正は、神代院家の警備兵にしてわたしを守護鬼神で襲った小林の病室に来ている。
それは、彼から奈良原に繋がるであろう薬物汚染の情報を得るためだ。
……既に厚労省のマトリの方々が、医療データー込みで聴取をしているんだけどね。彼らから許可を得たので、今日は来てみたの。
「……。まずは病室の扉を閉めてくれんか? ここは隔離されているとはいえ、周囲に聞こえていい話ではないだろう?」
「は、はいです。ひな、中に入って閉めるよ?」
「はいなのじゃ!」
重要参考人であり、更に警視正の実家案件ということで、都内中野区にある東京警察病院に小林は入院している。
その奥深くにある個人病室のひとつに、わたし達は赴いている。
病室の扉を閉める際、警備の制服警官が少し笑っているのが見えた。
「小林。もう話が出来ると聞いているから、わたしは公安。超常犯罪特別対策室の室長として、今日は来ています。貴方を倒した子たちが一緒なのは、ごめんなさい」
「いえ、美穂さま。今回の事は、俺が、さ、逆恨みから皆に迷惑を掛けたのが全て悪いので」
点滴を受けている小林のベッド横に椅子を持って行き、座る警視正。
自分の立場を示して、小林に尋問を開始した。
……小林さんからしたら、分家とはいえキヨさま直系のお嬢さまだものね、警視正は。でも、今日は警察の立場で来たと。
少し言いよどみながら話し出す小林。
彼は、わたしに対する恨みから、薬物に頼るようになった経緯を話し出した。
「俺は、そこの、小娘。いや、綾香どのに同胞を。共に孤児院で育った家族たちを殺されたのを、ずっと恨んでいました」
……え!? 同胞って言ってたけど、わたしが殺したのは兄弟みたいな人達だったの!?
小林さんの家族同然だった人たちを、この手で斬ってしまった。
その事実の重さに、わたしは近くの椅子へ崩れるように座り込んでしまった。
「お姉さま。ひどく驚いている様じゃが、既に過ぎた事。神代院家では慈善活動の一環として、将来の術者育成も兼ねて孤児院を今も運営しておるのじゃ。どうやら、小林もそこで育ったらしいのぉ」
わたしの横に小さな椅子を持ってきて、座ってくれたひな。
わたしに、小林の育った孤児院の事を小声で説明してくれた。
「綾香どのに殺された家族。寂しい夜は一緒に寝て、食事も一緒。小さなやつのオシメも交換したり、誕生日を祝いあったり。一緒に孤児院で育った奴ら。大人になって、『力』が発現した者たちは、俺と共に神代院家の私兵となりました」
小林が、育ってきた孤児院の事を語りだす。
その言葉は、わたしの心をグサグサと差してくる。
わたしが斬り捨てた魔神兵。
彼らにも家族や仲間が居た事。
「お姉さま。魔神兵になった者や魔神化して理性を失くした者は、もう救えぬ。お姉さまは、彼らが人々を傷つける前に倒し、魂を救ったのじゃ。此方は、お姉さまが泣きながら彼らを斬った事をずっと忘れないのじゃ!」
わたしの振るえる手を、小さくも柔らかく暖かい手でギュッと握ってくれるひな。
わたしの犯した「罪」は、仕方がなかったと言ってくれる。
「そのあたりの事情は、キヨお婆さまから聞いているわ。家族を殺された。その事に関しては同情もするし、恨む気持ちは理解できる。でも、綾香ちゃんに恨みを向け続けるのは違う。あの子は、貴方の家族が地獄に落ちる前に救った。そう、わたしは思って居ます」
「……。今になれば、綾香どのが俺の家族を斬り倒せねばならなかった事も、理解はします。もちろん、今も許しはしませんが」
許さない、そう呟く小林。
わたしも、彼に許してほしいわけでもないし、許されるつもりもない。
しかし、直接許さないと言われるのは、心がとても痛い。
「お姉さま、此方も一緒に罪を背負う。前にも話した通りなのじゃ」
ぎゅっと握る手に力を込めてくるひな。
わたしも握り返し、笑みを無理やり作ってみた。
「ありがと、ひな」
「俺は、綾香どのに対し家族の敵討ち。復讐する事を考えました。たかが、小娘。刀を握れば凄いかもしれない。<切断>のスキルがあるとも聞いてましたが、女ごときが男に勝てるはずは無いとも、思い込んでました。恨みはどんどん強くなり、美穂さまと来た彼女を見た時、衝動が止められませんでした」
小林は、話を続ける。
わたしが、神代院家に閉じ込められたひなを迎えに向かった時。
彼は門前で、わたしに殴りかかってきた。
「しかし、綾香どのは強かった。警備の中では武道が一番強かった俺をあっという間に倒した。俺は、自分の弱さを知り、嘆きました。これでは、家族の敵討ちなど出来はしないと」
「そこで、違法薬物。奈良原らが作っていた向精神薬に手を出したのね」
「はい。あの薬物には魔力増大効果があり、反射神経も上がると、帝都安全保障省に採用された同い年のアイツが言ってました。アイツは薬物を飲み、力を得ていきましたが……」
小林は唇を激しく噛みしめ、口元から血を流していた。
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