第22話(累計 第95話) 罪を背負う刃
「はぁはぁはぁ。ひな、周囲の状況報告をお願い」
「了解なのじゃ、お姉さま。敵守護鬼神<ルシフェル>とやらは、お姉さまが撃破して、地上へ落下激突。もう戦闘不能なのじゃ。<無銘>は、魔力残量が微妙じゃが、稼働に支障なしなのじゃ」
必殺技を繰り出し、わたしを恨む男。
小林の駆る守護鬼神を撃破した。
魔力も気力、体力も極限まで使った大技を繰り出したため、息を整えるのがやっと。
しかし、何があるか分からないから、警戒は忘れない。
残心を保ちつつ、視線は<ルシフェル>の残骸から外さない。
……落下する<無銘>を制御して、上手く着地させるのに気を使っちゃった。もう、へとへと。小林さん、頼むからもう起きだしてこないで。
目の前には、訓練場に大きなクレーターを作った鬼神の残骸があり、徐々に姿を失いつつある。
まだ、土埃が周囲に激しく舞い、コクピットの中に入り込む空気も埃っぽい。
「建物は、大体大丈夫じゃな。じゃが、庭がボロボロなのじゃ。これは治すのが大変なのじゃ。火災保険が使えるのかや?」
「その辺りは、わたしには分からないわ。でも、綺麗なお庭が台無しね」
コクピット内のメインモニター。
<無銘>の頭部視界の映像が映されているが、倒された石灯篭や庭木、庭石がクレーターの向こうに沢山見える。
また、防御術式が付与されていなかったであろう倉庫が多数倒壊していた。
そこに集まる黒服や作業着の男たち。
……結衣ちゃんや葵ちゃんも無事ね。良かった。
「綾香、ひな。よくやった。まさか、小林を殺さずに倒すとはな」
「我が孫娘は凄いんだぜ、クソババァ。だが、オタクの曾孫も中々やるな」
こんな混乱状態でも、通常運転な我が祖父とキヨ。
お互いに孫自慢をしているのが、何処か微笑ましい。
「綾香さんとひなちゃんの合わせ技、見事でしたわ」
「あれ、ロボアニメの必殺技じゃん。リアルで見れるなんて! 二人とも、凄かったよ」
キヨらによって守られていた友人二人。
<無銘>を見上げながら、賞賛の声を上げていた。
「お姉さま、小林が見えるのじゃ。生存反応あり。よく、殺さずに両断したのじゃ。しかし使った技は何なのじゃ? 同じ技をアニメやゲームで見たのじゃ! あ、すまぬ。今はそれどころではないわい。詳しい事は後でゆっくりと聞くのじゃ」
興奮気味に叫ぶひなを放置し、わたしの視線は地に伏している小林から離せない。
鬼神<ルシフェル>は完全に姿を消し、生身の男だけがクレーターの中に横たわっていた。
……良かった。生きてる。鬼神と邪気だけを斬る様に念じて『技』を使ったのが成功したのね。
沢山の黒服らによって、担架に担ぎ出される小林。
服もボロボロで、ほぼ裸。
目も虚ろではあるが、呼吸も確認できるので、命に別条はないだろう。
すぐに救急救命士らしき女性が医療器具を持って、小林の元に走ってきている。
……今なら、小林さんと話せるかも! わたし、言いたいことがあるの。
「ひな。わたし、<無銘>から降りる。小林さんと話したいの」
「お、お姉さま。まだ危ないのじゃ! 小林が暴れ出したら、どうするのじゃ!?」
わたしが、小林と話すから機体を降りると言い出すと、ひなは大声で反対しだす。
既に戦闘不能状態だとはいえ、まだ危険だと心配してくれる。
「大丈夫。わたしの『眼』からは、邪気が完全に消えているから。鬼神だけでなく、邪神の気配も一緒に斬れたのかも」
憎しみに囚われていた小林。
そこから微かに邪神の気配を感じたのは、撃破寸前。
もしかしたらと思い、<異能力>で斬る対象として鬼神と小林を覆う邪気を選んだ。
「そうなのかや? まあ、周囲には、キヨひいお婆さまもお姉さまのお爺さまもおるのじゃ。此方は、しばし鬼神を維持しておくのじゃから、くれぐれも無理はするでないのじゃぞ?」
「もー。まるでお母さんみたいな事言わないでよ、ひな。わたし、そこまで信用無いかなぁ?」
可愛いひなとの会話を楽しんだ後、わたしはコクピットを開放。
膝を地面につけ、姿勢を低くした<無銘>からピョンと飛び降りた。
「すいません、キヨさま。病院に行かれる前に、小林さんと少しお話することはできますか?」
「む? 綾香や。何を小林と話す気かや? 勝利宣言でもするのか? お前を襲った謝罪なら、後日。神代院家からさせてもらうが……」
救急車の手配をしているキヨにわたしは、小林と話す許可を貰う。
小林は、キヨら神代院家の配下。
謝罪をわたしに対してさせようとするが、そんなのは必要無い。
……だって、どんな事情があっても、小林さんの同胞を殺したのは、わたしなんだもの。
「そんな事、俺の孫娘が言うはずないだろ、クソババァ。それに謝罪なんてのも望んでいるはずもない。綾香、ようやく吹っ切れたな。実に良い目だ」
「うん、そう。ありがと、お爺ちゃん。キヨさま、謝罪なんて必要ありません。もし、わたしに対し『借り』があると思われるのなら、ここで小林さんと話す許可を頂きたいです」
わたしは援護射撃をしてくれた祖父に感謝し、キヨの眼を見ながら問いかけた。
「……綾香。オマエ、女にしておくには惜しいねぇ。男だったら、すぐにでもひなの婿にほしいところ。いや、今からでもアタシの養子にならんか……。冗談だって、クソジジイ。さて、じゃあ話すがいいさ」
「ありがとうございます」
祖父と冗談交じりな殺気の飛ばし合いをしているキヨに深く礼をし、わたしは小林が寝かされている担架に向かった。
「小林さん、お話聞こえてますか?」
「……」
神代院家お抱えの救命救急士らしき女性から酸素吸入を受けている小林。
わたしの言葉を聞き、はっきりしない視線ながら瞬きを一つした。
「聞こえていらっしゃるようなので、話を続けます。貴方の同胞を斬り殺してしまった事、改めて謝罪します。あの時、もっとわたしに力があれば、彼らを殺すことなく無力化し、救う事が出来たかもしれません。ですが、それはわたしの修行不足が原因」
まだボンヤリとした小林の視線を受け、わたしはとつとつと話す。
自らの至らなさで、多くの命を奪わざるを得なかった事を。
「わたしは、この手で奪った命の事は、一生忘れません。いえ、忘れてはいけないと思っています。奪った命に対し、わたしが出来る事。それは忘れない事と、理不尽に奪われる命を少なくする事。より多くの人々を救うために、立ち止まらず刃を振るう事」
わたしの言葉に対し、今まで虚ろだった小林の視線が定まりだす。
彼は、じっとわたしの顔を見始めた。
「許してなんて、絶対に言いませんし、許されるなんてことも思いません。わたしは、この罪を背負って一生戦います。自分の手が届く限り、沢山の人々を救っていきます。これは、多くの人を手に掛けてしまった、わたしの原罪であり責務です」
視線が定まった小林の目元に涙の粒が見えだした。
「もし、わたしがその重圧から逃げたなら……。もし、わたしが道を誤り、力に溺れたなら……。その時は、貴方がわたしを斬ってください」
わたしは、今の思い。
償うために刀を握り続ける事を、小林に伝えた。
「一方的にお話してすいませんでした。でも、今。小林さんを殺さずに止められたのは、とてもうれしいです」
救命救急士の方から、病院に搬送する用意が出来た事を聞き、助けられたことに感謝して、わたしは小林の側を離れた。
……あ、涙。
その際、小林の目から涙が一筋流れていたのに、わたしは気が付いた。
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