第21話(累計 第94話) 悪夢を断つ刃
「さあ! かかってきなさい、小林さん。貴方の悪夢はここで終わらせてあげます!」
守護鬼神<無銘>を駆り、宣言するわたし。
巨人同士が走り回ったため、土埃が舞う中。
わたしによって右腕を切り落とされ、守護鬼神<ルシフェル>と一体化して苦しむ小林に向けて、刀を突き付ける。
……もう迷わない。必ず、小林さんを救い出す!
「ぐぅぅぅ。罪深き小娘がぁぁ。同胞だけでなく、俺にも刃を向けるのかぁ」
「ええ。わたしには罪、人を殺した罪があります。それは正当防衛であれ、忘れてはならない事。それでも、わたしは刃を抱いて、人々を守ります! 手が届く限り、すべて救う為に。まずは貴方を殺さずに倒し、そこから救い出します!!」
「お姉さま! 良くぞ、言い切ったのじゃ! 此方も、お姉さまの罪を一緒に背負うのじゃ。なんでも半分背負う。お姉さまと最初に戦った時に言ってもらった通りなのじゃ!」
わたしは、自ら犯した「罪」を背負いつつも、前に進むことを宣言する。
そこには、必ずひなが一緒に居てくれるから。
二人でなら、何も怖くない。
「ははは! その幼くも清いワガママさこそ、新たなる世代よ。殺すばかりのアタシらとは大違い。全部、救うとよう吠えたわ」
「俺たちの孫は、ジジイやババァの凝り固まった考えを超えていくのさ。いけ、綾香、ひなちゃん!」
わたしの宣言を受け、高笑いをするキヨと祖父。
すべてを救うという、わたしのワガママが気に入ったようだ。
「こ、このクソガキどもがぁぁ! 認めぬ。認めぬぞ! この俺が、何もわからぬクソガキなどに負けるなど!」
しかし、いまだ復讐と怨嗟から逃れられないであろう小林。
能面の顔から血の涙を流しながら叫ぶ。
「卑怯だと笑いたければ笑え! だが勝つのは俺だぁ! オマエらは、空を飛べまい!! このまま、上から削り殺してやる」
そして六枚羽を羽ばたかせ、砂塵まみれの強風を巻き起こしたのち、夏の空高く舞い上がった。
「ひな。この子、飛べないの?」
「脚力と各部のジャンプジェットを使えば、短時間の飛翔は出来るのじゃ」
<ルシフェル>を見上げながら、わたしはひなに機体の状況を確認する。
陸戦兵器が上空を取られれば、大抵は勝てない。
……空から爆撃されたら、手の打ちようがないわ。斬撃も上まで飛ばすのは難しいし。でも、ジャンプできるなら、なんとかなる!
「さあ、死ねぇ、小娘! 神代院家も、全部消し飛べぇぇ」
小林の駆る守護鬼神<ルシフェル>。
右手からは鮮血を流しながらも宙に浮き、無事な左掌を天高く上げる。
そして、掌に巨大な光の玉を作ったかと思うと、それを更に上空へと打ち上げた。
「すべてを穿て、光の雨よ。<神なる光の雨>!!」
小林の詠唱と共に、天高く上がった光の玉が破裂。
そこから無数の光の雨が、地表へ降り注いできた。
「くぅぅ。飛ぶ余裕がない! ひな、防御お願い!!」
「のじゃ!」
ひなの詠唱で、<無銘>の頭上に魔力障壁が作られる。
まるで、滝のような雨。
いや、光の粒がガンガンと半透明な障壁を叩く。
姿勢を低くした機体の周囲。
障壁の外の地面には、いくつもの穴が穿かれていく。
「あ! お爺ちゃんや結衣ちゃんたちは!?」
「ひいお婆さまが守っておられるのじゃ。大抵の建物には障壁呪術が練り込まれておるが、こうも激しい光の嵐では長時間耐えるのはきついのじゃ」
視界を周囲に向けると、多くの人々が建物やキヨの張った障壁内に逃げ込んでいる。
しかし、障壁の無い庭の木々は光の豪雨に撃たれ、バキバキと折れていく。
「くぅぅぅ! このまま魔力勝負になったら、削られ負けるのじゃ」
ひなは、悲鳴のような声を上げる。
視線を上に向ければ、半透明な障壁にヒビが徐々に入ってきている。
……たしか鬼神を維持するのにも、ひなちゃんの魔力を使っていたはず。だったら、このままじゃ不味い。
「ひな、勝負に出ていい?」
「おうなのじゃ。此方、お姉さまのやる事なら、何でもOKなのじゃ」
わたしは背後に振り返り、ひなに許可をもらう。
もちろん、ひなは即答で承認してくれた。
「一気に上空までジャンプ、あの鬼神を真上からぶった切るわ」
「了解なのじゃ。ジャンプジェット、予備加熱良し。脚部構造強化もOKなのじゃ」
サブモニターに、<無銘>の状態が表示。
魔力残量がどんどん減る中、足回りの表示が変更される。
「いっけぇぇぇ!」
「ジェット全開なのじゃぁぁ!」
中国武闘で言う震脚。
歩法「縮地」に使う脚力を一気に開放。
更には魔力ジェット推進による加速。
すさまじい加速Gを生み出して、<無銘>は空に舞う。
「飛んでくるか、小娘。しかし、こちらは更に上へ上れるぞ」
光の雨を弾きつつ、上昇する<無銘>
あと少しで小林の<ルシフェル>に迫ろうとするも、<ルシフェル>は崩れかけた羽を動かして更に上空へ逃げる。
「も、もう一歩ぉぉ!」
「お姉さま、障壁を足場に<虚空縮地>をするのじゃ!」
ひなの一言。
それと同時に、目の前に平らな足場。
魔力障壁で作られた足場が見えた。
「うぉぉぉ!」
ガシっと脚を障壁に絡ませ、そのまま一気に脚力を解放。
魔力ジェットを最大噴射させて、もう一歩。
更なる上空へ跳躍をした。
「な、ば、バカなぁ!」
驚愕する<ルシフェル>を追い越し、その頭上遥か高くまで舞い上がる<無銘>。
そこは光の雨も降らず、雲すらない蒼穹。
紫がかった青のみの空。
……綺麗。
世界の美しさに一瞬目を奪われる。
こんな世界だから、わたしは守りたい。
……あ、今はそんな場合じゃないわ。
一瞬の浮遊感の後、<無銘>の巨体が重力に引かれだした。
「いくよ、ひな。奥義。一の太刀<雲耀>!!」
「おうなのじゃ!」
重力の力を借り、<ルシフェル>の頭上から叩きつける一撃。
防御を全く考えない、上段からの真向唐竹割り。
「そんな簡単な一撃、避ければ……。な、何ぃ! 機体が動かぬ!!」
「此方の存在を忘れたお主の負けじゃ、小林。不空羂索観音菩薩 捕縛呪。五色の羂索からは、何人をも逃れらぬのじゃ」
<ルシフェル>の周囲には虚空から発生した五色の縄が現れ、鬼神の身体を幾重にも縛り付け、空中に固定した。
「ちぇすとぉぉぉ!」
「ぐぉぉぉ」
わたしの放った一撃は、<ルシフェル>を真っ二つに切り裂いた。
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