第19話(累計 第92話) 仇を追う刃
「今日は本当にすまなかったねぇ、綾香。まさか、小林がまだ例の事件を引きずっていたとは……」
陰陽道の宗家、神代院家の屋敷。
いつも案内される座敷に座った途端、わたしはひなの曾祖母、キヨに謝罪されてしまう。
一族の配下である小林が、わたしに対して再び無礼をしたことについて。
「お気になさらずに、キヨさま。わたしが彼の立場であれば、恨んでもしょうがないと思いますから」
給仕してもらった茶を飲みながら、わたしは気にしていないと返す。
わたしが、小林の同僚を殺したのは事実。
そのことに対し後悔はしていないが、忘れてもいない。
……奪った命、助けた命は絶対に忘れちゃダメね。
「まったく困った男なのじゃ。お姉さまに恨み言をいう暇があるなら、己を鍛えて真の仇。邪神に挑むのじゃ!」
「ひなちゃん。流石にそれは無茶を言ってますわよ」
「そうだよねぇ。アタシら一般人には、どーにもならんのには違いないけど」
わたしの膝の上に強引に座り、小林に文句を言うひな。
そして、ひなに苦言を言う結衣と葵。
毎度、姦しい関係だ。
「ババァ、部下の管理はしっかりしておけ。未練がましい男は見苦しい」
渋い顔で茶を飲む祖父。
ここぞとばかりにキヨを責めるのだが、キヨはどこ吹く風。
まったく相手にしない。
「そういえば、結衣と言ったか。この度は、ひなの事でそちらの家に世話になった。ありがとう。しかし、大手銀行が『闇』。人知れず『裏稼業』で暗躍していた呪術家に肩入れは、我ながらどうかとも思うのだが?」
「いえいえ、キヨさま。わたくしの家としましても、かのような由緒ある家と懇意にさせて頂くのは、利があってのもの。とはいえ、わたくし個人は、単純にひなちゃんのファンなので」
キヨからの意味ありげな礼に令嬢の姿を崩さず、わたしの膝上に座るひなの頭を優しく撫でる結衣。
わたし相手だと子ども扱いするなと怒り、最近はなかなか撫でさせてもらえないのに大違いだ。
……結衣ちゃん、大人だよねぇ。キヨさま宛に、虎屋の羊羹を持ってきてたし。
ひなから、キヨが甘党で羊羹が好きな事を結衣が聞いていたのを、わたしは思い出していた。
そういえば、暴力団は暴対法で銀行取引出来ないが、呪術師の家はどうなのだろうか?
呪殺は、科学的証拠がないため法律で裁けないのだが。
「さて、話はこのくらいにして、今日もしごいてやろうかね。」
「わーい。此方、今日こそは、ひいお婆さまに全勝するのじゃ!」
キヨが、にんまりと人が悪い笑みを浮かべ、そこに対しひなは挑みかかる。
「綾香。今日こそは、クソババァをぎゃふんと言わせろよ」
「はーい、おじーちゃん」
祖父もノリノリで煽ってくるので、わたしも合わせる。
「ゆいっち、今日は良いモノ見えそうだね」
「楽しみですわ、うふふ」
友人らからも期待の声を受け、わたしは気合を入れた。
◆ ◇ ◆ ◇
屋敷の裏手にある訓練場へ移動したわたし達。
葵と結衣の前で守護鬼神を披露した。
「かっこいー!」
「お見事ですわぁ」
友人二人が見上げてくるのを、ようやく装甲が付いたコクピットのモニター越しに見る。
「ちゃんと外の風景が見えるし、声も聞こえるわ」
「うふふ。此方頑張ったのじゃ! 元ネタの漫画や昨今のロボアニメを参考にしたのじゃ」
すっかり鎧武者らしくなった<無銘>。
鬼面のマスクも中々に凛々しい。
「ひな、綾香。さあ、行くよ!」
上品な和服姿ながら、腕組をして小さな背を伸ばしてドヤ顔のキヨ。
自身の守護鬼神<シュラ>を呼び出し、六本の腕に持たせた武器を軽くぶつけ、カチンと音を鳴らす。
「参ります!」
「行くのじゃ!」
いっきに踏み込み。
地面に大きな窪みを作り、土煙を立てて前にダッシュ。
右手にマチェット型の長剣を構え、間合いに踏み込む。
「ふん!」
「甘いわい!」
<無銘>の横凪ぎ斬撃を簡単に打ち落とす<シュラ>。
だが、わたしも負けていない。
「なんおぉぉ!」
「おや?」
刀は地面に打ち落とされるが、間合いはさらに近づいている。
手が六本あっても脚は二本。
前に踏み込んだ<シュラ>の軸足に重心が移っているのを確認。
その足首にローキック気味の足払いを叩き込み、<シュラ>の巨体を浮かす。
「トドメ!」
「……参った。『足がらみ』を知ってるとは、お見事」
上手く技が決まって転倒する<シュラ>。
その頭部に左手で軽くチョップを落とし、わたしは勝利した。
「ふぅぅ。お爺ちゃん、やったよ」
「うむ。剣道では反則だが、警察剣術や実戦ではあり。上手く決められたな。よしよし」
わたしは溜めていた息を大きく吐き、観客席で満面の笑みを浮かべていた祖父に<無銘>の左手でVサインを返した。
「さて。じゃあ。次は手加減無しに術を絡めるよ。ひな、綾香。準備は良いかい?」
「は、はいです! ひな、 術対策はお願い」
「了解なのじゃ」
そして第二ラウンドが開始されようとしたとき。
「その勝負待ったぁぁ!!」
訓練場の周囲、観客席から男性の大きな声が響く。
「小林! 今、お前は門番の仕事中では無いか? 持ち場を離れてどうした」
「キヨさま。もう、俺は我慢できませぬ。この小娘を倒し、同胞。家族の無念を晴らさねば」
声を上げたのは、小林。
すっかり血走った眼をしており、正気とも思えない事を話す。
……家族? わたしが斬ったのは、魔神兵になった人だけど……。
「オジサン、逆恨みはみっともないよ。恨むべきは、そそのかした邪神でしょ? あやっちは被害者だって」
「葵さん、気を付けてくださいませ。あの方、明らかに正気を逸してますわ」
葵は小林に食って掛かるが、結衣が制する。
「ひな。あの人、おかしいわ。さっきまでも変だったのに、今はもっとおかしい。魔力も増大しているの」
わたしの「眼」には、小林の身体から激しく昇る魔力が見える。
その量は。キヨにも劣らぬ量。
以前対峙したときとは大きく違う。
「うむ。瞳孔も小さく成っておるし、いかな夏とはいえ、発汗が異常なのじゃ。もしや、あの『薬』を使ったのかや?」
「え!? じゃあ」
ひなの指摘で再度小林を見ると、身体状況も普通ではない。
モニター映像を拡大してみると、真夏の日中ではあるものの、瞳孔が針の孔ほどのにまで縮小。
頭髪までずぶ濡れになるほどの発汗。
明らかに異常だ。
「ふははは! もう、俺はキヨさまよりも。いや、この世の誰よりも強い。この力で仇の小娘も邪神も皆殺しにして、神代院家を正しい姿に戻すのだぁぁ!」
「小林、大人しくしろ! う、うわぁぁ!!」
懐から白い錠剤らしきものを大量に取り出し、まるでラムネ菓子の様にボリボリと貪る小林。
大言を言い放ち、取り押さえようとした黒服の男たちを振り払う。
「さあ、いでよ。我が守護鬼神!」
小林は自らの親指に噛みつき、出た鮮血で地面に召喚陣を描く。
そして、高らかに鬼神の名前を叫んだ。
「<ルシフェル>! 我と同化し、門前の悪鬼を倒すのだ」
お読み頂き、ありがとうございます。
面白い、続きが読みたいと思って頂けたなら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけたら、とっても嬉しいです^^
皆様の声援が、作品を書き続ける原動力となります。
なにとぞ、今後とも応援を宜しくお願い致します。




