第15話(累計 第88話) 切り離せぬ魂
事件を受け、学校は閉鎖。
夏期の特別授業もすべて中止となり、わたし達はいきなり夏休みに放り出されてしまった。
そんな休み二日目、わたしは警察庁へと出向いている。
「綾香ちゃん、今回はありがとう。おかげで貴女の学校では死者が出ずに済んだわ」
「ですが、他の学校でも同時に魔神関連の事件が起きてしまうなんて……」
冷房の効いた総合庁舎2号館19階、『特対室』のオフィス。
警視正は、わたしに対し労いの言葉を与えてくれる。
……警視正、いつもよりも化粧が濃いわ。事件対応でお疲れなのね。
わたしが、母校で最悪の事態を防いだ同日のほぼ同時刻。
母校を含めて全国三か所の中高校において、同時多発的に事件が発生。
後に『血の終業式』と名付けられた悲劇が発生した。
「事件を防げなかったのはわたくし達、大人の責任。綾香ちゃんが気に病むことではないわ。それに、綾香ちゃんのおかげで唯一、被疑者を生きたまま確保することができたもの」
事件が起きたのは、関東ではわたしが対応した母校での事件を含めて二件。
関西地方で一件。
どの事件も突然学生が暴れだし、周囲の人を襲いだした。
「ですが、他二件は全て被疑者が亡くなり、周囲の学生にも犠牲者が……」
「関西の件、まさか、再びバフォメットが出るなんて事は上層部でも想定外よ。それに暴れまわる様子が動画で流れてしまったのも失態ね」
関西の事件では、中学三年生男子が下級魔神、バフォメット種に変貌。
校舎を火炎系魔法により完全破壊。
更には、学生を多数惨殺したのちに、SATとの戦闘になる
その後、魔法も使う『彼』を警官隊は制圧することができず、最終的に遠距離から大型ライフル狙撃により射殺された。
……あまりに凄惨な現場に、捜査員もPTSDになったとの報道もあったわ。
「関東でのもう一件。獣化して、暴れまわったのそうなのじゃが、こちらは捕縛した際に死んでしもうたのじゃ……。悲しい事に体温上昇と高ストレスに心臓が耐えられなかったのじゃ」
関東でのもう一例。
高校二年生の女子生徒が獣人化し、野獣らしき姿に変貌。
理性のないまま、するどく伸びた爪と牙で人々を襲い、多数の死傷者を出した。
こちらは、網や刺股で抑え込んでなんとか生かしたまま捕縛。
しかし、捕縛直後に彼女は突然死をしてしまった。
「わたしが現場にいたら、もしかしたら助けられたかも……」
「お姉さま。悲しい事じゃが、おそらくは無理なのじゃ。バフォメットに完全に乗っ取られてしもうた時点で、魂は壊れているのじゃ。切り離すことも残念ながら不可能であろう」
ひなは、苦渋の顔でバフォメットになってしまった犠牲者を救う事は出来なかったという。
確かに、警察で戦ったバフォメットらに理性は無く、ただただ暴れるだけ。
その上、殺せば死体すら残らなかった。
「わたしに、もっと力があれば……。何処にでも行けて、皆を救える力があれば……」
「それはお姉さまが全部、背負い込む事ではないのじゃ。此方やお母さま、皆で背負うものなのじゃ。お姉さまは立派に人々を救ったのじゃ! それを誇るべきなのじゃ」
あまりの無力さに落ち込むわたしの手を、小さくとも暖かい手でぎゅっと握り慰めてくれるひな。
誰もが事件の悲惨さ。
そして命が多く奪われ、救う術すら無かったことに、悲痛な表情を浮かべる。
しばし、陰鬱な沈黙が「特対室」オフィスに広がった。
「あれ? だったら、俺の存在はどうなるんすか、姐さん。俺は完全にグレーターデーモンと一体化してるんすけど? もしかして、デーモンを切り離せるんすか」
そんな時、話を横で聞いていた和也が空気を読まない発言をする。
グレーターデーモンになった自分はどうなのかと。
……いや、これは暗い雰囲気を変えるためにワザとボケているのね。ありがと、和也さん。
「そこは、ひなや綾香ちゃんの方が分かるかも。二人とも。和也くんをどう『見る』?」
警視正も今の雰囲気を嫌い、和也の話題に乗る。
そこに、わたしもひなも異存は無かった。
「うーん。和也さんのオーラ、完全にゆらぎがないし、一人分ですね。普通の人よりも多いですけど、魔神の雰囲気は感じないです」
わたしは和也をじっと見たが、これまで魔神に憑依されたり変化してしまった者たちとは大きく違う。
こと魔神化していない今、大きな魔力は感じるものの、魔神の気配。
瘴気を一切感じない。
「此方もお姉さまと同じ意見なのじゃ。和也お兄さまは、グレーターデーモンを逆に乗っ取った感じじゃな。もう魂ごと一身一体じゃから切り離すのは、無理なのじゃ」
「やっぱりそうなのね。昔の漫画でいうところの『デビルマン』。魔神に乗っ取られるんじゃなくて、逆に魔神の力を乗っ取り、自分のものとした。そこは誇ってもいいわ、和也くん。貴方は魔神に打ち勝ったの」
「おお! 俺ってば、正義のヒーローになったんすね。俺、自分はすべき事が初めて分かった気がするっす。そうか、これが俺の使命なんすかぁ!」
警視正、和也に魔神とは切り離せないと言いはするが、魔神による憑依に勝った彼を褒める。
和也も、もう普通な人間に戻れない自分を嘆くでもなく、あっけらかんとヒーローになったと宣言した。
「和也さん、強いなぁ」
つい、わたしは自虐してしまう自分と、運命を受け入れた和也を比較してしまった。
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