第14話(累計 第87話) 斬るべきは悪意のみ
「誰か、居ますかぁ!?」
階段を駆け上がり、三階。
三年生の教室があるフロアーに向かう。
そして周囲に呼びかけた。
「う……。こ、これは!?」
廊下や階段には、多数の血痕が飛び散る。
そして幾人もの生徒、教師が廊下や教室に倒れ伏すのが見えた。
「大丈夫ですか!? しっかりして」
近くに倒れていた女子生徒に駆け寄る。
彼女は腕から血を流しており、意識がないように見える。
顔に耳を近づけ呼吸を確認、首筋に指を当てて鼓動を確かめた。
「……呼吸も脈動も問題無し。意識を失っているだけね」
他の生徒を見るに、大出血をしているものはおらず、身じろぎをしている者が大半。
すぐに命の危険がある者はいないと感じた。
……皆、生きてはいるみたい。でも、このくらいの傷で気絶するかしら? あれ? 精気があまり感じられないの。
まだ火災報知器からのサイレンが鳴り響く教室。
血濡れた床や壁、普段とは全く違う風景。
一旦、生徒から離れ、周囲に視線を向ける。
まだ、近くに「敵」がいる。
「犯人さん、何処にいるのかしら? もう人を襲わなくても良いです。大人なしく投降してくれれば、危害は加えません。早く出てきなさい!」
胸元から特殊警棒を引き抜き、勢いよく振って伸ばす。
周囲への警戒を最大限にし、いつでも攻撃態勢に移れるよう、姿勢を低くする。
……もう逃げた!? いや、まだ視線を感じる。何処!?
教室、濃い血の匂いが漂う中、周囲をゆっくり見回す。
カーテンや倒されたロッカーの影。
敵は、この教室内にいる。
間違いなく、襲う隙を狙っている。
「……ふぅ。気のせいか。次の教室を探してみましょう」
わたしは、ワザと背を向け、教室から出ようとした。
「キシャァァァ!」
奇声が後ろから響く。
急いで振り返ると、女子生徒が長く伸ばしたカッターナイフを構えて飛びかかってきた。
「罠にかかったわね! ふん!」
大きくバックダッシュ。
廊下まで飛び下がったわたしは、女生徒と対峙した。
「グルゥゥゥイ!」
獣じみた声をあげ、カッターを持った右手以外を床に着け四足歩行を見せる彼女。
長い髪を振り乱し、白目部分が真っ赤に染まっている。
「正気じゃないの!? もう、辞めなさい。さもないと……」
特殊警棒を突き付け制止を呼びかけるが、唸るばかりで行動を止めようとしない。
「これ、どうしたら……」
わたしの脳裏に、かつて制圧時に殺す寸前まで言った男性の事が浮かぶ。
ひなを含め四人で行ったファストフード店で暴れた男。
彼も奈良原の作った薬物で精神が破壊され、脚を折ってでも動きを止めようとしなかった。
「この子も痛めつけて、最後に殺すしかないの……。きゃ!?」
一瞬の躊躇を見逃さない女子生徒。
壁を使って立体的に飛びかかってくる。
思わぬ角度からの攻撃を避け切れず、半袖制服から伸びた左手上腕部にカッターが掠った。
「い、痛い! え、力が抜ける……。ど、どうして?」
ほんの数ミリ、血が少し垂れる程度のかすり傷。
普段なら何も感じないはずなのに、激しい痛みと脱力感を覚える。
「こ、これ? 廃病院の奴と同じ攻撃? じゃあ、魔神??」
いきなり襲ってきた脱力感。
それに、わたしは覚えがあった。
廃病院に巣食っていた名も無き低級魔神。
それは、獲物から精力を吸い、この世界に存在する力と変えていた。
「もしかして!?」
一旦、女子生徒から距離を取り、数回顔を見たことのある彼女を良く「見る」。
すると、彼女の周囲に、魔神の気配をはっきりと感じた。
「そうか。これ、魔神が憑依しようとしている途中なんだ。だったら!」
まだ完全に魔神化をしていない女子生徒。
そして彼女の周囲、ことカッターナイフを取り巻く邪気が強く漂う。
……他の子たちは、切り付けられたときに大量に精気を吸われて、意識を失ったのね。
「女の子に取り憑いて精気を吸うなんて、最低……! ここは貴方が居て良い世界ではありません。とっとと自分の世界に帰りなさい! さもないと、貴方を斬り捨てます」
女子生徒を取り巻く邪気に警告をするわたし。
しかし聞き分ける筈もなく、女子生徒は唸り声をあげ、飛びかかってきた。
……斬るべきは……。魔神のみ!
「やぁぁ!」
女子生徒と一瞬の交差。
彼女の持つカッターの刃が、わたしの髪を数本切り飛ばす。
……手ごたえあり!
わたしの背後に着地した女子生徒。
一瞬、痙攣をした後。
バタリと床へと倒れ伏した。
「このカッターが依り代ね。滅べ!」
女子生徒の手からカッターナイフを蹴り飛ばした後、『切断』の力を乗せた特殊警棒の一撃を振るう。
「……!!」
超音波らしき音を放ち、カッターナイフが砕け散る。
魔神らしきモヤが一瞬立ち上ったかと思うと、黒いチリとなって消え去った。
「……今のところ、この階には追加の敵意なし。ふぅ、なんとか死人を出さずに終わったかな? そうだ」
しばし残心をして警戒の後、悪意を感じなかったわたし。
スマホを取り出し、急ぎ警視正に電話をした。
「すいません、警視正。既に学校での事件の事は聞いているかと思いますが、犯人を殺さず制圧しました。多数の怪我人が出ています。傷の大小もありますが、精力を軒並み吸われています。救急車の追加と霊的治療が出来る病院の手配をお願いします」
その後、結衣らに手伝ってもらい、わたしは怪我人の止血・救命活動を行った。
「とんでもない、夏休みの開始になっちゃったわ」
血塗られた夏休み。
わたしは、まだ事件が始まったばかりだと思い、憂鬱になった。
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