第13話(累計 第86話) 学び舎を切り裂く狂気
「そんな事があったんだ。で、どうしてアタシらに事件の事を話してくれるの?」
「普通なら捜査情報を他人に話すのはダメだんだけど、今回は学校で起きそうになっている事件。で、葵ちゃんや結衣ちゃんには、迂闊に事件に首を突っ込んで欲しくないから、先に説明したの。あ、警視正には話す許可は貰っているわ」
「それだけ信用して頂き、嬉しいですわ、綾香さん。しかし、わたくし共の近くまで薬物汚染が迫っているのは恐ろしい事ですの」
「此方も注意しておくのじゃ。流石に此方の小学校までは、来ぬとは思うのじゃが、中学受験を考える者が飛びつく危険性もあるかもなのじゃ」
今日は、久しぶりに四人。
ひな、葵、結衣と結衣の家に集まって女子会を開催している。
しかし、どうしても話題は身近で起きた事件の話になってしまう。
……ひなちゃんの警護をしている方も、結衣ちゃんの家ならと安心してもらっているわ。たまには、ひなちゃんにも息抜きが必要だしね。
ひなは、ご機嫌な様子で結衣の膝に座り、髪を結い直してもらっている。
結衣も、優しい表情で久しぶりに会ったひなを可愛がっている。
「お母さまから聞いたのじゃが、その『薬』。和也兄さまも飲まされていた物と同じラベルじゃったそうじゃな」
「ええ。わたしも和也さんが確かめる現場にいたんだけど、そうね」
警視正が問題の「薬物」を見た時、表面に彫られているマークに気が付き、和也に現物を見せた。
「これ、俺が魔神と同一化される前に何日も飲まされた奴と同じパッケージだ!? まだ、出回っていたのかよぉ」
和也によれば、「薬物」を飲めば世界が広がる感覚、そしてこれまで感じたことのない集中力を感じたらしい。
「え!? それじゃ、薬物事件の後ろに、まだアイツらがいるの?」
「その可能性は否定できませんですわね、葵さん。パッケージが同じであれば、同じプラントで製造したもの。鷹宮『元』議員の所有する関連会社で作らせたものでしょう。それに邪神たる執事、奈良原は逃亡していますし」
事件解決に協力してくれた葵や結衣にも、帝都怪獣降臨事件と呼ばれているものの大方は説明済み。
背後に邪神「這いよる混沌」の暗躍がある事までは、警視正からも関係者だからと伝えてくれた。
……普通、こんなことを信じないし怖がるはずなんだけど、二人とも受け入れて正しく警戒してくれるのが嬉しいわ。
「そうであれば、再び此方が戦う事になるのじゃ。もう、此方は躊躇しないのじゃ。結衣お姉さまや葵お姉さま、そして綾香お姉さまと一緒なら、此方無敵なのじゃ!」
ひな、結衣によって髪型がくるくると変えられる。
ポニーテールだったり、ツインテール、ハーフアップ。
どのひなも十二分に可愛い。
「今、魔法ロボを呼出して訓練しているんだって? 今度、アタシらにも見せてね、ひなっち」
「そうですわねぇ。夏休みに、ひなちゃんのご実家にご挨拶に行くのも良いですわ。当家もおせわになっておりますし」
こんな怖い状況でも、笑みを忘れずに接してくれる葵と結衣。
感謝しかない。
「本当にありがと、二人とも。でも、くれぐれも自分から危ない事には首を突っ込まないで。何か見つけたら、わたしか警視正に連絡してね」
「一番危ない事に首を突っ込む綾香さんに言われては、しょうがありませんですわ。当家でもヤクザ関係には注意しておきます」
「アタシんちでも、盛り場情報には気をつけておくよ。シャバを荒らす様なヤクザにはこりごりだもの」
わたしの注意を聞いてくれているのか。
それでも、自分が出来る範囲。
危険が迫らない範囲での情報収集をしてくれるという二人。
「お姉さま方、此方はお姉さま方も守りたいのじゃ。くれぐれも無理はするで無いのじゃ!」
自慢の栗毛が結衣により編み込み髪になっているひな。
立ち上がり、ドヤ顔で皆の無事を祈る。
「という事で、怖い話題はこれまで。次は夏休みの計画をしようね。海とかキャンプとかどうかしら?」
「此方、海で泳いだことは、まだ無いのじゃ!」
「これは水着のコーディネイトも必要ですな、ゆいっち」
「ええ、葵さん。今や、警察庁の魔法美少女アイドル。ひなちゃんを可愛く着飾れるのは身内の特権。是非、頑張りましょう」
その後は、女四人そろって姦しく賑やかな事になった。
◆ ◇ ◆ ◇
「今日で一学期も終わり。くれぐれも嵌めを外さないようにな。なお、夏季の特別授業も二年生からはある。夏休みでも、学校には来いよ!」
終業式後のホームルーム。
担任教師からの注意事項が説明されるが、浮かれまくったクラスメイトは話を聞いていない。
これは、先生がお怒りになるかなと思って居た瞬間。
ジリジリと大きな音が天井スピーカーから響く。
「火事!?」
「うそ、何!?」
「誤警報?」
「皆、落ち着け。すぐに非難できるよう、準備を!」
火災報知器の音が学校内に響き渡る。
担任教師は慌てながらも、全員に避難準備を呼びかけた。
「あやっち、これは!?」
「葵さん、落ち着いて。今は先生の指示に従い、避難準備を。綾香さんもですわ」
教室内は騒然とする。
窓から隣の校舎を見るも。煙が上がっている様子は見られない。
「もうすぐ火災現場が何処か放送がある。現場から遠い経路を使って、一旦運動場へ避難する。上履きのままで構わんからな」
教師は、案外と的確に指示を飛ばす。
もしかすると、避難マニュアルがちゃんと作られていて、それに従っているのかもしれない。
「緊急放送です。ただいま、三年C組の教室で事故が発生。火災ではありませんが、皆さん速やかに運動場へ避難してください! 緊急放送、ただいま……」
天井スピーカーから事故の状況及び避難勧告が告げられる。
……三年C組の教室って、ちょうど真上の階!? ガスも無いのに、何が起こったの? 電気事故?
わたしは一瞬疑問に思うも、今は逃げるのが優先。
スマホと財布、後は懐に隠し持った特殊警棒だけ確認し、他の荷物は机に置いて席から立ち上がった。
「皆、慌てずに階段から降りるぞ。押し合いなどするなよ」
担任教師を先頭に、廊下に出る。
しかし廊下は、沢山の生徒でごった返しており、中々前に進まない。
スマホをかざし撮影する呑気な男子生徒も居れば、青い顔で泣きそうになっている女子生徒もいる。
わたしは、集団に流れにそって階段に向かおうとしたが……。
「きゃぁぁ!」
絹を裂くような女子生徒の声が階段の方角から響いた。
そして、夏服を血に濡らした女子が一人、階段から走って逃げくるのが見えた。
そして、彼女は混雑している集団の手前で廊下に倒れ伏す。
誰もが驚きと恐怖の声を上げ、倒れた血濡れの女子生徒から離れていった。
「しっかりしてください! い、一体何があったんですか?」
わたしは遠巻き状態の人ごみをかき分け、廊下に倒れる女子生徒に駆け寄る。
「同じ組の女の子がいきなり暴れ出して……。カッター振り回して……。後は何がなんだか……」
そして彼女に声をかけると、女子生徒が暴徒となって刃物ざたを起こしているとの事。
わたしは深呼吸をした後、落ち着いて抱き起こした女子生徒の身体を確認。
幸い数か所ある切り傷はどれも浅く、止血も可能な範囲。
大半が他人からの返り血と判断した。
「先生! この子の止血を直接圧迫法でお願いします。結衣ちゃん、警察と消防へ一報を。葵ちゃん、警視正に直接連絡を! 他の人は落ち着いて避難を!」
「お、おう」
わたしは、負傷した女子生徒を担任教師に任せ、そのまま上の階へと走って向かった。
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