第12話(累計 第85話) 日常を切り裂く影
「おはよう、葵ちゃん、結衣ちゃん」
「おはよー、あやっち」
「おはようございます、綾香さん」
夏休み前の登校。
高校に向かう途中の道で、親友と合流。
たわいもない会話で、学校までゆっくり歩く時間がとても愛しい。
「あやっち。最近ひなっちはどうしてる? 一時期はテレビで毎日見てたけど、このところはマスコミも大人しくなったから、大丈夫かなって思って」
「心配してくれてありがと。まだ、小学校では腫物を触る感じって言ってたわ。ギャング世代の子たちからすれば、異質なものは嫌われるからね」
「どうしても、目立つ人はイジメの標的になりがちですものね。わたくしも覚えがありますの。ひなちゃんの場合は、今は恐れの方が多いですから攻撃は少ないでしょうが……」
と言いつつも、最近はどうしても、わたしやひなの現状が話題になる。
わたし自身も一時期はマスコミに追われ、高校に通うのも一苦労だった。
……今も柱の影とか、高層マンションからの視線をいくつも感じるんだけどね。マスコミだけでなく、警察庁の監視もありそう?
「わたしの場合は、二人が助けてくれたから、普通の学園生活を送れているけど、ひなは大変みたい」
「それは良いって事よ。あやっちには、随分助けてもらったし、正義の味方を助ける仲間ってのもカッコいいしね」
「わたくしは、文字通りの命の恩人ですもの。先日、道明さまともお会いして、お礼を直接言えました。今後とも、我が福沢家は全面的に綾香さんをサポートしますわ」
二人とも、わたしを間に挟み、周囲の視線から守ってくれている。
本当にありがたい友人だ。
「ありがとー、二人とも」
「きゃ、通学路で抱きつきは禁止ぃ」
「もう、綾香さんってば。乙女がはしたないですわ」
学生カバンを持った両手をいっぱいに伸ばし、わたしは二人に抱きつく。
そして一生懸命、感謝をした。
なお、後日。
警視正から、マスコミや警察SPの撮影した、わたしが二人といちゃつく映像を見せられ、発表前に停めたけれど公道で恥ずかしい事しないでと怒られてしまった。
……もー、わたしのプライバシーは何処ぉぉ!
◆ ◇ ◆ ◇
「さて、期末試験も終わり、舞い上がっている者も多いが、高校二年生の夏休みは、大学入試前の大事な時期。勉学に励んで、くれぐれも嵌めを外しすぎぬ様に」
帰宅前のホームルーム。
教壇から担任教師から、夏休み前の注意事項が話される。
しかし、クラス内は期末試験が終わり、すっかり浮ついた雰囲気だ。
「最後にこれは、教育委員会から流れてきた話だが、近隣の学校で違法薬物使用があり、逮捕者も出ている。なんと、小学生にまでも汚染が進んでいるそうだ。お前ら、くれぐれも興味半分で手出しするなよ、人生を台無しにして、親御さんを泣かせるな」
「あやっち、警視正から、この手の話を聞いてる?」
担任教師は、最後に学校での薬物汚染を語る。
恐ろしい事に小学生にまで、違法薬物が手を伸ばしているとのこと。
横の席に座る葵から、小声で訪ねてきた。
「ううん。守備範囲が違うから何も聞いていないわ」
「そうですわよね。薬物犯罪ですと、管轄は厚生労働省。都内の通常犯罪ですと警視庁の範囲。更には未成年犯罪ですと、生活安全課の少年係が担当。オカルト案件がメインの綾香さんのところには、話は来ないはずですわ」
背後の結衣が葵に、警察の管轄範囲を説明してくれる。
……わたしも、この辺りは去年まで詳しくなかったの。警察庁と警視庁の区別もつかなかったし。もちろん、今は分かってるわ。
「おい、そこのかしまし三人娘! 私語は慎みなさい。あ……。そ、それとだな、橘。君は後で職員室に来なさい」
叱られてしまう三人だが、何故かわたしだけ職員室に呼ばれる
「ごめん、あやっち」
「わたくしも、申し訳ありませんですわ」
「ううん、大丈夫だから気にしないで。でも、先生。何の用事なんだろう?」
謝る二人に気にしないでと伝えるが、急に真剣な表情になり言いよどむ担任教師の様子に、わたしは違和感を感じた。
◆ ◇ ◆ ◇
夕日が入り込む中央合同庁舎第2号館。
その十九階に、わたしは脚を運んだ。
「警視正、お話宜しいですか?」
「ええ、良いですわ。今日は一人なの?」
学校からの帰り。
わたしは地下鉄を利用し、学校制服のまま直接警察庁。
警視正が仕事をしている「特対室」の部屋へと向かった。
「はい、学校から直接来ましたので。実は学校から相談を受けまして、内々に調べてくれないかと……」
わたしは職員室……、ではなく校長室に呼ばれて相談された内容を警視正に話し出した。
「警視正は、最近学生の間で流行っている違法薬物の件はご存じですよね?」
「ええ、もちろん。管轄違いではありますが、耳には入ってます。……、まさか、綾香ちゃんの学校で違法薬物が?」
わたしが話し出すと、流石は警視正。
正解を自分で引き出した。
「ええ、そうなんです。ですが、まだ誰も使用する前。保健室の養護教諭に相談があったと聞いています」
わたしが聞いた話では、三年生の女子生徒。
彼女が通う予備校、そこで別の学校の女子から勧められたと。
「頭がすっきりするし、集中力が上がって、成績が上がるよって試供品を渡されたそうなんです。ですが、その子は試すのが怖くなって養護教員に相談したと……」
「つまり学校側としては、誰も薬物を使用していないけれど、周囲まで薬物汚染が迫っているから、極秘裏に対応して欲しい訳ね」
「はい、警視正。マスコミにバレますと大事になりますし、ここまで流行っている状況では所轄は当てに出来ない。で、警察とのコネがあるわたしが仲介を頼まれたわけです」
わたしとしては職務外の案件で面倒ではあるが、かといって身近に迫る犯罪を放置は出来ない。
なので、校長から警視正に話を通す様に頼まれた時に快諾をしたのだった。
……学校にはマスコミからの眼から助けてもらった恩義もあるしね。
「分かったわ。わたしから、各方面に話を通しておくね。気になる事もあるし……」
警視正は快く対応してくれるとの事だが、何か歯に挟まった様な言い方をする。
わたしは気になって尋ねてみた。
「あれ、何か薬物犯罪であったのですか?」
「まだ確証はないの。只のカンかな? はっきりしたら、綾香ちゃんにもお話するわ。で、問題の薬物の現物はあるのかしら?」
どうやら、警視正のカンに引っかかる事があるらしい。
誰かが泣くような事件にならなければいいと、わたしは思った。
「はい、こちらにあります」
わたしはプラスチック容器に入った錠剤を警視正に渡す。
「これ? まさか……。和也くん、ちょっと見てくれないかしら?」
警視正は真っ白な錠剤を見、表情を硬いものに変える。
そして、警視正とは離れたデスクでパソコンとにらめっこしていた和也を呼び出した。
……何か、大きな事件に繋がりそう?
わたしは、大きな闇が身近に迫ってきているのを想像し、背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
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