第11話(累計 第84話) 笑顔を切らせぬために
「キヨさま、参ります!」
「おう、かかっておいで」
「綾香、妖怪ババァ相手に油断するんじゃねぇぞ。ひなちゃん、相方の暴走に注意だ」
「はいです、お爺さま」
夏休み前の土曜日、午前中。
今日も、キヨのお屋敷で修行するわたし。
広い敷地内にある闘技場を借り受け、ひなが作り上げた守護鬼神<無銘>のコクピットに座り、キヨの守護鬼神と対峙する。
……警視正と和也さんは、別のお仕事ね。おじいちゃんの運転で連れてきてもらったの。
「なんだってぇぇ、このくそジジイ。アタシより二十は若いってのに、そんなに干からびちゃ、お得意の剣術も知れたものだねぇ」
「そっちこそ、そこまで言うかぁ!? 綾香、手加減はいらねぇ。婆さんごとバッサリぶった切りな」
「外野が賑やかじゃな、お姉さま」
「こっちは必死なんだけどねぇ」
キヨの守護鬼神<シュラ>。
なんでも仏教の「大自在天」がモチーフらしく、顔が三つに腕が八本。
青黒い肌の巨人が、棍棒やら剣やらを振り回してくる。
「怖いよぉぉ」
「ほらほら。逃げてばかりいないで反撃しなきゃダメだよ!」
まだ胸回り。
コクピットの周囲には装甲が無いので、剥き出し。
<シュラ>が振るってくる武器が巻き起こす旋風が直接、わたしの顔に当たってくるので、とても怖い。
……籠手とか脛当てに肩。攻撃が当たりやすい部分には装甲が付いたの。顔も怖い笑顔のマスクが付いたわ。
「いっけぇぇ!」
攻めねばと、八本の腕の合間に片手持ちの刀。
どちらかといえば、大鉈とかハチェットっぽく見える武器を割り込ませ、間合いを詰める。
そして、胴体に突きを見まうも……。
……あれ? 機体が流されちゃう!? 生身と違うぅぅ!
「まだ、甘いよ。生身とは動きが違うのを把握しな!」
「きゃ!」
ひらりと回避された上に、足払いをくらいドスンとひっ転ぶ<無銘>。
シートベルトによって宙吊りになっているわたし達の機体の背中に向けて、こつんと<シュラ>の棍棒が当てられた。
「はい、一本。生身より攻撃の威力がある分、重いから慣性の法則が働くのさ。だから、大きな動作で機体自身が引っ張られる。綾香、そこも意識して動かしな。ひな、お前も機体の重量バランス制御を考えな。パワーに振り回されてちゃ、すぐに転ぶよ」
<シュラ>に手を引かれ、立ち上がった<無銘>。
開放状態のコクピット目掛けてキヨの指摘が飛び込んできた。
「むむぅ。転げないようにするのは難しいのじゃ。原案を真似て、足の裏の接地面積をわざと減らして、重心を胸辺りにしておるのじゃが、うまくいかんのじゃ」
「そりゃ、戦闘機でいう『静安定緩和』ってやつかい、ひなちゃん? 不安定だから、動きが速くなるってのは道理。倒れこむ勢いで隙なく踏み込む歩法ってのもあるが、それは普段はちゃんと立てての事。綾香、普段やってるみていに、骨を積み上げて立ちな」
ひなの呟きに突っ込む祖父。
彼も案外と新しもの好きなのか、モノの例えに戦闘機を例に出すのは面白い。
「はい、お爺ちゃん。次は、久しぶりに一本取るよ、ひな!」
「はいなのじゃ、お姉さま」
わたしは、手落としていた武器を機体に握らせ、再びキヨの守護鬼神に立ち向かった。
◆ ◇ ◆ ◇
「ふぅ。今日も疲れたのじゃぁ」
「お疲れさま、ひな」
木々の間から木漏れ日が差し込む日本庭園の中。
ブルーシートを引いての、お茶休憩。
冷たい麦茶と小豆バーアイスを頂き、まったりとする。
……池の上を通ってくる風が涼しくて、気持ちいいわぁ。
「で、学校の方はどう? お友たちは、ちゃんとお話ししてくれてるの?」
「正直、腫れ物に触る感じじゃな。でも、露骨に怖がられるよりはマシなのじゃ」
視線の向こう側では、老人二人が楽しそうに戦っている。
……二人とも、年齢的には晩年って感じだけど、元気だねぇ。
「くそじじぃ、くたばりなぁ!」
「妖怪ババァも、逝きやがれぇ」
二人の攻撃が交差するたびに地面が抉れ、わたしとひなの方に突風が届く。
時々、二人が巻き起こした衝撃波を避け切れず警備役の黒服さんが吹っ飛ぶ。
それを屋敷から見ている当主のオジサンも困り顔。
年甲斐もなく、まったく困ったものだ。
「じゃが、お姉さままでマスコミに晒してしもうたのは、悲しいのじゃ」
「そこは気にしないで。ひなだけを、晒すのは嫌だったの」
ひなを社会の眼から守る方法として、神代院家とわたし、警察庁が選んだ方法。
それは、ひなのアイドル化計画。
隠すから探される。
なら、逆にひなが可憐、かつ無害な少女で、わたしと一緒に平和を守る存在だと世間に知らしめたらどうなるか?
……警察庁もアイドル事務所とかに聞き込みをして対応を学んだそうね。
警察庁の特殊部隊。
超常犯罪特別対策室の少女ユニットとして、ひなとわたしが公式に発表された。
直後から、わたしとひなの周囲にはマスコミが群れるようになったが、代わりに批判的な意見が減っていった。
……世間も可愛いひなの笑顔の前には、責め立てる気が無くなるよね。実際、警察庁公式ファンクラブもあるし。まあ、わたしはオマケ程度ですけど。
「お姉さま、学校で大変じゃったろ?」
「それまでも大怪我して入院を繰り返してたから、事情を知らない人には怪しまれてたの。でも、葵ちゃんや結衣ちゃんが動いてくれて、皆に認めてもらったわ」
わたしが公式発表後、学校へ行くと既に結衣が学校側に根回し済み。
葵はクラスメイトらに説明してくれており、大きな混乱はなかった。
……休み時間には、根掘り葉掘り聞きたいクラス外の子からも囲まれちゃったけどね。
「それなら、良いのじゃ。お姉さまには当てになる友人がおるので、羨ましいのじゃ。此方は……。まあ、これまで以上に距離が取られた気はするのじゃ」
だが、ひな側は、中々問題があったらしい。
思春期寸前という幼く神経質な時期の子ども達。
更にお嬢さま学校という事もあり、子ども達の親からの声は厳しい。
「PTAからは、危険な此方を追い出せという意見も多数出たらしいのじゃ。学校側は拒否してくれたのじゃが……」
ひなの学校側へは警察庁や神代院家だけでなく、結衣の家からも圧力を掛けたと聞いている。
これ以上、ひなが悲しむことが無いのを望むばかりだ。
「じゃが、これも此方が望んで行動した結果。お姉さまを巻き込んでしもうたのは後悔するのじゃが……」
「だから、気にしないで良いの。どうせ、わたしの方がファンクラブの会員数少ないし。ひなちゃんは大人気。やっぱり、可愛いは正義ね」
自虐気味に、ひなが可愛いと褒める。
……でも、ファンがアンチ化する危険性もあるのよねぇ。難しいわ。
今は好意的でも、一歩間違えれば簡単に牙を剥く。
その実例は、わたしが戦った敵。
「元」国会議員となった鷹宮 恒二の「今」で分かる。
かつては飛ぶ鳥を落とす勢いの人気若手国会議員だっだ。
しかし、今や国民全員から非難の眼を受ける犯罪者。
「あー。またちゃんで呼んだのじゃぁ。此方、子どもじゃないから、ちゃん付けは嫌なのじゃぁぁあ!」
「あ! ご、ごめんねぇぇ、ひな」
「むぅぅ。本気で謝っておらぬのじゃぁ。あ、そうじゃ! 此方もお姉さまと模擬決闘するのじゃ。お姉さまは素手、此方も鬼神は使わぬのじゃ。さあ、勝負するのじゃぁぁ!」
「ちょ。それは、勘弁して。ごめん。本当にごめんなさーい」
怒りだしたひなから、急ぎ逃げ出すわたし。
ひなも吹き出し笑いながら、呪術を放つ。
真夏の太陽を受け、神代院家の庭は、更に賑やかになった。
「たすけてぇぇ!」
「逃がさぬのじゃぁぁ!」
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