第10話(累計 第83話) 無銘の刃に魂を刻み
「さて、具体的に話を進めようかねぇ。ひな、学校に通うと簡単に言うが、それがどれだけ大変かは分かっておるんじゃろうね?」
「もちろんなのじゃ、ひいお婆さま。多分、学校の先生にも、級友にも迷惑をかけるのじゃ。それに、簡単に人を殺せるだろう此方を恐れることもあるのじゃろう。ワガママなのは、十分承知しておるのじゃ」
模擬決闘後。
再び、屋敷内の座敷に戻ったわたし達。
キヨと今後の段取りを話し始めた。
……ひなちゃん、わたしや警視正の間にくっついて座り、どっちとも座敷机の下で手をキュっと握っているのが可愛いの。
「そこまで分かっておるのなら大丈夫じゃな。次は綾香。もう自覚しておるとは思うのじゃが、お主の『切断』という異能。神にも届く刃じゃ。今後、多くのモノが御身とチカラを狙ってくるであろう」
そして、キヨの視線はわたしへと向かい、真剣な表情で問いかけてきた。
わたしは、隣から伸びるひなの小さくとも暖かい手をぎゅっと握り返す。
「じゃが、今の思い。何かを守るという事を決して忘れず、かといって切ることを躊躇するでないぞ。敵はアタシらほど甘くない。ましては、恐るべし邪神が敵じゃ」
キヨの言葉は重く、しかし愛を感じる。
「己が持つ刃の前と後ろ、その両方の命を見るのじゃ」
「はい。お言葉、肝に銘じます。しかし……」
「なんじゃ、含み笑いなどして?」
わたしの中で、キヨと祖父が被ってしまった。
二人とも同じ言葉で、わたしを叱咤激励してくれるのだから。
「すいません。キヨさまとお爺ちゃん。わたしの祖父が同じような言葉で、わたしを励ましてくれたのが、とても嬉しくて面白くて、笑ってしまいました」
「流石、綾香お嬢は大物だねぇ。おっそろしい邪神に狙われてんのに、笑えるんだからな。俺なんて、もうコリゴリさ」
「和也お兄さま、良い事を言うのじゃ! お姉さまは、とっても凄いのじゃ! いずれは邪神も真っ二つなのじゃ」
和也とひなが妙に仲良く話しているのも、わたしは面白かった。
……まるで年の離れた兄妹だよね。そういえば、和也さんの妹さんっていくつなんだろう? 和也さんが二十歳そこそこだから、まだ学校に通っているくらいだよね。
「もう、二人で褒め殺ししないでよねぇ」
少し恥ずかしくなったわたしは、改めて給仕されたお茶を飲む。
……今度は、渋みと甘味が混然としてて凄いの!
「ふふふ。綾香ちゃんが大物なのは、最初の出会いの時から思ってたわ。ひなをどうして一人で魔物退治に行かせるのかって、警官を名乗っている母親のわたしに食って掛かったし」
「警視正! あの時は申し訳ありませんでした。警視正が苦しんでいらっしゃったのは、直ぐに分かりましたから」
今度は警視正まで、わたしをからかってくる。
正直、自分でも度胸だけはあると思うが、その場の勢いと感情に流され過ぎではないかと、最近思い出した。
……でも、後で後悔するよりは絶対良いよね。ひなちゃんの笑顔を守れたんだから。
横に座るひなの笑顔を見て、わたしは自分の選択は間違っていないと自信を持った。
「で、ひな。聞きたいことがあるのじゃが、あの守護鬼神。<無銘>と名付けたようじゃが、あのアイデアは何処から得たのかや? 普通、鬼神は己の分身として呼出し、術が完成するまでの護衛役とするのじゃが?」
「うん、わたしも聞きたかったの。まるで、ロボアニメの世界なんだもん」
キヨは、ひなに<無銘>の由来を聞きだす。
どうやら、守護鬼神は術者の護衛が主任務。
間違っても、自分で搭乗して操るものではないらしい。
「うふふなのじゃ。此方、ひいお婆さまの書庫を漁って、とある漫画を見つけたのじゃ。お母さまも同じのを買っていたのを見たことがあって、ずっと興味があったのじゃ。ロボと騎士と忍者と魔法使い、神様まで出てくる奴だったのじゃ!!」
「あー!! 最近、本棚の順番が微妙に変わっている気がしてたのは、そういう事だったのかい? 最新刊をしまう時に違和感を感じたのは、ひなが読んでいたからだったとは……」
「あらぁぁ。親子四代、同じ漫画を読むなんて……」
どうやら、元ネタは漫画かららしい。
しかし、どれだけごった煮の漫画なのだろうか?
「最新刊のロボ対決がカッコよかったのじゃ! 異形のロボが、操縦士の剣術そのままに戦うのが珍しかったのじゃ。で、手足が妙に長いロボの異形具合がひいお婆さまがお使いになる守護鬼神にそっくりじゃったので、お姉さまが操縦したらどうなるかと思って、練習しておったのじゃ。まだ骨格だけじゃが、今後は装甲も付けるのじゃ!」
ひなが一生懸命説明するのを聞いているのが、可愛くて楽しい。
なるほど、操縦者の剣術を使うロボだった訳か。
「そういえば、お姉さま。どうして<無銘>という名前を付けたのじゃ?」
ロボ談議がしばらく続いた後、ひながわたしに尋ねてきた。
どうして<無銘>と名付けたかと。
「えっとね。あの子を見た時、拵えも無いし、鞘もない剝き出しの刀。まだ研ぎも甘くて、出来たばかりの日本刀に見えたの。で、名前が無いから銘が刻まれていない刀だってね。で、そのままじゃ捻りが無いから、英語読みにしてみたの」
「綾香お嬢、カッコイイですぜ! 男の子なら、燃える!」
「ええ、わたしも気に入りましたわ。ひな、お婆さま。綾香ちゃんを鍛えて、もっと強くさせましょう。あ、あの漫画の剣聖技とか使えたら最強では無いですか!?」
和也が盛り上がるのは納得するが、何故か警視正まで盛り上がる。
「それはナイスアイデアなのじゃ! ひいお婆さま、お姉さまのお爺さまをここに呼んでいいですかや? お爺さまなら、色んな技をご存じと思うのじゃ」
「いいねぇ。アイツとも久方ぶりに会ってみたいし、アタシも随分と訛ってるから、修行に良いや」
「ちょ、待ってくださいませ。わたしを放置して話を進めないでください!」
すっかり盛り上がる皆。
邪神が敵だし、この先も困った事が多いのに、何故かわたしは楽しくなってきた。
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