第9話(累計 第82話) 揺りかごを切り離して
「きゃぁぁ! 落ちる、落ちるのじゃぁぁ!」
「ひな、まだ鬼神を消しちゃダメだって」
キヨとの模擬決闘。
なんとか、わたしとひなの勝利に終わった。
ひなが術で作り上げた名前なしの守護鬼神。
わたしは、仮に<無銘>と名付けた。
その機体が今、バラバラと分解し始めている。
……金属っぽく見えていた骨格が、呪符に変わって解けていくのは、見ていて不思議ね。
「ひな。先程までの機体コントロールは悪くない。じゃが、勝負が終わった途端、気を抜いてしまうのはダメじゃぞ。残心は大事。守護鬼神は術者の念と魔力で形を作っておる。意識が散漫になれば、維持できぬぞ?」
ゆっくり<無銘>の側まで歩み寄りながら、ひなに指摘をするキヨ。
激しい戦いを終えたにしては、和服も纏めた真っ白な髪にも乱れは一切無い。
……キヨさま、やっぱり手加減してたよね。
崩壊しつつあるコクピットから落ちそうになったひな。
わたしは機体をしゃがませ、先に地面へと飛び降りる。
ひらりと膝上丈の制服スカートがなびくのを感じつつ、着地。
手を伸ばして、恐々と飛び降りてくる巫女服姿のひなを、しっかりと抱きしめ受け止めた。
「お姉さま、怖かったのじゃぁ」
「はいはい。ひなはよく頑張りました」
あまり子ども扱いすると怒りそうだが、受け止めたひなの小さな背をそっと撫で、頑張ったと褒めてあげた。
「ひな、凄かったわ。いつのまに守護鬼神を呼べるようになったの? それに、あんなアレンジなんて」
「ひなお嬢。俺、感動しました。まさか、現実でロボバトルを見せてくれるなんて!」
警視正や和也も、ひなを抱っこしたままのわたしの側まで来てくれ、ひなを褒めちぎった。
「だって、此方。ぜーったいにひいお婆さまに勝ちたかった。お母さまやお姉さまと一緒に暮らしたかったのじゃ」
手足全部を使い、全力でわたしにヒシとしがみ付くひな。
女の子らしくないとは思うのだが、しょうがない。
……無理にひっぺがすのも、かわいそうだよねぇ。
「まさか、キヨさまの鬼神が負けるなんて……」
「人が乗り込む鬼神だと? アニメかよぉ」
「しかし、あの力は我が家に必要だ……」
神代院家の現当主や、その周囲。
そこからは、ひなの鬼神に対し、あまりいい印象を感じられない。
彼らは、邪神「奈良原」に騙され、多くの人材を失ったと聞く。
……だから、ひなちゃんの力を無理にでも欲しがったのね。
「当主、ひなの事は諦めな。もう、この子は言いなりになんてならないよ。第一、アンタらでは『力』不足。呪力任せに言い聞かせるのは無理だろ」
「ぐぬぬぬ。ですが、キヨさま。今、ひなが外に出れば、マスコミの餌食。我らが保護せねば……」
キヨが当主にひなを諦めろというのだが、まだ納得できない彼。
ひなを守るからと理由をつけ、まだひなを家に閉じ込め、縛りつける気でいる。
なので、わたしは言い返した。
「ご当主。わたしはキヨさまと決闘をし、勝ちました。ですから、約束通り、ひなの願いを認めてあげてください」
「だが、その約束はオマエとキヨさまの間の事。我が家の事は……。ぐぅ!」
それでも文句を垂れるので、わたしが怒ろうとするが、先にキヨがキレた。
「当主、アタシが決めた事を守らないのかい? 第一、アンタは守護鬼神を呼ぶどころか、基本術の発動がやっと。血統と政治力だけで成り上がった立場だってのは理解してないのかい? 血統、結構。政治力も生きていくうえで悪くはない。術が使えないなら、別の戦い方もある」
殺気交じりの魔力威圧を放つキヨ。
自分が蔑ろにされ、その上に可愛い曾孫をモノ扱いされて怒り心頭。
……キヨさま。一瞬、警視正に視線を向けたの。孫娘として呪力は弱くとも、別のやり方で十分強いのを認めていらっしゃるんだよね。
「だがね。他人を利用して伸し上がろうという根性は許さん。こと、十歳に満たない幼子を弄ぶのは絶対にダメだ。少し反省しな!」
「ひゃ、ひゃい……」
腰砕けになり、地面に尻もちをつく当主。
小柄な老婆が、数倍の体格の壮年男性に気迫で押し勝つ。
なんとも恐ろしいものを見せてもらった。
「さて、ひな。綾香。お前たちは、自分が望むように生きなさい。アタシら大人は、子ども達が幸せに生きられる世界をつくるものだからね。この『揺りかご』から飛び出すのじゃ」
<無銘>から解けた呪符が、庭の中を花吹雪の様に舞い飛ぶ。
そんな中、キヨはわたしとひなに、暖かい言葉をくれた。
「ありがとうございます、キヨさま。ひな、貴女はどうしたいの?」
わたしがキヨへ告げた望み。
それは、ひなが自分で望むように生きる事。
これからは束縛せずに、暖かく見守って欲しいと告げた。
「此方、もうしばらくここで、ひいお婆さまと修行するのじゃ。じゃが、学校にも行くし、お母さまやお姉さまとも一緒に仕事するのじゃ!」
満面の笑みで、答えるひな。
望むもの全部取りを願うあたりが、まだまだお子ちゃまで、ワガママ。
でも、真夏の太陽に負けないヒマワリのようなひなの笑顔を見ていたら、それで構わないと思う。
いや、乙女の尊い願いを全部叶えてあげなきゃと思った。
……ひなちゃんなら、全部叶えちゃいそう。そんなの当たり前なのじゃって絶対に言うよね。
「わかったよ、ひな。さて、大人ども。全員、ひなの願いを実現させるよ! 当主、ご自慢の政治力を使ってマスコミの口を封じな。そして、ひなや関係者の警護を万全に。美穂、アンタは母として上司として、ひなや綾香を守りな。ほかの連中も、今から忙しくなるよ」
堂々と暗躍できるのがうれしそうなキヨ。
彼女は各方面に指示を飛ばした後、まだひなを抱いているわたしに視線を向けた。
「綾香、アンタを見込んでひなを託す。よき姉、相棒としてよろしくな」
「はい!」
夏の風に吹かれ、舞い散る呪符の中。
わたしも当然という顔で、返答を返した。
……後で、記念に<無銘>の呪符を一枚拾っておこうかな? 今は、ひなちゃんで両手が埋まっているけど。
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