第8話(累計 第81話) 未完の刃にて、未来を切り拓く
「これ、何ぃ!?」
陰陽道宗家、元当主にして現在でも最強格。
ひなの曾祖母キヨとの、ひなと一緒のタッグ模擬決闘中。
わたしの時間稼ぎによって、ひなの「策」がわたしの目の前に実体として現れた。
「ひなや、お前は何を……」
「ひな。アンタって子は……」
「ひなお嬢、カッコイイ!?」
キヨと警視正は、あんぐりと驚きの表情。
和也は、オモチャを見た時の少年。
「なんだ、あれは!?」
「バケモノか!?」
「人が乗る守護鬼神だと!?」
観客の皆も驚きの声を上げ、誰も動かない。
「お姉さま。驚いている暇はないのじゃ。早く、これに乗るのじゃ。あ、此方をコクピットに持ち上げてくれると助かるのじゃ」
「う、うん。分かったわ」
ひなに促されたわたし。
一旦、木刀を地面に置き、ひなの両脇に手を通す。
そして、目の前に出現した膝をついて鎮座している「巨人」の腹部へと持ち上げた。
「随分と、変なものを呼出したんだね、ひな」
「お姉さま、ひいお婆さまに勝つのには、普通ではダメなのじゃ。だから、色々考えた末の結果がコレなのじゃ!」
どうやら、戦う準備が出来るまで待ってくれるらしいキヨ。
ひなが呼び出した「巨人」を見上げながら、呆れている。
「お姉さまも、こっちにあがるのじゃ。まだ未完成の術じゃが、短時間なら戦えるのじゃ」
「わ、分かったわ。で、操縦系はどうするの? わたし、ロボの操縦方法なんて知らないよ」
そう、わたしの目の前にあるのは、骨組みだけのロボ。
ひなが地面に書いた術式と呪符の固まりから組みあがった巨人。
沢山の呪符が巻き付いた骨格と、それを動かすだけの筋肉っぽい筒。
胴体は空っぽで、二人前後に座れるコクピットらしきもの。
手足バランスは、異形っぽく人間よりも長め。
頭部には鬼の骸骨らしきものが座り、血の様に紅い目だけがランランと輝いていた。
「そこは大丈夫なのじゃ。基本は思考制御。レバーとかペダルは雰囲気なのじゃ」
「ふ、雰囲気??」
むき出しのコクピットに座り、とりあえずレバーを握ってみる。
雰囲気というので、右手を前に出す様にして思ってレバーを前に押すと、地面に降ろしていた機体の右腕が前に伸びた。
「で、でもいきなりの実戦は無茶じゃない?」
「じゃが、此方にはこれくらいしか……。これしか、ひいお婆さまに勝てる手が思いつかなかったのじゃ」
テンパるわたしは無茶というが、ひなは泣きそうな声で、これしかないという。
……なら、しょうがないか。ひなちゃんを泣かせるわけにはいかないし。
「分かったわ。キヨさま、これを使って良いですよね。ひなが術で呼び出したモノですし?」
「ああ、いいさ。二人の力、アタシに見せてごらん!」
一気に吹き上がるキヨの殺気。
でも、ひなと一緒なら怖くない。
わたしは、機体を立ち上がらせる。
「この子の名前は? それと武器は?」
「まだ装甲も無い試作段階の守護鬼神で名前は無い。というか、名前を付けるのを忘れておったのじゃ。武器は、腰に差した刀じゃ!」
まだ名前の無い「鬼」。
その腰から刀を抜き、構える。
……まるで『無銘』の刀みたい。思った通り動くわ。これなら!
「守護鬼神<無銘>、参ります!」
わたしは、ふと思いついた名前を叫ぶ。
人なら十数歩もある間合いも、身長四メートルほどの巨人なら二歩程度。
振り上げた刀、というか長めの鉈をキヨに振り下ろした。
「おぉ、怖いねぇぇ。なら、これでどうだい!?」
地面に大きく穴を開ける斬撃を横ステップで軽く交わし、爆風に和服を揺らすキヨ。
扇子を踊る様に大きく動かした。
「あれは、ひいお婆さまの守護鬼神を呼ぶ踊りなのじゃ!」
「分かったわ。呼ばせない!」
キヨの踊りを邪魔するように鉈を振り回すが、どうしても動きがおおざっぱになり、技が荒い。
……間違ってキヨさまを潰しちゃったら不味いってのもあるのよねぇ。
「あらま。手加減してくれる余裕があるのかい? じゃあ、顕現せよ、我が守護鬼神<シュラ>!」
わたしが攻めあぐねている間に、キヨの術が完成。
キヨの前に三目八臂。
顔が三つ、腕が八本で青い肌の巨人鬼が旋風と共に実体化した。
「うわぁ!」
シュラと名付けられた鬼神が振り下ろす剣を、なんとか回避。
バックダッシュで距離を取る。
「ふはは! アタシの守護鬼神を見て引かぬのは上等。そうさのぉ……。こやつを倒せたら、アタシの負けを認めてやるのじゃ。ひな、綾香。かかってこい!」
キヨを直接殴らなくてもよくなったのは幸い。
だが、目の前の巨人は楽に倒せる相手では決してない。
「お姉さま。アヤツは術で姿を成しただけ。此方の鬼神同様に生きておる者じゃ無いのじゃ。なれば、手加減は要らぬのじゃ」
「分かったわ、ひな。じゃあ、術の本体。コアを斬れば!?」
ぶんぶんと八本の腕を振り回し、棍棒や剣、手槍で攻撃を繰り出すシュラ。
こちらは装甲を持たず、骨格だけの機体なので、攻撃を受けたら最後。
鉈でまともに受け止めたら刀身が折られそうなので、峰部分で弾くのがやっと。
……で、でも、攻撃が見えてきたわ。腕が多すぎる。でも、そこに死角が生まれる!
八本の腕で攻撃してくるとは言え、お互いの腕が干渉しないように左右交互に振るわれる。
上下も同じく最上段の腕の次は一番下か、下から二番めの腕。
意外と単調な攻めだ。
……ここで勝負!
微妙な時間差で腕が迫るのを見、上段に構えた鉈をぶつけて攻撃軌道を逸らす。
「むぅぅ!! そう来たかい!?」
キヨが驚きの声を上げる。
右上と左下の手が持つ棍棒と剣がぶつかり、絡む瞬間。
キヨの鬼神の動きが止まった。
「そこぉぉぉ!」
もう一歩前。
鉈の間合いから、拳の間合いまで踏み込む。
振り下ろしていた鉈の刃を上に返す。
「とったぁぁ!」
そして三つある真ん中の頭部目がけて、一気に振り上げた。
「キシャァァ!」
顔を真っ二つに斬られ、残る二つの顔から奇声を上げる三面鬼神の胸。
ペンダント状の宝珠めがけ、今度は抜き手にした左手を突き出す。
……あれが、術のコア!
わたしの眼に見えた術式、魔力の絡み。
それは宝珠に集まっていた。
「トドメぇぇぇ!」
「切断」のスキルを乗せた抜き手は宝珠を砕き、そのまま胸を貫いた。
一瞬の無音。
それまで轟音が響いていた闘技場と化した屋敷庭。
そこに静寂が訪れる。
「ふはははは! お見事。アタシの負けじゃ、ひな、綾香」
静けさの中、キヨの宣言が大きく響く。
そして周囲から、どよめきが響き渡った。
「はぁはぁはぁ」
わたしは、止めていた呼吸を戻し、大きく息を切らす。
ビクンと一瞬痙攣したキヨの守護鬼神。
それは姿をあやふやにし、あっという間に砂となって崩れ去った。
「お、お姉さま! す、凄いのじゃ。ひいお婆さまの鬼神を倒したのじゃ!」
「あ、ありがと、ひな。多分、キヨさまが手加減してくれてたからだと思うんだけどね」
なおも、周囲から驚きの声と賞賛の声が同じくらい響く。
わたしは、額から流れる汗をスカートのポケットから出したハンカチで拭いながら、満足げな笑みを浮かべるキヨを見る。
……むき出しコクピットなんだから、術で攻撃して来たら良かったし、鬼神の攻撃もワンパターン。自分を攻撃できないからって、身代わりを差し出しなのね。
「キヨさま。では約束通り、好きにさせて頂きます。わたしの望みは……」
わたしは、曾孫可愛さで案外と甘いキヨに希望を告げた。
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