第7話(累計 第80話) 百年の壁を斬り崩せ
「綾香ちゃん。怪我には気を付けて、頑張ってねー」
「綾香お嬢、ひなお嬢、応援してますぜー!」
背後から警視正や運転手役の和也からの声援を受けるわたし。
「お姉さま。先に加速呪を使うので、しばらくひいお婆様相手に時間を稼ぐのじゃ。その間に、此方は『秘策』を準備するのじゃ」
陰陽道の宗家、神代院家の広大なお屋敷内。
中央部に位置する、広場。
そこに、わたしは学校の制服姿で借り物の木刀を構える。
……やっぱり隙が無いなぁ。
門前には、小さな和装の老婆。
ひなの曾祖母キヨが扇子を持って、自然体で立っている。
「クソガキめ。キヨさまに倒されて泣くがいい」
「小林さん。それはあまりに酷いですよ。実際、俺たちじゃ、キヨさまどころか、あの子達には勝てないですし」
キヨの向こう側では沢山の黒服な男達。
わたしが倒してしまった小林とやらは、怒り心頭の表情でわたしを睨んでくる。
……先に手を出したのは、そっちなんだけどねぇ。
他にも多くの人々が、わたしとキヨの戦いを見守っている。
明らかに雰囲気が違う壮年男性が数名おり、おそらくそのうちの誰かが現当主なのだろう。
「キヨさま、年寄りの冷や水はお気をつけて」
「なんだい! アタシを老人扱いするんじゃないよ、若造。アタシが出張らなきゃ、ひなを守れなかったボンクラ当主がぁぁ」
わたしの目星どおり、大柄で髭を生やした壮年男性。
キヨに対し年齢を考えて無理をするなと言うが、逆に若造と怒られ、委縮していた。
……そういえば、キヨさまっておいくつ?
「ひなちゃ……。あ、ひな」
つい、癖でちゃん付けしようとしてしまい、ひなのジト目で言い直す。
「何じゃ、お姉さま?」
「戦う前に確認。気になってたんだけど、キヨさまっておいくつ? 警視正はアラフォーでしょうから、そのお婆さまとなれば……」
「綾香ちゃん! わたくし、まだギリギリアラサーよぉぉ!」
警視正から修正の言葉が飛んでくるが、孫娘が三十代半ばの祖母はいくつになるのか。
「多分、三桁。百十歳までは行かぬと思うのじゃが?」
巫女服に着替え済みのひな。
その呟きを遠方で聞きつけるキヨ。
「アタシかい? 今年、百三じゃ。手加減せぬでいいぞ、小便臭い小娘よ」
「百三!?? お爺ちゃんよりも、ずっと歳上なのぉ」
百三歳。
祖父よりもさらに年上の怪物。
なのに、目の前の老婆からは老いを感じない。
キヨは挑戦的な笑みを浮かべ、手に持つ扇子でチョイチョイとわたしを挑発した。
「ふぅ……。ひな。いつでも、どうぞ」
「では、ひいお婆さま。参って宜しいですか?」
一旦驚きはしたが、挑発を気にせず深呼吸をしたわたし。
ひなに開始の合図をした。
「おう。いつでもかかっておいで。そうだ、当主。仕切りを頼む」
「わ、分かりました。キヨさま。では、キヨさまとひな様及び一名の模擬決闘を行う。両者良いな、では、開始!」
当主が上げた手を降ろし、戦いが始まった。
「お姉さま! 『オン・イダテイタ・モコテイタ・ソワカ!』、<韋駄天・神速呪>!」
「ありがと!」
ひなの高速詠唱からの呪術を受け、わたしの身体に力が満ち、周囲の動きが遅く見えだした。
……初手勝負!
ひなから次の策。
大規模な儀式呪術の詠唱時間を稼いでくれと言われているが、これで勝てれば良し。
一撃を入れる自信は正直無いが、回避に集中させるだけでも。
そう思い、一気に間合いを詰め、居合気味の横薙ぎを繰り出す。
「甘いねぇ」
しかし、わたしの一撃は、キヨの手にある扇子で軽く流される。
「鉄扇!?」
「ご名答。ほれ!」
そして体勢が崩れたところに、扇子の一撃が置かれる。
「ひゃ!?」
背筋の力を全開にして、のけぞる様にして攻撃を回避。
一旦、バックダッシュで距離を取る。
「距離を取ったら勝てるとでもお思いかい、小娘」
にやりとした次の瞬間、キヨの周囲にいくつもの火球が発生。
全弾、わたしに向かって降り注いできた。
「くぅぅ!」
加速状態の脚力を生かし、下がるのではなく前に進みながら回避。
いくつかは、木刀で叩き落とした。
「いくら瞬間とはいえ、木刀で火炎攻撃を受けていたら、燃えるよ?」
わたしの間合い。
一足一刀の距離まで踏み込むが、キヨは更に速い。
逆に接近戦。
扇子が当たる距離まで踏み込み、そこに呪術攻撃すら混ぜてきた。
「う、わ!? きゃ!」
「ほう。今のを全部受け流すかい。小娘と侮れないねぇ」
一個一個の攻撃の殺気が濃すぎる。
だからこそ、逆に軌道が読める。
しかし回避に精一杯で、こちらから攻め込む事が出来ない。
「そろそろ小娘を倒して、ひなにお仕置きと行こ……! む」
「そ、そんなことさせない!」
ひなに手を出すと言い出したキヨ。
そんな事はさせないと、わたしは剣の使い方を変えた。
「これは? 杖術!?」
「はぁぁあ!」
木刀の真ん中を持ち、剣としてではなく杖の戦い方に変える。
得物の間合いを短くし、こちらも接近戦の間合いに踏み込んだ。
「は! ふ! やー!」
「この技は!? なるほど、あのクソジジイが仕込んだかい?」
息が続く限りの連撃。
祖父から習った杖術の技を必死に繰り出し、キヨの脚を止める事に成功した。
「しつこい!」
「く!」
捌き切れなくなったのか、キヨは強風の術を発動。
わたしを軽く吹き飛ばし、間合いを大きくとった。
「はぁはぁはぁ。小娘でも中々やるでしょ?」
「ふぅふぅ。そうさねぇ。予想よりも二倍はやるよ。綾香ちゃんのジジイ、もといお爺さんてのは、正太郎かい? 剣筋が似ているよ。アイツは色んな武器や技を使って、相手を翻弄させてたからね」
距離をとっての舌戦。
お互いに呼吸を整えながら、次の手を考える。
「はい、キヨさま。その通りです。わたしは、祖父から天真正伝香取神道流を習ってますので」
……お爺ちゃん、キヨさまと一緒に魔物退治してたって話してたもんね。
「なるほど、綾香ちゃんとひな。元から縁があったということかい。なら、アタシも手は抜けないねぇ」
キヨの周囲を包む空気が揺らぎだす。
本気で攻めてくると思い、わたしは木刀の構えを元に戻す。
「お姉さま、準備できたのじゃ。上手く鬼神を召喚できたのじゃ!」
背後から、ひなの声が飛ぶ。
わたしは、キヨとの距離を更にとって、ひなの側にまで下がる。
「ひな、一体何を……!? これ、何ぃぃ?」
「ひなや、お前は何を……」
「ひな。アンタって子は……」
「ひなお嬢、カッコイイ!?」
わたしは、ひなの呼び出したモノを見て絶句する。
キヨ、警視正は呆れ、和也は感動していた。
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