第6話(累計 第79話) 閉じた世界を斬り破る
「お婆さま。そこまでしてお試しになられないと、曾孫を預けるに相応しいと、実の母親にでも認めてくれないんですか!?」
陰陽道の宗家、神代院家。
座敷にて警視正が、自らの祖母キヨへ叫ぶように問いかける。
自分の娘、ひなを宗家が囲い隠し、母とすら会えない環境にしていたことを。
誰もが固唾をのみ、無言でキヨの言葉を待つ。
彼女に言い負かされたわたしも二の句が出ず、思わず冷たい日本茶を飲み干した。
「……ふぅ。試すのはこのくらいにしようかね、美穂。あんまりイジメると、そこの嬢ちゃんが怒りそうだし、何より今にも後ろから飛び出しそうにしている子が可哀そうだ」
キヨは警視正の言葉を肯定し、苦笑しながら言葉を放つ。
わたしへ彼女の鋭い視線が向き、思わず背筋を伸ばしてしまった。
「後ろ?」
キヨの言葉に疑問が浮かんだわたし。
思わずつぶやくと、キヨは一気に破顔し、わたしの背後にある襖の向こうに呼びかけた。
「ああ。護衛や側仕えを全員振り切ってきた、バカひ孫がねぇ。ひな、いい加減我慢しないで出ておいで」
「え!? まさか?」
わたしが驚いて振り返ると同時に、バーンと襖が勢いよく開けられ、何かが飛び出した。
「母さま、お姉さまぁぁ!」
同じく振り返った警視正に飛びつき、抱き着いてきた小さな影。
それはずっとわたしが会いたかった少女。
ひなだった。
「ずっと会いたかったよぉぉ」
お嬢様らしく、上品な服で着飾ったひな。
服に皴がつくのも構わず、必死に母である警視正に対し、二度と離れるものかと泣きながらしがみついていた。
「よかったね、ひなちゃん」
「お嬢ちゃん、良かったなぁ」
わたしだけでなく、和也もひなの喜ぶ姿に涙を誘われた。
「綾香お姉さま、お姉さまもこっちにくるのじゃ!」
「うん」
ひなに呼びかけられ、わたしも彼女の側にいく。
「ずっと逢いたかったのじゃ!」
ぐいと腕を引っ張られ、ひなに抱きしめられるわたし。
思わず同じ状態の警視正と顔を見合わせ、泣きながら笑ってしまった。
「もう絶対に、お母さまともお姉さまとも離れないのじゃ! ひいお婆さまが何を言おうと無駄なのじゃぁぁあ!」
渾身の力でしがみ付くひな。
わたしは、この小さくて暖かな命が可愛くて、そっと抱きしめ返した。
「ずっと、そういう訳にもいかんだろ? 美穂には仕事があるし、綾香嬢ちゃんにも学校がある。ひなも、もっと学ばねば外で戦えぬぞ?」
「嫌なのじゃ! 今度、引き離すというのであれば、ひいお婆さまを倒してでもいくのじゃ!」
キヨの苦笑気味の言葉に反発するひな。
早く来てしまった反抗期とも言える反応だが、自分の曾祖母を倒してでも構わないというのは、流石に問題だ。
「ひなちゃん、そういう訳にもいかないでしょ? 実際、マスコミとかから、キヨさまが守ってくれたのは本当だし」
わたしは、ひなの頭を撫でながら、説得してみる。
わたし自身、完全に納得していた訳ではないが、ひなを社会の『眼』から守ってくれたのも事実だから。
「お姉さま! ひなの事は呼び捨てにすると決めたのではないかや? 子ども扱いするのでないのじゃ。マスコミが来ようが、もう此方は怖くないのじゃ。堂々と名乗り上げるのじゃぁ!」
「あ、ごめん。ひな。でもね、そうなったらお母さま。警視正も大変になるのよ? そこは分かってあげて」
「綾香ちゃん。わたくしの事は気にしないで良いですわ。こんな家に生まれた時点で納得してますし、ひなが自分で生き方を選ぶというのなら、それを見守るのも親の役目。まあ、少々早いとは思うけどね」
これまで抑え込まれていた反動からか、ワガママを言い放つひな。
子ども扱いを嫌がる事こそ、子どもな証拠を苦笑しつつも、わたしも警視正もひなが自分で立とうとするのを邪魔する訳にはいかない。
……ほんと、可愛い妹分ね。
「ひな、ワガママを言えるのは今のうち。この家を出たら、そうもはいかぬのは……理解しておるか。ふふ、ならこの婆ぁと一勝負せぬか? アタシに一発入れるか、参ったと言わせたら、好きにするがいい。そうだねぇ、ハンデとして綾香嬢ちゃんと一緒に攻めておいで」
「はい!? わたしもですか?」
ひなの曾祖母、キヨ相手に戦う。
そんな無茶を言われ、思わず声が裏返る。
「ひいお婆さま、お姉さまと一緒で良いのかや!? うわー、嬉しいのじゃぁぁ! 絶対に負けられぬのじゃぁぁ!?」
キヨの突然の言葉で、状況が大きく変わる。
先程まで、警視正やわたしにギュっとしがみ付いていたひな。
バカっとわたし達から離れ、キヨに対し挑戦的な笑みを浮かべ吠えた。
「わたし、キヨさまに勝てる、いや一撃を入れられる気がしないわ……」
「お姉さま、此方が最大限サポートするのじゃ。どうせ、此方の呪術では、普通にして居ったら、ひいお婆さまには当たらないのじゃ。何か策を……!? そうじゃ、アレならなんとかなるかもなのじゃ!」
わたしが不安になる中、ぎゅっとわたしの両腕を握り、ぶんぶん振りながら盛り上がるひな。
「どうじゃ、美穂。これなら、良くも悪くも、ひなが落ち着くであろう?」
「お婆さま、意地悪……。いえ、貴女がお遊びになられたいのではないですか? 先程、警備兵らを見た感じ、碌な術士も残っていないように見えましたし。不甲斐ない現当主、伯父さまに見せつけたいのでは?」
背後では、警視正が無茶を言うキヨさまに文句を言っているらしい。
「愛刀は置いてきたし、特殊警棒じゃ、勝負にもならないし。第一、学校の制服。スカートで戦うの!?」
「綾香お嬢。さっきスカートで警備兵を倒してなかったのかい?」
しかし、突然舞い込んだ「戦い」に、わたしは和也のツッコミに対応できないくらい舞い上がっていた。
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