第3話(累計 第76話) 切り離された母と娘
「すいません、警視正。わざわざ自動車を出して頂き……」
「いえ。部下が公式に呼出しを受けたとあれば、上司が同行するのは当たり前。それに、向かう先はわたくしの実家。成れば、公務として向かうのは当たり前ね」
都内郊外のある場所。
そこにはうっそうとした木々で覆われた広大な公園と中心に大きな屋敷がある。
その屋敷こそ、現代にまで残る陰陽道の総本山、神代院家。
「姐さん、俺が前に映画で聞いた話じゃ、安倍晴明の末裔ってのは土御門家じゃなかったっけ?」
「和也くん、確かに公家としての本家筋はそちらね。結構勉強しているんだ?」
警視正の使い魔となったグレーターデーモンの力を得た青年、和也。
司法取引の元、保護観察という名目で、警視正は彼を臨時職員として雇用。
今日は、わたしと警視正は後部座席に並び、彼の運転で移動している。
……わたしは、夏の学校制服を着ているの。学生の制服は最上級の礼服でもあるし、警察としての夏制服はまだ支給してもらってないしね。
「俺だって、姐さんらに恩義を感じてますから勉強もします。昔はホスト目指してたんすけど、結局何処にも雇われず。食うや食わずの生活の中、上手い話に飛びついてこのありさま。そこを救ってくださったんですからね」
……少々チャラいけど、話してみれば気のいい兄ちゃんなのよね、和也さん。
「神代院家、傍流ながら血筋を守って術式も保ち、日本の暗部。呪殺やらアヤカシの暗躍を阻止してきた家。わたくしも、そこに生まれたんだけど、見ての通り能力なしで、ポイね」
警視正は自虐的に自分の力不足を言う。
以前、遠縁ながら安倍晴明の血を継ぐ家と結婚して、ひなを生んだと話していた。
「悲しい事ですね。血筋と能力に縛られた古い家。そこを奈良原に上手く騙されて、酷い目を見たのですから反省して欲しいですね」
「キヨお婆さまの案内状も、そのあたりがあるのかもね。あ、和也くん。そこの門の前で自動車を止めて。綾香ちゃん、案内状を貸して」
三人で話している間に自動車は公園内を進み、まるで城の入り口みたいな木製の屋敷門の前で止まる。
……この門の向こうは結界が貼られているみたい。
門からは壁のようなものを感じる。
おそらくは霊的防御なのだろう。
……現代的な防御もしっかりね。
門の上部には可動式監視カメラが存在し、こちらを覗き込む。
警視正は、一旦自動車の後部座席から降り、インターフォンのボタンを押す。
「こんにちは、先代当主、神代院キヨさまより招待状を頂きました橘 綾香、及び同行者の倉橋 美穂です。キヨさまにお取次ぎ願えないでしょうか?」
「少々お待ちください。確認致します」
女性の声で返答が即時あったが、その声は冷たい。
・
・・
・・・
「応答遅いですねぇ」
「どうしたのでしょうか? 以前はすぐに開けてくれましたよ。わたくしにとっては実家ですし?」
無音が続く。
カメラからの視線が痛い。
どうして、いつまでも待たせるのだろうか?
「え!? 何?」
しかし、返答がないまま。
自動車用の大型扉が開くことなく、人用の小さな門が開いた。
「美穂さま。申し訳ありませんが、現在のところ貴女さまが当家の敷居をまたぐことは許されておりません。また、キヨさまが誰かに招待状を送ったという事実はございません。お引き取りを」
そして出てきたのは黒服の男性たち。
一番身体が大きな男が、警視正の名前を呼んで断りの話を言い出した。
「何を言うんですか、小林!? わたくしが実家に帰るのを。娘と会うのすら拒むというのですか?」
「何を言われても、貴女たちを入れる訳にはまいりません。ひなさまは神代院家の宝。一旦外に出た人間に好き勝手させる訳にはいかないのです。早く、お引き取りを!」
警視正がどんなに叫んでも、中に入れないという構えの男たち。
招待されていたわたしが入れないというのは、まだ我慢できる。
……どうして、ひなちゃんに会いたいお母さんの思いを踏みにじるの!
しかし、警視正の母としての思いを踏みにじるのは許せない。
「警視正、ちょっと暴れて良いですか? この門の結界を壊してしまえば、後は自由に入れますよね。なに、大丈夫。『門』は壊しません。結界はモノでは無いですし、感じられる人もごくわずか。破壊しても刑事罰。器物破損にはならないですよねぇ」
「嬢ちゃん、良い事言うねぇ。姐さん。許可貰えたら俺が変身して二人を連れて中に入るぜ。親子の思いを踏みにじる奴に遠慮いらんだろ?」
ひどく怒りを覚えたわたし。
自動車の後部座席から飛び出し、結界を破壊すると宣言する。
そうしたら、和也も運転席から出て魔神になって中に飛び入ると言い出した。
「ちょ、綾香ちゃんに和也くん! ここで暴れては……」
「ほう、神代院家の玄関口で暴れるというのか、ガキ共がぁ」
「ええ。ガキで結構。親子を無理やり引き離す様なバカ相手にお話しする事なんて無いですから。こんな情けない大人にはなりたくないわ」
警視正は制止するが、小林と呼ばれた大男は、わたしと和也を挑発する。
なので、わたしも容赦なく挑発仕返した。
「ひぃぃ!」
「小林どの。こんな場所で本気を出されなくても!」
……和也さんが一瞬ひるんじゃったのはしょうがないか。いくら魔神になれるって言っても、本当は小心者だし。
和也は小林に気おされて、一歩後ろに下がる。
黒服たちも、小林から漏れた殺気に押されて、背後に退いた。
「ふん!」
しかし、わたしは恐怖を踏み越え、前に一歩進む。
ひなと警視正の出会いをかなえさせたい。
その一心で。
「な、舐めるなよ、小娘。魔神を倒せると天狗になっているんだろうが、神代院家。最強の武闘派と名高い俺には絶対勝てぬ」
「あら、怖いんですか、お兄さん? 小娘と侮れば、後悔しますわよ。警視正がひなと逢うのをこれ以上邪魔するなら、わたしも容赦いたしません!」
売り言葉に買い言葉。
わたしよりも三十センチほどは高い身長で、真っ赤に怒った顔で上から圧迫してくる小林。
しかし、わたしも上目使いで見上げ、冷たい表情で挑発した。
「綾香ちゃん、それに小林。二人とも辞めなさい! わたくしをひなに会わせないのは家の判断でしょう。でも、綾香ちゃんにまで牙を向けるのは違います!」
「未成年のガキ、美穂さまの部下と思って手加減すれば、この口を叩く。その上、同胞たち、家族を沢山殺しやがって……。すいません、大人、男の力を見せつけてやります!」
警視正はわたし達の争いを止めようとするが、小林は怒りを抑えきれず、真っ赤な顔のまま。
わたしに向かって拳を振り上げた。
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