第72話 切り開いた明日
「ん、眩しい。……お腹空いたぁ」
「お姉さま! もう心配したのじゃぁぁ」
わたしが次に目を覚ました時、横にひなが居た。
「これって、見知らぬ天井じゃないよね。もう見慣れちゃったわ」
お約束ネタとして、病院で目覚めた時に「見知らぬ天井」があるが、今わたしの頭上にある天井は、もう三回目だ。
「ここ、いつもの小児病院だよね」
「お姉さまぁ。呑気すぎるのじゃぁ。あの後、いくら起こしても起きないから調べたら、死にかけてたのじゃぁ」
ベットから身体を起こそうとすると、全身に激痛が走る。
身体も重いし、呼吸も少々苦しい。
更に両腕に機械制御式の点滴が複数刺さっている。
……今回は、ちょっとやりすぎたかも。かなり重傷だったみたい。あ、あれ?
もぞもぞした際に、下腹のあたりに違和感がある。
視線を落とすと、先に袋が繋がっている細いチューブが伸びていた。
「ごめんね、ひなちゃん。皆には心配させちゃった」
沢山のチューブに繋がれている自分に呆れつつも、生きていたことに感謝するわたし。
まくらに頭を落とし、大きく息を吐く。
窓から見える街並みに大きく変化がない様子から、無事に事件が解決できたらしいと思った。
「此方、ずっと泣いておったのじゃぞ! お姉さまは、いつまで立っても起きぬし、医者さまは血圧が下がって危険と慌てるし……。もうダメかと何回も思ったのじゃぁぁ」
べしょべしょと泣きながら、ベットの横で膝をつくひな
泣かすつもりはなかったので、なんとか手を伸ばしてひなの頭を撫で慰めた。
「お姉さまのバカぁぁ! 此方を一人にするでないのじゃぁぁぁ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「貴女は何回心配させてたら分かるの? 三日も目を覚まさなかったし、半年で三回も入院は普通じゃないのよ!」
「陽子、今回は生き残った事を喜ぼうや。俺でも、あの怪獣相手には勝てる気がしねぇからな」
「まあ、二人とも。あやちゃんの前でケンカはしないでね。あやちゃん、ご飯食べられるようになったら、美味しい果物もってくるわ」
ひなからの連絡を受け、母と祖父母が飛ぶようにして小児総合病院にやってきた。
そして、毎度のお小言タイム。
……わたしも、今回は悪いと思っているわ。流石に死にかけたからね。
渋い顔で病室に来たお医者さま。
わたしの病状について詳しく説明してくれたが、一時はマジで死にかけたらしい。
「ほんと、ごめんなさい」
「血圧が下がって死にかけたのよ! 内臓状態もかなり悪いって聞いたわ。もう少し危機感を持っててほしいのよ、母親としては!」
「陽子ちゃん、これ以上あやちゃんを責めないで。流石に今回は自覚したはず……よね?」
母からコンコンと言われるので、流石に自分の状態は理解している。
持てる力を全部つぎ込んだ一撃で、体内の生命力を全部使い込んだらしい。
「はーい。しばらく自粛しまーす」
…………でも、次もきっと同じことするんだろうなぁ、わたし。
「綾香。自分の『能力』をそろそろ自覚しろ。余分なものまで斬っていたら、身体がもたんぞ。治ったら、また修行させないとな」
「お父さん! これ以上、綾香を危ない事に巻き込まないでよぉ」
「陽子ちゃん、あやちゃんが危ない事に首を突っ込むのは、もうしょうがないわ。だったら、少しでもあやちゃんの命が助かる様に、戦う方法を教えた方がいいわ」
「お母さまがた、綾香お姉さまの横でケンカをするでないのじゃ」
今回も病室は国家補償による個室。
少々うるさくしても問題はないが、流石に暴れ出すと困る。
「みんな、病人がいるんだから、静かにね」
わたしは、布団を首元まで引き上げ、眼を閉じる。
鉛の様に身体は重いが、生きているのなら問題はない。
しばし、回復に努めるだけだ。
「ふぅ。事件がどうなったか、後で教えてもらいましょ」
賑やかな家族の会話を聞きながら、わたしはもう一度眠りについた。
◆ ◇ ◆ ◇
「綾香ちゃん、今回はお疲れ様でした。でも、無茶しすぎ。わたしの膝枕で寝たのじゃなくて、意識を失ったのよ? もうちょっとで死ぬところだったわ」
「すいません、警視正。出来ると思ったのですが、祖父によれば斬り過ぎたらしいです」
皆が帰った後の夜。
一仕事終えた警視正が来てくれた。
「ニュースで見て、もう知っていると思うけど、都内でもかなりの犠牲者が出ていたわ。でも、綾香ちゃんが頑張ってくれたおかげで、最悪の状況は防げたわ」
「米軍が核攻撃をするって話があったのには、驚きました。でも、元長官を生かして捕らえられたのは幸いです」
主犯の鷹宮 恒二。
かなり衰弱している状況ではあったが、生きて逮捕された。
これまでの逮捕された者たちと違い、薬物使用をしていなかったらしく精神的に崩壊しておらず、証言も徐々に得られているらしい。
……米軍は、奈良原との裏取引を知らんぷりしたようね。全部を無かったことにするために、怪獣退治に核攻撃を日本政府に打診してたって。
「日本側も政府中枢に元長官との関係者が多くいたから、アメリカに苦情を言う余裕もないわ。内閣総辞職して、全員逃げたの。与党の女性議員が首相候補になったのは、ニュース通りね」
元長官からの裏金疑惑があった総理大臣は、責任を追及される前に国会議員すらも辞職。
これまで、与党中枢から離れていた立場だったものの、国民人気が高かった女性議員が首相候補に名乗り上げたとニュースで話していた。
「まあ、野党にも裏金が回っていた上に海外との『密約』があったらしく、それが表に出てきて、今はてんやわんや。あの奈良原が裏で色々やっていたみたいだわ。とりあえず、今は元長官の回復待ちね」
「結局、奈良原が全部悪かったんでしょうか? あの元長官、そこまで賢いイメージも無かったですし。明らかに操られてましたよね」
政治の世界、わたしには詳しく分からないが、奈良原が世界を混乱させるべく裏で画策していたことは理解できた。
「奈良原については逃げられちゃったけど、あれはしょうがないわ。あれでも神さまの一種だから捕らえておくのも人間では無理でしょうし」
「奈良原の正体、結局何だったのですか? ひなちゃんも気が付いていたみたいですけど」
苦笑している警視正に、わたしは尋ねる。
神様を名乗っているからこそ、かなりヤバい相手なのは無知なわたしでも分かる。
力の一旦ですら、わたしの想像を超えるレベルだった。
……空間をゆがめるなんて、普通じゃないもの。
「そうね。でも、あくまで仮説。本人も言い当てられたって言ってたけど、正体がアイツならそれすらも余興ね」
まだもったいぶっていた警視正だが、ようやく奈良原の正体を語ってくれた。
「あれは正真正銘の邪神。世界の旧支配者、外なる神の一柱……。宇宙の彼方から来る侵略者……」
ぽつぽつと語られる正体。
あまりにも壮大な話に、わたしは固唾を呑む。
「邪神の中で唯一封印されていなくて、他の神々のメッセンジャー、狂気と混沌の道化として現れる一柱、それの一端末。たぶん顕現の一人ね」
「一体どんな神さまなんですか? わたし、神話でもそんなものは聞いたことないですよ?」
これまで聞いたことも無い神。
知っているどの神話とも共通しない宇宙規模の敵。
「人類外の知的生物によって書かれた超古代の魔導書の一遍に書かれた神話の物語……そう、魔術関係者の中では言われているわね。異名として有名なのは『這いよる混沌』」
警視正が絞る様な声で呟いた邪神の名前。
聞いた途端、背筋に悪寒が激しく走る。
それは、わたしの心に恐怖として刻み込まれた。
「……ナイアルラトホテップ……」
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