第73話 切り開いた未来へ
「はぁ。日常は素敵だわぁ。平和が一番!」
「何危ない事言ってんの、あやっちは?」
「綾香さんは、この間まで『戦場』におられたのですから、しょうがないですわ」
桜も散りかけた四月頭。
二週間弱の入院生活から脱し、新学期の高校に通い出したわたし。
二年生になっても同じクラスになった葵ちゃん、結衣ちゃんと一緒。
……皆、頑張って進学クラスに入れたの。わたしは年度末の入院でヤバかったけど、葵ちゃんたちが毎日宿題を持ってきてくれたので、なんとか乗り切ったわ。
授業の合間に呟いた言葉を二人に聞かれてしまい、突っ込まれるのも平和な日常だ。
「あやっち、アタシたちになら聞かれても問題無いけど、他の子もいるから気を付け無いと」
「そうですわね、危ない方と思われても困りますし。まだ、ひなちゃんのお母さまの元で『お働き』なさっているのなら、注意ですわ」
帝都安全保障省事件から、早一月。
やっと都内は落ち着き始め、警察官が交通整理などを行う場所も減ってきた。
そんな中、まだわたしは警視正の元。
警察庁 警備局 公安課 超常犯罪特別対策室。
「特対室」の一員、非常勤職員として、ひなと共に働いている。
「ごめんね、二人とも。わたし、まだボケてるのかもね」
「現実の戦争から帰還された方にはPTSDを発症なさる方もいらっしゃると聞きます。綾香さん、今はゆっくりお心を癒して下さいませ」
「そーだね。アタシらじゃ愚痴を聞くくらいしかできないけど、いつでも待ってるよ」
わたしには理解してくれる親友が二人もいる。
そして愛してくれる家族もいる。
大事な友や家族、可愛いひなを守るためなら、また手が血に濡れようとも構わない。
魔神だろうが邪神だろうが、斬り倒して見せる。
「うん、ありがと。あ、授業始まるよ」
ありふれた日常、それを守るため。
わたしは、再び刀を握る事を選んだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「ただいまー」
「お帰りなさいなのじゃ!」
学校から家に帰宅すると、ひなが出迎えてくれた。
「おかえりなさい。ひなちゃん、小学校から帰ってずっと綾香を、待っていたわ」
母が苦笑しながら説明してくれるのだが、動きやすい私服に着替えてワクワク状態のひなを見ると、わたしも笑みを浮かべてしまう。
「着替えてから、お爺ちゃんの道場に行くけど、ひなちゃんも一緒に行く」
「もちろんなのじゃ!」
ジャージ姿に着替え、ひなと手を繋いで玄関を出ていく。
「いってきます」
「いってくるのじゃ、お母さま」
「自動車には気を付けてね」
二人、ゆっくり歩きながら祖父の家に向かう。
自動車が通らない道を直線的に歩いて三十分。
今日会った事を話しながら、手を繋いでいく。
「此方、毎日が楽しみなのじゃ。お姉さまと一緒」
「警視正もお忙しいし、マスコミに顔出ししちゃったからねぇ」
事件以降、マスコミは毎日のように報道をする。
内閣閣僚が国家転覆を狙って大暴れ。
沢山の犠牲者を出したのだから、そりゃ話題になる。
「母さまのおかげで、此方とお姉さまは守られたのじゃが、母さまと道明おじさまが、毎日テレビに出てるのじゃ」
警視正のチームメンバであったわたしとひな。
共に未成年であったことまでは公表され、身元保護ということでマスコミからは追及されなかった。
「警視正が犠牲になっちゃったからね。でも、そのおかげでひなちゃんと一緒に暮らせているのは感謝だわ」
「今、母さまと一緒に居れば、身元がバレかねぬからのぉ」
美人警官で有名になった警視正。
彼女が娘持ちと分かれば、娘であるひなにも社会の眼が伸びかねない。
そして、そこからひなが話題の「魔法少女」だとバレる危険性もあがる。
なので、警視正から我が家に依頼が来て、今はひなとわたしは姉妹のように一緒に暮らしているのだ。
……わたしの方は、『剣術使いのJK』と一時は話題に上がっていたけど、今は沈静化。リアル魔法少女のひなちゃんの人気は、今も『うなぎ登り』ね。
「さあ、もうすぐ道場よ」
「此方も、お爺さまから歩法を学ぶのじゃ。位置取りや逃げ方を知っておけば、お姉さまの役に立てるのじゃ!」
二十五センチはある身長差から、見上げるようにしてわたしの顔に笑みを見せてくれるひな。
その笑顔を守るためなら、いくらでも戦える。
そう、わたしは深く思った。
「一緒に頑張ろうね、ひなちゃん」
◆ ◇ ◆ ◇
「此方、毎日が楽しいのじゃが、気になる事があるのじゃ」
「どうしたの、ひなちゃん?」
一緒にお風呂にも入り、同じ部屋で布団に入る。
薄暗い常夜灯の中。
隣のベッドから、ひなの声が聞こえる。
「此方、お姉さまを血なまぐさい世界に巻き込んでしもうたのじゃ。お姉さまは、お優しくて本当なら手を血で濡らす様な事は一生なかったはずなのじゃ。それに、もう元には戻れぬのじゃぁ」
「……」
泣くような声で、後悔の念を語るひな。
自分が、命のやり取りをする世界に巻き込んでしまったと悲しんでいる。
「お姉さまは此方と知り合ったがために、殺し殺され合う地獄へと迷い込んでしもうたのじゃ。女の子が人殺しをするのは、間違いなのじゃ!」
「……それいうなら、ひなちゃんの方が大変だし、間違った世界にいるよ。生まれた家の都合で変な運命を背負わされて、わたしより小さな身体で国の為に戦っているんだもの」
涙声で後悔するひなに我慢できず、わたしも言い返す。
十歳にも満たない幼女が、運命の一言で「がんじがらめ」にくくられ、命のやり取りをする方が間違っていると。
「……此方は、もうしょうがないのじゃ。千年にもわたる血塗られた家に生まれ、なまじ『力』を持ってしもうたのじゃ。此方が国から危険視されぬのは、国の為に命を張っておるからじゃ。逆らったら、処分されかねぬ。所詮は、『籠の中の鳥』なのじゃ」
ひなは、自分が国という籠に捕らわれた小鳥という。
国の為に「鳴いている」間は保護されるが、反逆すれば『処分』。
命が無いと。
「それは間違いよ。学校で習ったけど、国民は皆平等で自由に生きる権利があるはず。憲法に書かれてあるって」
「じゃが、お姉さま。貴女は街中で自由にしておるヒグマをどう思うのじゃ? ヒトの食べ物がおいしいのを知り、ヒトが弱い得物だと知ってしもうたヒグマを、どうする?」
「突然何を言うの? 悲しいけど説得できないし、危険過ぎるから捕縛して殺すしか……。あ!? まさか、国はひなちゃんを危険なヒグマと同じように思っているの?」
わたしが憲法上の平等を語ると、ひなは自分を狂暴な人喰いヒグマと例える。
呪術という特別な力を持ち、簡単に人を傷つけられる存在だと。
「そうなのじゃ。そして、お姉さまの存在も国に知られてしもうたのじゃ。もう、国はお姉さまから監視の目は離さないのじゃ。世界を斬る存在など、おそらく此方以上に貴重で危険視されかねぬから……。その上、邪神にも眼を付けられて……」
「……」
ひなの悲しみが理解できた。
殺し合いの世界に巻き込んでしまった。
その上に、危険な野獣としてわたしが、ひな同様に国の監視下に置かれてしまったこと。
……もう元に戻れないって、そういう意味だったのね。
「……でも、わたしは後悔してないよ。いや、絶対にひなちゃんを助けて良かったと思っているわ」
だが、わたしは反論する。
人殺しの世界に足を踏み入れた事。
国や邪神にも監視されている事。
その全部を知ってしまっても、ひなを助ける事が当たり前だと思っているから。
「どうしてなのじゃ!? お姉さまは、もう普通には生きれぬのじゃぞ? いつ何時、邪神が襲うてくるかも知れぬ……。死んでしまうかもしれぬのじゃぞ?」
完全に泣きながら、私の事を心配してくれるひな。
その声を聴き、我慢できなくなった。
「でもね。ひなちゃんや他の人が傷つくのを黙って見ているのは、わたし我慢できないの。後悔なんて絶対にしない。目の前の人を助けずにいる方が嫌だわ!」
わたしは自分のベッドから抜け出し、ひなの布団に潜り込む。
そして常夜灯の薄明りの中。
べしょ泣き顔のひなを抱きしめ、言い返す。
後悔なんて絶対にしないと。
「お姉さまぁ……」
「だから、ひなちゃんは心配しなくていいの。わたしの背中を守ってくれて、一緒に笑ってくれたら、わたしは幸せよ」
ぎゅっと、ひなを抱きしめ、ひたいにキスしながら微笑む。
「本当に、此方が一緒でいいのかや? 邪魔じゃないのかや? 後悔しないのかや?」
「ええ、これからも。ひなちゃんと、ずっと一緒よ」
どんな事が起きようと、わたしは後悔しない。
ずっとひなと共に戦ってみせる。
生き抜いて見せる。
「……ありがとうなのじゃ。此方、お姉さまが大好きなのじゃぁ」
ひながとても愛おしく思い、ぎゅっと抱きしめる。
「お姉さま、お願いがあるのじゃ」
「どうしたの、ひなちゃん?」
上目づかいで涙顔をみせるひな。
お願いがあると言う。
「ちゃん付けでなく、ひなと呼び捨てにして欲しいのじゃ。子ども扱いにするのではなく、相棒にしてほしいのじゃ」
「……分かったわ。ひな、これからも相棒として宜しくね」
「うんなのじゃ、お姉さま!」
大人ぶる姿が可愛くて頭を撫でたくなるところだが、じっと我慢。
小さいけれど、柔らかくて暖かい命を抱きしめながら、わたしは眠りに入った。
また、明日。
わたしは、ひなと未来を切り開いていく。
ひなと共に生きていくことを願って。
(第一部 完結)
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