第69話 切り捨てられぬ者たち
「ひゃぁぁぁ」
「おねぇさまぁぁぁ!」
二人抱き合い、死の海と化した元長官、恒二の自社ビル最上階から、都会の空にダイブしたわたしとひな。
警視正の指示通り、飛び出す直前。
これまで随分と遠く見えた地上が、案外と近く見えた。
これなら、『切断』スキルで途中の空間を上手くカットしたり、ひなの風系の術で減速すれば無事に着地出来る……。
なんて一瞬思ったが、そんなのは大きな勘違い。
地上二十階、多分七十メートルは越えているところからの落下。
ほんの一、二秒で地面が迫ってきた。
「ひなちゃん!」
せめて、ひなだけは助けよう。
わたしの身体がクッションにでもなれば。
眼を閉じて、ひなをぎゅっと抱きしめた。
・
・・
・・・
「あれ? 痛くない」
地上に激突したはずのわたし。
何故か、今は空を飛んでいる。
「……何かに掴まれている?」
わたしとひなの身体は、何か大きな手みたいなもので受け止められたのか、今は軽く握られていた。
「よう、嬢ちゃんたち。さっきぶりだな。偉くボロボロだが、アイツら相手に生きてるんだから、上出来だ」
「え!? えー!!!」
「……お姉さま、うるさいのじゃ。一体、どうした……。きゃー、此方、魔神に掴まれているのじゃぁぁぁ!」
落下の衝撃で気絶していたひなが起きだし、わたしの腕の中で大声を上げる。
何故なら、わたしたちは警視正と戦っていたはずのグレーターデーモンによって落下から救われたのだから。
「助けるのが遅れてごめんね。ひな。綾香ちゃん。太田さんが出血多量で危なかったから、先に地上に送ってて時間がかかったの」
わたしたちを凄い笑みで見下ろす魔神の背中。
そこから警視正の声が聞こえてきた。
「母さまぁぁぁl! し、心配したのじゃぁぁ。それにヌトヌトが増えて怖かったのじゃぁぁ!」
ひなは、これまで我慢していたのが、すっかり弾けてしまった。
わたしの前で、初めて年相応。
まだ幼い女子小学生らしく、母親に泣きついた。
「ごめんね、ひな。あ、和也くん。二人を背中に乗せてくれない? 貴方も手が空いた方が楽でしょ」
「はいな、姐さん」
魔神の肩口から顔を出し、謝る警視正。
彼女は魔神に命令を下し、魔神も大人しく言う事を聞いた。
「あ、ありがと。魔神さん……でいいの?」
「出来れば、カズヤと名前で呼んでくれや、綾香嬢ちゃん。一応、元は人間だから」
「助けてくれてありがとうなのじゃ、カズヤお兄さま」
「う、え、ま……。まあ、今のオレが姐さんの使い魔だから、姐さんの娘さんを助けるのは、当たり前だぞ」
長い尾で巻き取られ、魔神の大きな背中へと運ばれたわたし達。
助けてくれた礼を言うと、彼は妙に言いよどみ、照れたように顔をそむけた。
昨日倒した義眼デーモンとは、印象があまりに違い過ぎる。
……あれ? 今、使い魔って言ったよね。グレーターデーモンを使い魔にする警視正って、何者なのよぉぉ!
「この子、チンピラが闇バイトに引っかかっただけみたいなの。さっきは脅す様に酷い事言ってたけど、その実は根性無しね。わたしが色々仕込んでいた呪符使って身柄確保したら、殺さないでって命乞いするんですもの。自分は誰も傷つけてないし、もう暴れないってね。だから、無理やり使い魔の契約したのよ。うふふ」
「姐さんには、絶対に歯向かいません……。もー、あんな怖い目にはあいたくねぇ。それに、あっちみたいに使い捨てにされるのも嫌だ―!」
笑いながら、自分が座り込んでいる魔神の背中をぱんぽんと叩く警視正。
それに怒る事もなく従う魔神。
彼は粘液の小山になってしまった恒二を横目に見て、震えあがっていた。
……一体、どんな戦い方すれば、殺さずに制圧した魔神を使い魔に出来るのぉぉ!??
魔神が怯えて従うほど追い詰めた警視正。
いったい、どんな戦い方をしたのだろう。
なんというか、想像を絶する戦いが行われたに違いない。
「母さま。また無茶したのじゃな。呪符を使えるとはいえ、同時に何枚起動したのじゃ? もー、心配なのじゃぁぁ」
「ほんと、ごめんね、ひな。でも、大丈夫よ。本家のお婆さまから、ひなが大事なら使えるモノ全部出してって、『少し』脅してもらったものだから、負担は少なかったわ」
ヘルメットを脱いだひな。
ぎゅっと警視正に抱きついて、泣きわめいている。
しかし、それもしょうがないだろう。
何度も死にかける目に遭い、その上に母は時間稼ぎにグレーターデーモンと一騎打ち。
精神的負担が極限になってしまうのも当然だ。
「それにね、この子。使い魔になったら、一番に貴女たちを助けに行くんだってうるさかったのよ。おかげで太田さんが危ないところだったわ」
「う、うるさいなぁ、姐さん。もういいじゃねぇかぁ。オレみたいな半端モノでも、実の妹と同年代の子には手は出せねぇし、女の子を心配して悪いかよぉ」
なんとふてくされてしまう魔神。
なるほど、わたしとひなに一切手出しせずに部屋を通したのも、奈良原の命令だけでは無かった様子。
……それで、奈良原は自分程に甘くないって言ってくれたのね。
「さて、状況は最悪。国の上層部は自衛隊を使い口封じを謀ったけれど、敵は健在……。どころか、バケモノになってしまったわ。どうしましょう。和也くん、何とかできる?」
「姐さん、無茶言うなよぉ。そりゃ、姐さんとの使い魔契約で、アイツらからは完全に縁は切れてっから攻撃は出来るっけど、オレの力は見た目ばかり。多分、小さな嬢ちゃんの方が攻撃力が上だぜ。空での足場がやっとさ」
警視正は魔神に頼むが、彼の力ではどうにもできないという。
……こうやって空を飛んでくれるのは助かるんだけどね。
「こうなれば、此方が儀式呪術を駆使してビルごと吹っ飛ばすのじゃ!」
「ひなちゃん、無理はダメだよぉ。もう魔力の余裕もないんでしょ? さっきから、肩で息してるし」
ひなは、懐から大量の呪符を出し、大技を繰り出そうとする。
しかし、どうみても精神的にも肉体的にも限界状態のひな。
無理をすれば、命にかかわりかねない。
「じゃあ、どうするのじゃ、お姉さま。このままアヤツが真の邪神になるのを、手をこまねいてみているだけなのかや?」
「多分だけど、わたしなら倒せる。ううん、中から核になっている元長官を切り離せると思うの」
焦るひなの頭に、手袋を脱いだ手をそっと置き、優しく撫でる。
そしてわたしは、先程感じた「違和感」。
邪神の中から、恒二を切り離せるのではと告げた。
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