第66話 切り捨てられた主
戦闘が終わり、バトルフィールドに一時の静寂が訪れる。
「あ、葵が負けるなんて……。あのオンナには、ずいぶんつぎ込んだのに!? くそぉ。どいつもこいつも役立たずの愚民だ」
「しょうがありませんです、恒二坊ちゃま。部屋を破壊されるのを嫌い、葵さまに面制圧攻撃魔法を使用禁止したのが大きな敗因ですから」
女性魔神将を、わたし達はギリギリの策で倒した。
運よく勝てただけの辛勝だった。
加速呪術の二重掛けという無茶と策謀を重ねて、ようやく。
ひなは、呼吸困難と猛烈な吐き気、全身を走る激痛に苦しむわたしの背中をさすってくれた。
わたしは、小さくも暖かいひなの手をぎゅっと握り返し、なおも悪態を喚き散らす敵の首魁。
元帝都安全保障庁長官をにらみ返す。
少し前まではイケメン若手国家議員として、誰にも人気だった彼。
だが、今はセットされていた髪を激しく乱し、高級背広も着崩れてしまい、すっかり落ちぶれた姿を惨めに晒す。
「はぁ、はぁ、げほ……、ふぅ。残念だったわね、顔だけ長官さん。あ、ごめんなさい。もう長官は『首』でしたね。これで逮捕となれば、只の犯罪者。国会議員の職もパーです」
「愚民、愚民と他人を貶すのじゃが、一番の愚か者はお主じゃ! 国や民は、お主一人が自由にしてよいものではないのじゃ!」
息を整えながら、わたしとひなは言い返す。
命を奪わざるを得なかった、悲しい女性魔神将。
驚愕の表情のままチリと化した彼女を思って。
……人の命をバカにしないでよぉ! 愛情交わした相手を犠牲にした後に、叫ぶセリフかー!
「こ、小娘が、生意気にぃ! だが! だが俺には、まだ奈良原もいる。奈良原、命令する。あの小娘どもを殺せ。全力をもって、むごたらしく殺すんだ」
「御意……と、申したいところですが、お断りいたします。私、戦闘に関しては契約外です。主従契約を先々々代と行って百年ほどになりますが、その際にお約束しましたのは、鷹宮家に栄光と英知、富を与える事。戦う事は契約外です」
奈良原、なんと主人からの命令を拒否する。
これまでも、主人の元長官をバカにしている感じだったが、とうとう裏切るような事を言い出した。
……っていうか、百年前に契約したって言い切ったよ! やっぱり、彼は人間じゃなかったのね。
「お、お前は……。この期に及んで俺を裏切るのかぁ!? ん、百年? え? え? じゃあ、お、お前は一体何歳なのだ?」
「今まで疑問に思わなかったのですか? 幼いころから、私の姿が全然変化していませんですのに。あ、失礼。認識阻害呪術をずっと使ってましたので、ニンゲンなら気が付きませんですよね」
燃える様に紅く輝く瞳の奈良原。
自らの主に対し、正体を現しだした。
額に三つ目の眼が開き、彼から立ち上がる妖気が一気に吹き上がる。
「う、嘘。そ、そんな……」
恐怖から後ずさりして奈良原から距離を取り出す恒二。
しかし、奈良原は満面の笑みを浮かべながら、更に語り掛ける。
「しょうがないですねぇ、坊ちゃまは。まだ、あちらのお嬢さんがたの方が度胸ありますよ。私の妖気を浴びても怯えずに、睨みつけてくるんですから」
「ま、負けるもんか!」
「べーなのじゃ」
刀を杖にして立ち上がり、剣先を奈良原に向ける。
横に立つひなも、呪符を構えて奈良原に悪態をつく。
「ふははは。面白い、実に面白い。これだから、人間観察は辞められないんですよ。あら、坊ちゃま。何処まで逃げるんですか? 残念ながら、もう米軍は来ないです。先程、お断りのメールが来てますし、今から屋上ヘリポートも自衛隊の爆撃を受けますから。バリアから出ると死にますよ?」
奈良原が己の主をバカにした言葉を言い放った直後。
床や天井が激しく揺れる。
ゴーっという連続音と共に衝撃が走り、窓ガラスが粉々に割れる。
「これはコブラの二十ミリ機関砲ですか? 流石に魔神でも、機関砲相手では厳しいですね。あら、更にTOWミサイルとは贅沢ですねぇ」
手を眼の上にひさしのようにして遠くを覗き込む奈良原。
彼の視線の方角、小さな閃光が見えたと思ったら、それが一気に大きくなる。
「うそ、ミサイル!?」
「対戦車ミサイルなのじゃぁ。お姉さま、バリアの中に!」
閃光が最大になったとき、すさまじい轟音と衝撃が襲い掛かってくる。
天井板が何枚も落ち、爆風と煙が部屋に吹き込んでくる。
コンクリートや金属片らしきものが室内に飛び交う。
幸い、ひなの張ったバリアの中に隠れたわたしは無事。
「な、なんてことをするの!?」
「都内で民間ビルにミサイル撃ち込むなぞ、正気とは思えぬのじゃ」
奈良原のバリアー内にかろうじていた恒二も無事のようだ。
「な、なぜ? 俺を殺す気か?」
「国は余程、今回の事態を早急に収めたいようですね。あら、機関砲でトドメとは念入りですねぇ。綾香さん、そこは危険地帯ですよ?」
奈良原の呟きがわたしの耳に飛び込むと同時。
悪寒を感じたわたしは、ひなを抱えてがれきが散乱する部屋の中。
大きく飛びのいた。
「きゃ」
わたしが飛びのいた後の床に、大きな穴がいくつも開く。
ブーンという連続した銃声らしき音が、弾痕ができた後から聞こえた。
「こ、此方たちがおるのを知ってて、自衛隊は砲撃したのかや? 二十ミリ機関砲など食ろうたら、人など形が残らぬぞ!」
「全員纏めて、口封じなのかしら?」
「う、うそだぁ。俺は国に尽くした! 俺が育てた連中だぞ! 国が俺を裏切るはずなんか、ありえない!? アイツら、俺が便宜を図ってやったのに、恩知らずがぁ」
天井が半分以上落ち、攻撃で空いた穴から空が見えるようになってしまった部屋。
その穴から、機関砲をこちらに向けた戦闘ヘリが浮かんでいるのが見える。
「FTIRで隠れても無駄ですね。私以外は、皆殺し。坊ちゃま、どうなさりますか?」
にんまりと黒い笑みを浮かべる奈良原に、わたしはぞっとした。
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