第65話 切り札は足元に
半径50メートルはあるバトルフィールドの中心付近。
わたしとひなはお互いに背中合わせ。
二人の周りを高速移動、更には時折空間転移してフェイントを掛ける敵。
美人女性の姿をした超高位魔神、魔神将。
「回って転移しているだけでは、わたしは倒せないわよ!」
「お姉さま。あまり挑発するのは危険なのじゃ」
いつでも襲い殺せるとでも思っているのか。
これまで無表情だった妖艶な顔に、うっすら笑みを浮かべている。
「は、早く小娘共を殺せ! 奈良原、米軍は。迎えのヘリはどうなっている!?」
「落ち着いてくださいませ、恒二坊ちゃま。米軍には既に連絡済み。下層部においても空間の隙間に潜ませていた魔神兵で時間稼ぎは充分ですので」
遠くに見えるミニカウンターで高級酒を煽る「元」帝都安全保障省長官、鷹宮 恒二。
バトルフィールドを簡単に作り上げた執事、奈良原に文句を言う。
……米軍? なるほど、治外法権を利用してアメリカに逃げるつもりね。絶対に逃がさないわ!
女性魔神将の金色な瞳から視線を外さず、タイミングを狙う。
既に転移術のネタは分かった。
後は、どう誘い込むか……。
「ひなちゃん。加速呪文を追加して」
「そんなことしたら、お姉様の身体が壊れちゃうのじゃ」
わたしは小声で、ひなに提案する。
加速呪文を二重掛けする事で、一気に勝負を賭ける。
「今は、躊躇している時じゃないわ。発動は、わたしの認証にして」
「……分かったのじゃ。お姉さま、絶対に勝つのじゃぞ」
ごにょごにょと呪文を唱えるひな。
身体が魔力で覆われるのを実感した。
「ありがと。次で決めるわ」
「分かったのじゃ」
じっと敵の動きを観察する。
こっちからもフェイントを掛けると、微妙に移動先を変えてくる。
「……来た!」
転移でいきなり移動方向を反転させて突っ込んでくる女性魔神将。
刀を片手持ちにし、左手を腰に当てる。
ワイヤーを引き抜き、一気に引き出して前方に投げだした。
「……!?」
ワイヤーが絡みつくのを嫌った彼女。
視線を一瞬泳がせた後、わたしの後ろを睨んだ。
「そこぉぉ!」
女性魔神将の視線先。
転移先であろう方向に、わたしは視線を向けずに足元にあったヘルメットを蹴り込んだ。
「……え!?」
女性魔神将はわたしの視線から消える。
急ぎ、ヘルメットを蹴り込んだ先へ振り返る。
すると、見事に脚を引っかけて転んでいる女性魔神がいた。
「逃がさない!」
再び転移されないよう、伸ばしていたワイヤを引き込み、起き上がろうとしている女性魔神将へと投げつける。
「……!?」
「勝負!」
キーワードを唱え、加速呪術が二重に発動。
視界から色が消え、周囲から音が遠ざかる。
一歩一歩前に踏み込むが、空気がねばつくように重い。
転んだまま、脚に絡んだワイヤーを外そうと視線を脚元に向けている女性魔神将。
……このまま、首を飛ばして決める!
刀の間合いまで踏み込むと、女は無表情の顔を上げ、炎の鞭を振りかぶる。
……遅い!
鞭を持つ手首を狙った斬撃、右の手首が空を舞う。
次なる攻撃、首を斬り飛ばそうと構えを変える。
……嘘!?
しかし、魔神将は、一切怯まない。
絡んだワイヤーを無視して起き上がり、左手を突き出す。
空気を避けながら突き進んでくる左抜き手。
攻撃態勢に入っていたため、避け切れず刀が弾き飛ばされる。
……しまったぁ!
白黒の視界の中。
斬り飛ばしたはずの右手が再生。
左手同様に、抜き手でわたしを襲う。
……死ねないの、まだ!!
とっさに動いた身体。
普段は足さばきにしか使っていなかった脚。
強靭な踏み込みを攻撃に転移。
ちょうど足の前にあった女魔神将の顎先を渾身の力で蹴り上げた。
……このまま!
蹴りの一撃で完全に伸びあがった女の身体。
飛ばされた刀が目の前に落ちてきたので、掴む。
そして、真っ白できれいな首目がけて、横一閃に振りぬいた。
「……くぅ。は、はぁはぁはぁ。ぐ、げほげほ」
加速呪の効果が切れたのか、視界に色が戻る。
無呼吸で動いていたので、酸欠になり、激しく咳き込む。
俯き座り込んでしまい、一歩も動けない。
「お姉さま、やっぱり無茶だったのじゃ!」
「こ、こうでもしないと、……。この女性には勝てなかったわ。はぁはぁ」
ひなが急いで駆け寄ってくれ、わたしの背中を優しくさすってくれる。
少し息が戻ったので、視線を上に上げる。
「……ごめんなさい。こうでもしないと、貴女には勝てなかった。強くて美しいお姉さん」
絡んだワイヤーの先、首を失った女性の遺体は端からチリと化している。
「此方だけでは、絶対に倒せなかったのじゃ。哀れじゃが、可哀そうなお姉さまだったのじゃ」
驚きの表情のまま、眼を見開いたままの顔。
首だけになった女性魔神。
もう動かず、崩れようとする顔を、ひなは優しく撫で、見開いていた目を閉じさせた。
「さようならなのじゃ。次は優しい男を見つけるのじゃぞ」
ひなは涙声で魔神将になってしまった女性を見送った。
「ふぅふぅ」
涙にぬれた顔をジャージの袖で拭う。
そして、わたしは悪の根源。
愚かにも無謀な野望を夢見て、多くの人々を犠牲にした国会議員。
鷹宮 恒二を睨みつけた。
「鷹宮 恒二! わたしは、貴方を絶対に許さない!」
狼狽える恒二の横。
切り札を倒されたはずの奈良原。
彼は、不気味にもうっすら笑みを浮かべていた。
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