第64話 切り開く兆し
魔城と化した帝都安全保障省庁舎、その最上階。
奈良原が歪めたバトルフィールドの中で、死闘が始まる。
「……参ります」
その中心に立つ妖艶な女性魔神将。
彼女は、ぼそりと呟くと、わたし目がけて飛びかかってくる。
その踏み込みは、瞬く間に五メートル以上離れれていた間合いを接近戦にまで迫る。
「う! 早い!」
彼女は、手に持つ炎の鞭を振り回す。
思った以上に伸びる灼熱の鞭先。
なんとか刀で弾くが、先端が戦闘ジャージの裾を掠り、チリチリと焦げる。
「くそぉ!」
守ってばかりではダメと攻撃を仕返すも、そこに魔神は居ない。
加速呪術によって動きも思考も早くなっているはずなのに、わたしの視界内に捕らえる事が出来ない。
「く、来るでないのじゃ!」
ひなの声を聴き、そちらに視線を向ける。
そこには、今にも炎の鞭を振りかぶろうとしている女性魔神が居た。
「させるかぁぁ!」
全力の踏み込みで、大理石らしき床が砕ける。
音を追い越す様な速度で、ひなの前にたどり着く。
眼前の魔神の振りかぶる右腕目がけて、刀を振り上げた。
「お姉さまぁ!」
わたしが高速移動した際の衝撃音が、ドスンと後から響く。
そして、女性魔神の腕が手に持った炎の鞭ごと、宙を舞う。
しばらく無音が続き、トスンと斬り捨てられた腕が床に落ち、瞬時にチリと化した。
「……!?」
それまで無表情に近かった女性魔神の顔に、疑問が浮かぶ。
自分の右腕の肘から先が無くなっているのを、不思議そうな顔をしている。
「出血していないのじゃ!?」
「もう、人じゃないのね」
ひなが驚くように、わたしが斬り飛ばした腕からは出血がしていない。
魔族女性は、しばらく先が無くなった腕を見ていたが、その腕を軽く振る。
「え、再生した!?」
「腕を斬り落としたくらいで安心してはダメですよ。ですが、音速を越えた踏み込み。実にお見事」
奈良原がわたしを賞賛するが、それどころではない。
女魔神将の傷跡から粘液が吹き出すと同時に、腕が生えて元通りになる。
そして何処からか、再び炎の鞭を取り出した。
「……貴女たち、強いのね。じゃあ!」
そう呟いた女性魔神将は、再び襲い掛かってきた。
「ど、どうやって倒したら!?」
「動きが早くて呪文を当てられないのじゃ!?」
これまでの敵とは全く違うタイプ。
力押しばかりしか無かった魔神の中で、初めてのスピードタイプ。
そして腕を飛ばしたくらいでは再生してしまう。
……だったら、数撃当ててから首を落とせば?
「はぁ!」
幾度も切り込むのだが、簡単に攻撃をいなされる。
更には、時折挟んでくる謎の歩法で、目の前から消える。
そして死角から斬り込んでくるので、避け辛い。
殺気、というより気配が薄く、次の攻撃が読み切れない。
「お姉さま、大丈夫なのかや? アヤツは短距離転移呪も使うようなのじゃ」
「今はまだ、な、なんとか」
流石に全部の攻撃を避け切れず、戦闘ジャージにはいくつもの焼け跡が付き、火傷の跡がズキズキと痛む。
ひなは、治癒呪術を使ってくれるが、いつまで致命傷を避けられるか。
「……案外、しぶといのね」
ぼそりと呟く女性魔神将。
ぺろりと舌なめずりをするしぐさに強い色気を感じるが、こっちはそれどころではない。
「ふ、ふん。負けてなんてあげないわ」
「そうなのじゃ!」
負け惜しみを言うが、正直どう倒せばいいのかが見えてこない。
人型かつ人間サイズであるから、これまで祖父に習った剣術が生かせるはずなのだが、魔法を併用されてしまい、動きが分からない。
「はぁはぁ……」
「さて、息が切れだしましたか。葵さん、そろそろトドメに参りましょうか。残念でしたね、綾香さん、ひなさん」
わたしの息が切れだしたのを見て、悲しげな顔をして女性魔神将に命令を下す執事、奈良原。
……あれ!? 彼の前で名前を言った覚えがないのに? どうして。
しかし、わたしには考える余裕はない。
女性魔神将は、転移術を併用しての高速移動で、わたしとひなの周囲を回りだした。
「ひなちゃん、わたしから離れないで」
「お姉さま、此方も頑張るのじゃ」
時折、姿が消えたかと思えば、逆回転。
わたしが姿を見失うのを狙っての行動。
ヘルメット内カメラ越しの映像で、捕らえきれなくなっている。
「きゃ!」
女の急激なステップバックでカメラ映像に残像が残る。
目の錯覚かと思った瞬間、いきなり上からの斬撃が迫ってきた。
刀で受け流そうとするが、相手の刃は実体の無い炎。
ヘルメットごしの映像が真っ赤になり、顔に激しい熱さと痛みが走った。
「お姉さまぁ!」
「ひなちゃん、私にかまわず。今よ!」
思わずしゃがみ込んでしまうが、敵は目前。
ひなは、わたしの意図を組んでくれ、治癒呪術ではなく、氷結弾を撃ち出す。
そして、蒼い球は女性魔神に直撃し、ひるんだ彼女は大きくバックダッシュ。
わたし達から、大きく距離を取った。
「くぅぅ。……痛い」
「お姉さま。あ、酷い火傷。治癒するのじゃ」
焼け焦げたヘルメットを脱ぐと、ひなは涙声になりながら、治癒呪術を使ってくれる。
「惜しいです。あれで即死しないとは、お見事。刃で炎を凪いで威力を半減させたのですか」
「奈良原! 小娘どもを褒める暇があったら、早くトドメをさせ」
遠くでは、関心する執事に文句を言う元長官がいる。
「ふぅ。ひなちゃん、ありがと。もう戦えるわ」
「完全治癒できぬで済まぬのじゃ」
必死に火傷を治癒しようとしてくれるひなの手をそっと握り、もう構わないという。
既に女性魔神は、呪術で凍った部分を炎の鞭で溶かし、再戦を狙う。
……瞬間移動する相手にどうやったら、攻撃を当てられるのかしら?
再び、高速歩法と転移術でかく乱してくる女性魔神。
その一足一挙動から眼を離さない様に、裸眼でじっと見る。
消えた。
次の瞬間、左。
また消える。
今度は右後方。
……あ!? そういう事だったのね。
一見、法則が無いような転移。
しかし、よく見れば彼女の転移先は、金色の瞳が見ていた先。
それが分かれば、もう見失う事は無い。
後は、どうやって攻撃を通すか。
ゆっくり移動しながら、策を考える。
考え事をしていたからか、脱ぎ捨てたヘルメットに気が付かず、脚に当たって転びそうになった。
……足元のヘルメット、邪魔だなぁ。これに脚を引っかけたら転んじゃう……。ん!?
わたしは、脱いだヘルメットを邪魔に思った瞬間、女性魔神将を倒す作戦を思いつく。
「さあ、来なさい。悲しいお姉さん。貴女にもう悪夢は見せない!」
わたしは、気合を入れるべく声を張り上げた。
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