第63話 切り札たる魔女
「奈良原、アイツはまだ来ないのか? 早くしないと、小娘共が!?」
「大丈夫ですよ、坊ちゃま。このお嬢さん方は賢いので、いきなり坊ちゃまに襲いかかるような事は致しません。ですよね?」
「くぅ」
「アヤカシめえぇ。化けの皮を剥がしたいのじゃ!」
完全に包囲され、「落城」するのも時間の問題。
そんな自社ビルの最上階の最奥。
自室にてイライラと爪を噛み、落ち着かない「元」帝都安全保障省長官。
だが彼の執事でありながら、奈良原はこの後に及んでも涼しい顔。
わたしとひなを縫い付ける様に視線を向け、言葉と魔力による威圧でも動きを封じる。
「あ、いらっしゃいましたか。梓さま、こちらです」
奈良原がドアを開けると、いかにも美人OLさんという印象のOL制服姿の女性が入ってきた。
しかし、彼女の表情は変化が薄く、わたし達の方を一瞥はするがさした反応がない。
そして、日本人のはずの彼女の瞳が金色に光る。
……この感じ! まさか、彼女も!?
奈良原の指示を受け、静かに反応する彼女。
緩やかにパーマした髪を上品に編み上げている。
化粧も、淡くナチュラル風。
痩身ながら胸回りは膨らみも豊か。
腰は大きく括れ、ヒールを履いた脚はストッキングに包まれのびやか。
金色の眼以外は、ステキなお姉さま。
そして、彼女から立ち上る気配と漏れ出る圧倒的な魔力が人外になってしまった事を物語る。
「ひなちゃん。これ、本気で戦わなきゃ不味いわ」
「見た目で油断できぬのじゃ」
わたし達は、即時臨戦態勢に入る。
この女性、奈良原が話していた通り、グレーターデーモンよりも恐ろしい存在だ。
「梓、今こそお前に与えた力の使いどころだ。変身して、真の姿を見せろ。そして、あそこにいる小娘を殺せ。だが、部屋を荒らすなよ」
「……はい、恒二さま」
元長官の命令を受け、うっすら笑みを浮かべながら顔を上げ天井まで魔力を吹き出す女性。
圧倒的な魔力に、わたしは吹き飛ばされそうになる。
「そうですねぇ。ここで戦いますと家具が傷みます。待ち合わせ室のものと違って、ここの物は高価。広範囲攻撃は禁止。バトルフィールドを展開しましょうか」
そう執事、奈良原が呟き、パチンと指を鳴らす。
すると姿が変化しつつある女性を中心に部屋が同心円状に広がっていく。
「空間湾曲呪術じゃぁ!」
「じゃあ、廊下を歪めていたのも執事の力なの!?」
あっというまに、女性を中心として部屋は半径50メートルを超える。
奈良原は、更に元長官の元へ歩み、周囲に結界。
バリアーらしきものを展開していた。
「……執事はひとまず置いておきましょう。まずは、あの女性を倒すことを優先!」
「うんなのじゃ」
既に鞘から抜いていた刀を女性に向ける。
彼女は既にOLでは無い。
吹きあがる漆黒のオーラに包まれ、異形へと変貌していく。
「……。躊躇したら、こっちが死ぬ。先手で攻め込むわ!」
「<韋駄天>なのじゃ!」
ひなに加速呪を貰い、瞬き一つの間に女性へと踏み込む。
そしてオーラごと切り裂くように、上段から全力で斬りつけた。
「う、嘘!?」
しかし、わたしが斬り込んだ刃は、オーラから飛び出した華奢な手に止められる。
がっちりと指先で刀の峰を握られ、必殺の一撃を完全に無効化された。
「なれば<帝釈天・雷撃呪>じゃぁ!」
私の背後から雷撃を見舞うひな。
しかし、オーラの表面で弾かれ、中には一向に届かない。
「は、放してぇよぉ」
ギリギリと刃を捻り、折れそうになりながらも、刀から指を離させる。
そして、今度は胸の位置辺りに突き技を繰り出す。
「こ、これも止めるの!?」
しかし、もう一本の腕が漆黒のオーラから飛び出し、そこに持つ炎の鞭で、わたしが繰り出した切っ先が弾かれた。
「……キシャァァァ!」
超音波じみた奇声を上げる元OL。
その咆哮と共に、彼女を覆っていたオーラが吹き飛ぶ。
「綺麗……。でも、怖い」
「もしや、これはアークデーモン。魔神の将軍格かや?」
わたしは、一旦大きく後ろに飛び去り、そこからあらわれた魔神を凝視した。
オーラの中から飛び出したのは、理想的な女性体形の魔神。
人間と比較しても各部のサイズは殆ど変わらず、逆に魅惑的。
その表情は妖艶であり、視線ひとつで人を魅了する。
頭部からは、左右にねじくれた角が長く伸びる。
ボンテージじみた衣装をまとい、豊満な胸と長く伸びるしなやかな脚が眼を奪う。
「ふはは! 梓は俺の『女』だ。素養も高い。だから最上位魔神と融合できたのだ!! 君らも俺の側に付かないか? 愚民どもに従う必要など無いぞ」
自慢げに自分の愛する存在を改造したと言い張る元長官。
その醜悪な姿に、わたしは一時彼がイケメンだと思った事を恥じた。
「最悪……。間違っても貴方につくことは無いわ。顔だけ議員さん」
「此方もそうなのじゃ! この間抜け面の愚か者めぇ」
「ぐぬぬ。奈良原、小娘どもを痛い目に合わせてやれ。死ぬ思いをすれば、思いを変えるだろう」
わたしとひなの悪態に顔色を変え怒る元長官。
「御意、坊ちゃま。そういう事なので、お嬢さま方。ご健闘なさってくださいませ。梓どの、ご存分にお暴れを」
「……了解致しました。マスター」
そして元長官の命令で動きだす奈良原と女性魔神。
背筋に流れる冷たい汗を感じながら、わたしはヘルメットの中で固唾を呑む。
ここから始まる戦い、絶対にひなと一緒に生きて帰る。
そう願って、刀を握る指に力を込めた。
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