第62話 切り離された常識
「お若いのに実に興味深い。大した触媒や儀式を用いずに大きな『力』を行使できるとは、素晴らしいです。一体、どう修めれば、その力に至るのです?」
「……。少し黙っていてくれないかしら、執事さん? あと、いつになったら到着するの?」
「執事どのは、うるさいのじゃ!」
警視正と別れてから既に十分以上、黒執事に先導されて暗い廊下を歩いている。
彼の持つランタンのみを照明とし、他は全くの明かりが見えない。
歩く先にも、何の光も見えない。
「これはこれは。うるさくて、まことに申し訳ありません。私、可愛いお二人に出会えて興奮してます。空間までを切り裂くサムライ乙女。高位攻撃呪術をいとも簡単に繰り出す巫女少女。本当に楽しいです」
妙にハイテンションな黒執事。
振り返ってくる顔が、先程までの無表情に近いのとは大違い。
舐めるかの様な視線で、わたしとひなを見てくる。
そして、こちらが聞いていないのを一切気にせず、しゃべるのを辞めようとしない。
「戦闘前の緊張感が無くなるわ。貴方、わたし達を罠に嵌めたいの?」
「いい加減、目の前から消えて欲しいのじゃ!」
「酷いですねぇ。先程も申しましたよね。私は、『何があろうと』貴女たちには直接手出しはしません。どうか、私の主と『お遊び』くださいませ」
フザケているのか、真面目なのか。
黒い執事は、ケラケラと笑いながら語る。
そこには、主に対する敬意も、わたし達に対する敵意も無かった。
「あ、見えてきました。長距離の移動、お疲れさまでした」
わたしが文句を言おうとした瞬間。
突然、目の前に光が見えた。
「では、ようこそ。鷹宮家へ」
ドアの手前で立ち止まった執事、奈良原。
まるで演劇俳優のような立ち振る舞いで、わたしとひなを歓迎した。
◆ ◇ ◆ ◇
「奈良原。こいつらが、お前のいう厄介な存在なのか? 見た目、ただの小娘だぞ」
「恒二坊ちゃま。彼女らを甘く見ない方が良いですよ」
周囲が全てガラス張り。
いつのまにか、春の夕日が差し込む大きな部屋の隅。
ミニラウンジに座り、高級酒らしきものの入ったグラスを持ち、高級スーツに身を固めるイケメン議員が座っていた。
しかし、慌てて逃げてきたからか、セットしていたはずの髪は激しく乱れ、スーツのボタンも外しシャツの首元も開く。
ラウンジ机上に解いたネクタイが置いてあった。
「ふぅ……」
わたしは大きく深呼吸をする。
そして叫ぶ。
「『元』帝都安全保障省長官 鷹宮 恒二。貴方には国家反逆罪、収賄、政治資金規正法違反、詐欺、破壊活動防止法違反。並びに殺人及び殺人教唆、その他もろもろで、逮捕状が出ています。大人しく縛についてください!」
「早く投降するのじゃ! そうすれば、命だけ助けるのじゃ」
警視正に教えてもらった、元長官の罪状。
ヘルメット内モニターに表示された文面を読みあげる。
ひなも、彼に投降命令を出す。
「何を言う。小娘どもめ。逮捕状? そんなもの無効だ! いつの間に、俺は長官を首になった? 国会議員には不逮捕特権があるのを知らないのか? 今ドキの学生は法律も知らんとは……」
「残念! 確かに国会議員にはその特権がありますが、それは国会開催中のみ。その辺りは公共科目で習うわ」
「此方、難しい話は分からぬのじゃ! じゃが、国会議員が法律知らずとは、おかしいのじゃ」
ひなが少々茶化す様に話すが、元長官に不逮捕特権が無いのも事実。
わたしは、彼に向かって一歩前に進む。
そして刀を抜いて元長官に突きつけ、更に問い詰める。
「これ以上抗っても、何も良い事はありません。早く、部隊に停戦命令を出して、大人しく捕まりなさい!」
しかし、わたしの声で反応したのは奈良原だった。
「ふははは。坊ちゃま、女子高生に知識で負けてどうしますか? もう徹底抗戦しかないでしょう。捕まりたくないのでしたら、私にご命令を致してくださいませ」
「くぅぅ。奈良原、お前は俺の側近で無かったのか? 小娘の戯言で喜んでどうする!? く、くそぅ。まだ、俺は終わっていない。そ、そうだ! あの『女』を出せ! アレなら、絶対に負けぬだろ?」
慌てる元長官は、琥珀色の液体が入ったグラスを乱暴に投げ捨てる。
割れるカットグラスの破片が大理石調の床に飛び散らかる中、新たな命令を奈良原に命じた。
「御意。彼女を早速呼びますね。お嬢さん方、これから出てきますのは、グレーターデーモンを越えた更に上位魔神。御覚悟をなさってくださいませ」
「ま、まだ抗うんですか? それなら貴方にも容赦は……。う!」
「ぐぅ。こ、怖いのじゃ」
元長官の名に従い、スマホで何処かに連絡をする奈良原。
わたしは彼の行動を止めさせようと刀の刃先を向けるのだが、その瞬間。
凄まじい殺気と悪寒がわたしとひなを襲う。
刀を握る指先に力が入らない。
唯一出来る呼吸だけが、浅く速くなっていく。
突きつけた刃先が動けず、一歩も踏み出せない。
「ええ。私の行動に手を出さなければ、『私自身』は何もしませんので、そのままお待ちくださいませ」
執事、奈良原の言葉が終わると、殺気も消え、身体が動くようになった。
「貴方は一体何者なの?」
「お主、ヒトではないのじゃろ? 正体を吐くのじゃ!」
「貴女がたがもう少し強くなり、私の呪縛に掛からなくなった時、お教えしますね。その時が楽しみです」
真紅の瞳に軽薄な笑みを浮かべる奈良原。
彼の妖気は、更に増していった。
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