第59話 死地を斬り抜ける
昼間なのに、薄暗いビル最上階の廊下。
多くの部屋が並んでいるが、そのドアは全て防弾仕様であろうシャッターで封じられている。
一歩一歩、警戒しながら前に進むのだが、カツンカツンと石張りの床に足音が大きく響く。
「こりゃ、気合入れていくしかないな」
「まさか、わたし達を追い詰める罠だったなんて……」
「というか、呼び寄せる為だったと思うのじゃ」
「みんな、気を抜かないで」
四人パーティ。
先頭が散弾銃を構えた道明と、いつでも抜刀出来る準備をしているわたし。
中間が、術の準備をしているひな。
後衛が、自動小銃のトリガーに指を置いた警視正。
先程まで同行していた自衛官二人は、二十階の罠に嵌められ、再び分断されてしまう。
「まさか、各部屋に繋がる扉すら分断トラップだったなんて」
「階段がトラップ無しだったので、逆に警戒したのを逆手に取るなんて。敵がその気なら、罠を噛み砕くわ!」
わたしの呟きに警視正が反応する。
まんまと敵の掌の上で踊らされているので、怒りがこみあげているのだろう。
……二十階までの階段、他の階層への扉が全部閉鎖されていて、最上階に昇るしかなかったの。
廊下に並ぶ部屋、そこに伏兵がいないのかを確認していた自衛官。
部屋の中に確認するために飛び込んだ瞬間、十五階にあった階段への扉と同様に天井から重い金属板が落ちてきて、完全に分断された。
「前方の扉、開いているな。絶対に何か仕掛けてくるぞ」
照明が付かない廊下の先。
大きな両開き扉が開いていて、太陽の光が見える。
ヘルメット内の空気を熱く感じ、少し息苦しい。
緊張感が凄く、喉が酷く乾く。
固唾を呑み込み、柄を握る右手に力を込めた。
「……。何も見えないな」
「……警戒しながら、中に入りましょう。遮蔽物の影にすぐ隠れるように動いて」
扉の影から、鏡を差し出して中を確認している大人2組。
小声で指示を飛ばす。
「はい。2号ちゃん、いくわよ」
「うむなのじゃ」
引きつられて、わたしも小声で横にいるひなに呼びかける。
……絶対に、ひなちゃんと一緒に笑って帰るんだから!
警視正が指のサインでカウントダウンを始める。
三、二、一。
道明が分厚い木製扉の向こうに飛び出したのと同時に、わたしとひなも飛び込む。
背後では警視正が小銃を構え、銃口を部屋の中に向けた。
「2号ちゃん、こっち!」
「うん」
わたしは、ひなを引っ張って豪華な木製家具の影に引き込む。
道明も、わたしとは反対側の柱影に身を寄せた。
「……。何も無いのはおかしいわねぇ。1号ちゃん、木製家具は銃弾を止めないから、他の遮蔽物に移動しなさい」
数秒の沈黙の後。
警視正が警告をしながら部屋に入ってくる。
「は、はいです。2号ちゃん、移動するよ」
「のじゃ」
一発の銃声もなく、人の気配が一切ない大きな応接間。
床には、いかにも高価そうで分厚い絨毯が敷き詰められていて、踏み込むたびに足先が柔らかい毛足に沈み込む。
先程まで隠れていた木製家具も、綺麗な彫刻がほられている。
壁に掛けられた西洋画や、床に置かれた大理石彫刻も華美さは低いものの、優しいイメージを感じた。
……全部が高価そうなんだけど、品は良いよね。
よくテレビで成金趣味のお金持ちの部屋とか、海外の王族の部屋を見るが、それらは金ぴかが目立ち、正直あまり上品さを感じない。
しかし、この部屋はとても落ち着いた印象。
「美術品とかの趣味は良かったのね、あの長官は」
「二世議員だからか、親の教育は悪くなかったはずなんだがなぁ。だが、野望に目がくらんだのかねぇ」
周囲に目を配りながらも部屋を観察しつつ、一か所に集まる。
誰もが警戒を切らさなかったのだが……。
「し、しまった! ドアのロックを忘れてた」
ドスンと重い音を立て木製扉が閉まり、ダメ押しに上から金属板が落ちてくる。
「来るわ! 各員、警戒」
「上なのじゃ」
警視正とひなの声が重なる。
天井板が外れ、そこから目出し帽で顔を隠し銃を構えた魔神兵が幾人も飛び降りてきた。
彼らの眼は血の様に赤く光る。
「ふ!」
近くに飛び降りた兵の銃を持つ手を居合抜きで切断。
そのまま、返す刀で首を斬り飛ばす。
「ちきしょぉぉ」
背後で散弾銃の発射音が弾ける。
視界の端で敵兵が吹き飛ぶ。
倒れた敵兵の顔に道明が散弾銃をぶっ差し、トドメをさしていた。
「遮蔽物に!」という警視正の声。
彼女も絨毯の上を転がりながら敵弾を避け、応戦している。
しかし、わたしの視界には、ひなに銃口を向けた敵が大きく映っていた。
「させない!」
一瞬で間合いを詰め、守りが薄い敵兵の顔に渾身の突き。
脳中に刺さったであろう刃先を大きく捻り上げ、背後から迫ってきた敵兵にも斬り返す。
「此方も頑張るのじゃ! <金剛壁>なのじゃ」
ひな、呪符を振り回し、わたしや警視正らの周囲に防御シールドを貼ってくれる。
「ありがと、ふぅふぅ」
お互いの死角を庇いながらの戦闘。
敵銃弾は容赦なく放たれ、木製家具や西洋画、彫刻を穿つ。
高価な絨毯が血を吸って、どす黒く変わっていく。
部屋の中は、硝煙の匂いと血臭が充満する。
光取り窓の分厚い強化ガラスも銃弾で割られ、風も舞い込んでくきた。
「ここにきて、ダメ押しかよぉ」
道明がぼやく声が聞こえる。
視線を上に向ければ、天井板が更に落ちてきて敵兵が追加されていく。
「このままじゃ、危ないわ。早く、向こう側の扉から逃げます」
警視正は、柱の陰に一瞬隠れて銃の弾倉を入れ替える。
そして視線で逃げる先を示した。
……向こう側の扉は開いている。罠かもしれないけど、隠れる場所がないここで戦っていたら死んじゃう!
「ひなちゃん、行くよ」
「……うん」
銃弾が飛び交う中、怯えるひなの小さな手をぎゅっと握る。
暖かい命を感じ、前に飛び出した。
「邪魔!」
銃剣付きの小銃をぶつけてくる敵兵。
刀で銃剣の刃先をいなしながら、横腹を深く切り裂く。
崩れ落ちる敵兵の延髄にトドメをさしながら、わたしは前に進んだ。
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