第58話 刃を見定める者
「おい、奈良原。どうして、こうなったのだ? 私の願いが! 私の野望が全部崩れたのだぞ!?」
魔の城、帝都安全保障省の庁舎になるはずだったビル最上階。
豪華な家具に囲まれたミニラウンジに座り、乱暴気味に琥珀色の高級酒を煽るイケメン二世議員、鷹宮 恒二。
自分の側に立つ漆黒の執事、奈良原に向かって暴言気味に問いかける。
「まだ完全に、恒二さまが敗れた訳ではございません。確かに、今は追い詰められてはいますが、あくまで一時的。我らには魔神兵の製造ノウハウ。そして魔神召喚術という強大な力を独占しています」
しかし、落ち着きはらっている黒執事、奈良原。
彼は、幼子に言い聞かす様に、自らが仕える恒二に話しかける。
だが、彼の目線は恒二では無く、壁に掛けられた大型テレビに映るニュース映像と、監視カメラに繋がっているサブモニターに向かっている。
「これは、これは。二人の少女ですか。実に可愛らしく興味深いサンプルですね。先程も、グレーターデーモン撃退という面白い物を見せてもらいました」
「何を言っている、奈良原!? 今にも警官隊が突撃してくるかもという非常時に? 我らが敵なのだぞ」
奈良原が思わず呟いた言葉を聞き、恒二は怒りを見せる。
四十前に省庁長官という権力の座にまで上り詰め、一時は東京全てを自らの勢力範囲とした彼。
しかし、今や逆に国家権力から追われる身となってしまった。
そして、彼を追いつけることになった二人の少女を褒める執事に対し、怒るのも自然ではある。
「御安心を、坊ちゃま。自家用ヘリは押さえられてしまいましたが、幸いな事にアメリカ国防省とのラインは切れておりません。今、横田基地経由で空母搭載ヘリが、こちらに向かっています。一旦、横須賀の空母ジョージ・ワシントンまで逃げきれば、後はこちらのものです。屋上も、いまだ健在ですし」
だが、奈良原は薄く笑みを浮かべて、話題を変える様に次なる策を話す。
幸い、屋上には魔神を多数配置しており、ヘリポートは健在。
そこに米軍ヘリを到着させれば良いと。
「そ、そうか。確かに米軍基地、そして空母内は治外法権。魔神ノウハウを土産に、アメリカに一時亡命。後は、再び魔神の大軍を引き連れて日本を制圧すればいいだけだ。わははは!」
逃亡先が既に準備されている事を聞き、安堵する恒二。
グラスに入った高級酒を一気に煽る。
「そうです、坊ちゃま。坊ちゃまは、こんなところで終わって良い人間ではございませんですから」
眼だけが笑っていない笑みを、自ら仕えるモノに向ける奈良原。
彼の言葉ひとつに一喜一憂する単純な主。
それよりも、面白い「サンプル」。
「自ら」をも倒す可能性のある乙女たちの活躍を映すサブモニターを横目で見ながら、小声で呟く。
「ヒトというものは、実に面白いですね。逃亡自体、成功しても失敗しても、どちらに転んでも私には都合が良いのですから」
「そうだ! 国のために働いてきた私が弾圧される今の社会、政府が全て間違っているのだ。こんな愚民どもの政治を撃破し、真の日本を。賢き者たちだけが生きる世界を、私の元で作るのだ!!」
なおも、己の野望と妄想にしがみつく恒二。
その野望を砕くために、少女の身で戦う二人。
正反対の存在を見、奈良原の笑みは深く。
漆黒の闇を感じさせるものに変貌していった。
「恒二さま。ただいま、敵の分断に成功しました。こちらに繋がるルートを囮に使い、一番厄介な敵集団のみをこちらに誘導成功。他の残敵は、これより下層階で大量投入する魔神兵によって殲滅します」
サブモニターには、金属板によって分断され、慌てる綾香たちが映っている。
「そ、そうか。だが、一番厄介な敵を通すのは、どうしてだ? 彼らだけ殺せなかったのか?」
奈良原は、シラっという表情で、綾香たちをこちらにおびき寄せたことを恒二に説明する。
一番厄介な敵を通した事に疑問を浮かべる恒二だが……。
「御安心を。何故なら、ここには最大最強の魔神たちが多数います。そして更に最上位の魔神を召喚する魔法陣もございます。難敵には、魔神兵程度では勝負になりません。我らが最大戦力をぶつけてこそ、撃破出来るのです」
「う、うむ。理解したぞ、奈良原。これで我らの実力にも箔が付く。美少女戦士などと、もてはやされているが、所詮小娘が何人いようとも真の正義は我らにあり。勝利の暁には、堂々とアメリカへと亡命しようぞ!」
奈良原の屁理屈に、洗脳されたが様に高揚する恒二。
そんな恒二を他所に、サブミニターに映る二人の少女からじっと眼を話さない奈良原。
「では。しばし、『お客様』を出迎える準備を致します、坊ちゃま」
「ああ、後は任せたぞ、奈良原。私は、アメリカ政府との交渉材料を探しあげておく」
御意と、己の主に背を向け、部屋を出る奈良原。
彼の笑みは、ますます暗さを増していき、嘲笑に至る。
「さあ、いらっしゃいなさい。可愛い乙女たち。貴女たちと再び会えるのが楽しみです。どうやって、坊ちゃまを倒すのかも……」
暗い廊下。
そこを歩く奈良原の瞳孔の色が、まるで燃え盛る炎の様に真紅に変化する。
そして額からも鮮血色の光が見え、まるで三眼のよう。
更に彼の姿は歪んでいき、影がコウモリ羽を背中から生やした異形の怪物にも見えた。
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