第57話 切り離されたわたし達
「この防火扉の向こうに、上に繋がる階段があるんですね、警視正」
「初期の工事図面と同じだったら、そうなっているはずね。ただ、庁舎にするために追加工事が最近まで行われていて、その部分については工事内容が不明なの」
十五階まで八人の護衛部隊と共に階段を上ったわたし達。
ここまでは、省庁として使うために改装されていたよう。
更に上層五階分が長官の個人宅。
エレベーターも特殊コードを打ち込まないと、十五階以上に行けない仕様と聞いた。
「非常階段もエレベーターも別なんて、完全にここから上は個人宅なのですね」
「ええ、綾香ちゃん。なので、セキュリティもここからは別で厳しいみたい。どう、いけそう?」
「そうですね。もう少しお時間を頂ければ……」
防火扉の操作コンソールに機器を繋ぎ、セキュリティ解除を試みる自衛隊員に話しかける警視正。
わたし達の周囲も警察・自衛隊の混成部隊がしっかり守ってくれている。
「嫌な感じが、さっきからするのじゃ」
「わたしも、そう。なんか、何処からかジッと盗み見されているような感じ」
わたしとひなが、嫌な視線を感じると話すと、道明が天井を指さす。
「そりゃ、監視カメラじゃないか? ほら、そこの天井カメラ。稼働中のランプが点灯しているな」
道明が指さした先。
天井に半円型のカメラ機器があり、赤いLEDの光が見える。
「各階の電源を切っているのに、警備系は別系統みたいね。図面でも別系統とあるわ」
「べーなのじゃ!」
「2号ちゃん。ヘルメット越しじゃ、あかんべしても見えないって」
カメラに向かって悪態をつくひな。
その気持ちは十分理解できるが、ここは戦場。
油断はできない。
「あ! セキュリティ解除できました」
電子戦を戦っていた自衛官。
無事、最上階へつながる階段の開放に成功。
道明が、先ほどまでロックされていた防火扉を押すと、ギィと異音を立てて開いた。
「各員、チェック!」
早速、扉の向こうに飛び込んだ自衛隊員。
二人が左右に分かれ、ドアのこちらにも銃を構えた人がいる。
それぞれ、フラッシュライト付き小銃の銃口を周囲に向け、暗がりの中を照らす。
彼らは、敵の存在が無いかを確認している。
「右、異常なし」
「左、同じく」
「正面、敵襲無し。引き続いて、階段と上層部をチェック!」
階段が始まる広間で、キビキビと動く自衛隊員。
お話を聞くと、全員レンジャーとかいう特殊部隊の訓練を受けている人たち。
室内戦闘の訓練を受けているそうで、警察特殊部隊と遜色ない動きを見せている。
「警視正、どう見ますか? 普通、こういう場所には罠がありそうなんですけど?」
自衛隊員の動きを観察しながら、思いついたことを警視正に聞いてみる。
「そうねぇ、1号ちゃん。この感じだと、罠はさらに上かしら?」
「此方も、近くに気配は感じないのじゃ。ヤバイのは上にいるのじゃ」
「俺も同意見だな。油断させておいてからのトラップは、映画とかでも定番だし」
わたし以外の三人も、ここでなくても何処かに罠があるという判断。
敵の本拠地だからこそ、油断はできない。
「では、前に進みましょう。ここにいてもしょうがないですし。三人ほど、ここに残って場を確保。後から来る人達と合流してください」
「了解しました」
警視正が自衛隊に命令を出し、敵本拠へと進むことを提案する。
「お姉さま、緊張しているかや?」
「あ! うん、そうかも。また魔神がいっぱい出たらって思うとね」
しばし、ぼーっとしていたのを、腕を引っ張るひなに指摘されてしまい、わたしはびっくりした。
覚悟はしてきているつもりだし、これまでもヒトを斬り捨ててきた。
もう後には引けないし、これ以上悲劇は見たくない。
……だから、前に進むわ。
「行きましょう!」
「はい」
「のじゃ!」
「おう」
警視正とわたし達は警戒しながら、開放された防火扉を通過する。
わたし達の背後を警戒する自衛官が、後ろに銃を向けながら進む。
しかし……。
「きゃぁ!」
「危ない!」
わたし達四人の最後方にいた道明が、防火扉を通過した瞬間。
天井から分厚い金属製の板。
シャッターが凄い勢いで落ちてくる。
それは、激しい轟音と共に、建物自体が大きく揺らし、わたし達と背後の自衛官を完全に遮断した。
「だ、大丈夫ですか、道明さん?」
「ああ、なんとかな、綾香ちゃん。後ろの自衛官、挟まれてなきゃ良いが」
あまりに衝撃に腰を抜かした道明に手を貸し、退路を完全にふさいだ金属板を睨む。
しかし、わたしの視線くらいでは、どうにもできない。
「ダメです! これは扉なんかじゃなくて、ただの金属板。この音だと、分厚すぎて小銃レベルでは撃ち抜けません。通信は、なんとか出来ますが、ノイズが大きくて……」
急いで階段の警備から戻ってきた自衛官さん。
金属板を叩いたりしてみるが、その音はあまりに鈍い。
……ヘルメット内の情報ウインドウもデータが途切れたわ・
「これが、罠かよぉ」
「どうやら、わたくし達だけを招待したいのね。上のガキ長官は」
ぼやく道明に対し、上に伸びる階段を見上げる警視正は、悔しそうな顔をする。
「母さま。どうするのじゃ?」
「わたしの力を全部使えば、この板を切断できそうですが?」
わたしも上を見上げる。
照明も点灯しない階段。
あまり掃除をしていないのか。
埃っぽい空気の、最上階らしき部分から光が見える。
先程まで感じなかった殺気も、ビンビンと背筋に感じる。
冷たい汗が防弾着の下に流れる。
死を近く感じ、とても嫌な気分だ。
……罠というなら、噛み破って見せるわ! 絶対にひなちゃんと一緒に生き残る。
「ふぅ……。そうね。1号ちゃんの提案は魅力的だけど、却下。まだ敵ボスが居るのに、ここで力を使いつくすのは悪手ね。後、2号ちゃん。今は作戦中よ」
「しもうたのじゃ!!」
母と言ってしまったひなを窘めつつ、苦笑する警視正。
しかし、次の瞬間には指揮官の顔に戻り、命令を出した。
「自衛官の方。すいませんが、上までの警護をお願いします。さあ、地獄への一本道。皆、終わらせに行きましょう」
「はい!」
そして、わたし達は一歩ずつ、死に繋がるかもしれない階段を昇りだした。
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