第56話 優しさを斬り、戦場へ
「現在ですが、幸いな事にこちらには死者は出ていません。しかし多数の負傷者が出ています。ですが、エレベーターが動かなくなり、搬出方法は、階段のみ。ほぼ不可能です。ここでは止血くらいしかできず困っています。物資も、そう沢山残っている訳でも無いですし」
「そうですか。かなり苦戦してますね。一階からの支援にエレベーターが使えないのは苦しいわ」
一旦、十階エレベーターロビーに設置された仮設の中間指揮所に帰ったわたし達。
警視正は、簡易指揮所に詰めている警察官らしき人と話しているが、かなり苦戦している様子。
多数の負傷者をビル外に送れないのは困るし、まだビルの半分までしか制圧できていない。
通信機で指揮所と話しているらしい自衛隊員も、渋い顔をしている。
ここにも時折、銃撃音や何かが爆発したであろう振動が響いてくる。
周囲を見渡せば壁に多くの弾痕が残り、床には血痕を拭いたであろう跡も残る。
汗をぬぐうためにヘルメットを脱ぐと、埃っぽい匂いの合間に血と硝煙の臭気が混じっていた。
「今、兵士を乗せたヘリを屋上のポートに送る事も、HQは考えてはいると連絡ありました。ですが、ドローン映像では屋上のヘリポートに魔神が待ち構えており、戦闘ヘリによる攻撃も選択肢の一つに入ってます」
「それじゃ、『元』長官や彼の側近の身柄確保が出来なくなりますわね。他の兵はしょうがないとしても、彼ら主犯を逮捕して事件の真相を調査しなければ、今後の同様な異能犯罪を阻止できないですから」
どうやら、国の上層部や自衛隊は悠長には待っていられず、ビルごと容疑者を全て殺害する作戦すら考えている様だ。
……これ、犯人の口封じもあるんじゃないかしら。結衣ちゃんなら、裏事情知ってそう。
「無茶をするのじゃな、自衛隊は」
「今回の作戦は警察との合同作戦だから、いきなりそこまではしないと思うけど。でも、屋上を押さえるのは良い作戦かもね。ここから逃げるのを防げるし」
ひなは、負傷した人たちに応急処置で呪術を使った後、仮設椅子に座り一休みしている。
わたしも、そこに並んで座り一緒に休憩。
現在の状況を話し合う。
「ヘリで逃亡など、させる訳無いのじゃ! 既に空港で足止めしておるのじゃし」
作戦開始前に敵の装備を聞いたが、彼らは自家用ヘリを元長官の家で所有していた。
空港で既に警察がヘリを押さえているとの事だが、油断はならない。
「と言って、このまま逃げ道を封じておくのもヤバいよな。窮鼠なんたら……。ビルどころか、街まで巻き込んで自爆しかねん。しかし、どうして海外へ高跳びせずに、逃げ場のないここに立てこもったのやら」
スポーツ飲料をがぶ飲みしている道明。
ヘルメットを脱ぎ座って休憩しているわたしやひなの頭を少々乱暴に撫でる。
「子ども扱いしないでくださいよぉ」
「道明どの、痛いのじゃぁ」
彼の言う通り、若き政治家はどうして逃げ場のないこのビルに逃げ込んだのか。
いくら装備の備蓄があって、待ち構えることができるといっても、逃げるのが優先のはず。
わたしにも、疑問が浮かんだ。
……あのイケメン代議士。自分の言葉で話せていなかった気がするし、執事が裏でコントロールしていたのかも。なら、執事がワザと?
「そう、消防庁から高層ビル対応のはしご車を回してもらえるのね。なら、それで重傷者を一旦退避させましょう」
「了解しました。引き続き、自衛隊中心の屋上制圧部隊も同時展開するとの事です」
わたしが休憩している間に、作戦が進む。
十一階以降へアタックをしている部隊からの連絡も、指揮所には随時飛び込んでくる。
「ただいま、十五階まで制圧に成功したとのことです。ですが、十五階から最上階層に繋がる階段が電磁的に閉鎖されているとの事」
「情報、ありがとう。では、十五階に第二CPを作り、そこから頂上アタックとまいりましょう。ひ…。あ、違う。2号、1号ちゃん。これより、わたくし達も上にあがります。五分後に行動開始よ」
戦闘の緊張から解放され、つい気が抜けているのか。
ひなの名前を呼びそうになる警視正。
各員に命令を下したのち、わたし達にさらに上層階へと昇ると告げる。
「了解なのじゃ!」
「はい、わかりました」
「ここから上は、間違いなく魔神。おそらくはグレーター級以上がたくさん出ると思われます。二人には負担をかけるのだけれど、掃討をお願いするわ」
冷徹な指揮官の顔で、魔神掃討を命令する警視正。
しかし、次の瞬間。
「それと、これは最上級命令。絶対に死ななないでね。可愛い娘たち」
柔らかい母の顔になって、死ぬなと命じてくれた。
「母さまこそ、死ぬで無いのじゃ!」
「わたしも、誰にも死んでほしくないです!」
……本当は、敵にだって死んでは欲しくないわ。でも、今は倒すしかない。殺すのに慣れていくのね。
「もう、今は隊長か、警視正でしょ、ひな。でもね、ありがと」
警視正は苦笑しつつ、ぎゅっとひなを抱きしめる。
そして……。
「綾香ちゃんも、絶対によ」
「はい」
抱きしめてくれた警視正から、とても柔らかい匂いがした。
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