第60話 切り捨てられぬ命
豪華な応接間の中、激しい銃撃戦が繰り返される。
遮蔽物が何もが無い応接間の中、豪華だった家具や美術品が弾丸を受けて砕けていく。
更にどんどん敵兵が天井から落ちてくるため、ここで戦闘を続けるのは不可能。
迫る死から逃げるため、わたし達は入ってきた側の反対側にある開いた扉に向かって走る。
「もう、来ないでよぉ!」
何人も襲ってくる敵兵を、右手に持った刀で切り払いながら、前に進む。
「お姉さま、怖いのじゃ」
小さく暖かなひなの手を左手でしっかり握り、無言で迫ってくる敵を必死に切り伏せる。
「綾香ちゃん、ひな。早く部屋の外に出て!」
「はい」
わたしとひなの背後に警視正が付き、後ろから迫る敵兵を撃ち倒していく。
「最後ぉ!」
扉の前に居た敵兵を一撃で斬り殺し、部屋の外に飛び出す。
「柱の陰に隠れて!」
「はいです」
「のじゃ」
急ぎ、銃弾の雨から逃げるのだが、部屋の中にはまだ道明が残っていた。
「道明さん! 早く、こっちに」
「道明おじさま、急ぐのじゃ」
わたしとひなの声が銃撃音の上から、大きく響くのだが……。
「……俺は、ここで敵兵を食い止める。嬢ちゃんたちは、先に進みな!」
左手側に散弾銃、撃ち倒した敵兵から奪った小銃を右手に持って、同時に撃つ道明。
わたし達に、先に進めと言い放つ。
「そんな! 太田さん。そのままでは死んでしまいます。はやくこっちに!?」
道明を襲う敵兵を柱の影から撃ち倒しながら、必死に呼びかける警視正。
しかし、道明は敵兵から目を話さずに、優し気に呟く。
「こいつら……、元は俺の部下。元に戻せないのなら、引導を渡すのは俺の仕事だ。それに、誰かが足止めしなきゃ、い、いつまでも後ろから追われるぜ」
淡々と敵兵を撃ち倒していく道明。
しかし、彼の眼からは涙の筋が流れていた。
「そんな……。嫌です、道明さん!」
「おじさま、それはアカンのじゃ!」
わたしもひなも、道明がここでわたし達を生かすために「捨て石」になると気が付き、ダメだと叫ぶ。
しかし、非情にも敵兵は撃ち倒された以上に増員していく。
しばらく銃撃音だけが続いた後。
「……分かったわ、太田さん」
「警視正!」
「母さま!」
警視正は、道明の意見を受け入れた。
わたし達は文句を言うのだが、
「二人とも、太田さんの決意を無駄にしちゃダメ。先に進んで首魁を逮捕しなきゃ、戦いは終わらないの」
「く……、はい」
「おじさまぁ……」
唇を強く噛みしめる警視正の悲痛な表情を見、わたし達はそれ以上の言葉が出なかった。
「でも最初の命令は絶対よ、太田さん。必ず、生きて帰ってきて!」
「あいよ、美穂ちゃん。俺も、こんなところで死ぬつもりはねぇ。後から追いつくから、先で待ってな」
しかし、警視正は死ぬなとも叫ぶ。
彼女に対し、道明は半分ふざける様に、ワザと名前で呼びかけた。
「嬢ちゃんたち、絶対にま、負けるんじゃねぇぞ」
激しい銃撃戦を行いながら、わたしとひなに優しい言葉を掛けてくれた道明。
その決意を思い、わたしは彼に背を向けた。
「はい……。道明さんはわたしの大事な人。死んだら、……泣く前に怒りますからね」
「おじさま、お花見を一緒に行く約束を破るでないのじゃ」
「じゃあ、行くわ。さよならは言わない。また会いましょう」
ヘルメットの中を涙で濡らしながら、わたしは遮蔽物から廊下に飛び出す。
そして前に。
敵の待っているであろう次の部屋に向かって走った。
◆ ◇ ◆ ◇
「やっと来たかよ。待ち遠しかったぜ」
次の大きな部屋。
大広間であろう部屋に、巨大な魔神が座り込んでいた。
「貴方、知性があるのね? なら提案しますが、投降しませんか? もう下層は全部制圧済み。逃げ場所なんてどこにもないわ」
昨日倒したグレーターデーモンと同じ姿。
ゆっくり立ち上がり、巨大なコウモリ羽を広げる。
そして牙だらけの顔を、いやらしい笑みで満たす。
「どうしてオレが、人間ごときに投降せねばならん? せっかく、魔神の力を得、愚民どもを殺しまくれるようになったのに、止まるはずないだろ?」
しかし、警視正の提案をバカにするグレーターデーモン。
前例同様に、改造で歪んだプライドが肥大化された者だ。
「さあ、殺し合おうぜ。国のメス狗どもめ」
「……ふぅ。なら、残念だわ。綾香ちゃん、ひな。ここは、わたしに任せて先に進みなさい」
「え!?」
「母さままで??」
突然、警視正までもが自分も殿になると言い出す。
「どうして……」
驚いたわたしが呟いた疑問に、魔神から視線を外さず警視正が答えてくれる。
「工事図面通りなら、この先は主犯の私室のみ。彼の身柄さえ押さえればチェックメイトよ。それに、魔神よりも、さっきから奥に見えている『彼』の方が気になるの」
警視正の視線の先。
巨体な魔髪の背後にある上品な木製扉が開いていて、扉の向こうには黒衣の執事衣装をまとう瘦身の男が優美な姿勢で立っていた。
「……嘘。何故!?」
「此方、魔神よりもアイツのほうが怖いのじゃ」
美形ではあるが、彼の笑みはまるで闇夜の森。
何が飛び出すのかわからない恐怖を感じてしまう。
そして、燃え盛る炎のような深紅の目が全く笑っていない。
自らの配下であるだろう魔神はおろか、警視正も見ていない。
わたしとひなだけを、まるで実験動物でも見るかのような冷たい視線で射貫く。
そこには殺気も敵意も無い。
淡々と観察するかのよう。
背筋にぞわりとした悪寒が激しく走った。
「わかったかしら? この魔神は時間稼ぎと貴女たちを消耗させるための前座、罠ね。彼がおそらく本命。長官よりも厄介そうな敵よ」
「そこまでは理解しました。ですが、警視正おひとりでグレーターデーモン相手は……」
「此方、母さまを置いていけないのじゃ!」
しかし、いくら前座とはいえ、グレーターデーモンは強敵。
今のわたしでも、単独撃破は難しい相手。
それを、警視正は単独で戦うというのだ。
「貴女たち、わたくしを舐めないでくださいませ。うふふ。これでも呪符の発動くらいは出来るのよ」
自動小銃に銃剣を装備しながら、にやりと笑う警視正。
さらに胸元のポケットから呪文らしきものが書かれた紙を取り出し、小銃に張り付けた。
「おいおい。まだ待たせるのかよ? オレはいつでも構わねぇぜ、女ども。今さら逃げるとは言わないよな」
「ごめんなさい。もう少し待っていただけるかしら、魔神さん? 貴方、見た目よりも紳士なのね。話している間に襲ってこないんですもの」
魔力を帯びて光る自動小銃を構え、警視正はわたし達にウインクする。
しかし、その銃口は大きく揺れ乱れていた。
お読み頂き、ありがとうございます。
面白い、続きが読みたいと思って頂けたなら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけたら、とっても嬉しいです^^
皆様の声援が、作品を書き続ける原動力となります。
なにとぞ、今後とも応援を宜しくお願い致します。




