第54話 迷いごと、全て斬る
「あや……、ううん。1号、お姉さま。大丈夫かや?」
「うん、たぶんね……。2号ちゃん」
悪魔城と化した、帝都安全保障省の元庁舎ビル内。
一階玄関ロビーは戦闘で荒れ果て、壁は弾痕だらけ。
爆発が幾度も起こったため、ガラスも全部割れている。
「ごめんなさい。本当なら、わたくしが撃つべきでしたのに」
「ああ。俺たち、大人がやらねばならん辛い事を、子どもにさせちまった」
周囲では、隠れている敵が残っていないのか。
警察と自衛隊が、瓦礫を取り除きながら確認している。
そんな中、わたしはひなと共にヘルメットのバイザーを開け、探してきた椅子に座っている。
周囲からは血と硝煙の混じった埃臭い匂いが漂う。
「いえ。わたしはやるべき事をしたまで。ひなちゃんを守るために、斬り捨てただけです」
ひなや警視正、道明は、わたしを心配して慰めてくれるのだが、わたし自身、今は落ち着いている。
わたしは、襲ってきた女性を斬り殺した。
もうヒトでは、なくなっていたからなのか。
斬ったら遺体は残らずに、女性は魔神同様にチリとなった。
手ごたえが、とても軽かった。
ひなが危ないと思った瞬間。
祖父に習った通り身体が動き、気が付くと女性を斬り捨てていた。
しかし、今は殺した辛さよりも、ひなを守れた安堵の方が強い。
「ひなを守ってくれたことは感謝してるわ。それはそれとして、今は興奮して気が張っているから、大丈夫なだけかもしれない。でも、戦いが終わった後、必ずカウンセリングを受ける様に、綾香ちゃん」
「はい、必ず」
「此方も一緒に行くのじゃ」
……みんな、心配性ねぇ。わたし、警視庁での戦いで、とっくに吹っ切った……つもりだから。
わたしが躊躇すれば、味方。
ひなが死ぬ。
それが、一番イヤ。
……それに、魔神も全部ヒトが変化したもの。わたしの手は、とっくの昔に返り血で真っ赤だわ。
刀の柄をぎゅっと握り、浮かんでくる思いを一旦沈める。
今は戦う時間だから。
「ふぅ……。もう動けます。さあ、先に逝きましょう」
「そうね。各員傾注! 一部人員を一階確保に残して、後は上層階を目指します。各員、女子どもであろうとも、敵と判断したら躊躇せずに撃ちなさい。全責任は、わたくしが持ちます」
警視正は、精一杯の大声を上げ、部隊を鼓舞する。
自衛隊も警察も、人殺しには慣れていない。
人殺しをしたのが今日、初めての人が大半。
だからこそ、警視正の一言なのだろう。
「此方、ぜーったいにお姉さまと一緒なのじゃ」
「うん、ひなちゃん」
そう、この小さくても暖かい命を守るために。
もう、わたしは躊躇はしない。
◆ ◇ ◆ ◇
「そんな無茶苦茶、よく上層部が許してくれましたね、警視正」
「敵が人外。生かしておく必要がないと判断されたから、こんな普通ではない方法がとれるの。敵の首魁たる『元』長官は生かして捕まえたいのだけれどね」
上層部へと攻略するのかと思えば、まだ一階ロビーに陣取る部隊。
今は、エレベーターに仕掛けをしている。
「ビルアタックでエレベーターを使うのは愚か者なのじゃ。ドアが開いた瞬間、ハチの巣になるのじゃからな。それに階段は上から撃ち放題。迂闊に突撃できんのじゃ」
……警視庁での時は、敵は魔神で銃撃戦なんてしてこないから、階段を使えたのね。
「にしても、爆弾を送るのは荒っぽすぎない? そりゃ、こっちの死傷者が減るのは大歓迎なんだけど。ビル、倒れない?」
「まあ、その辺は自衛隊のプロが判断するだろ? あの爆弾は指向性だしな。俺らは、粗方の敵兵を片付けた後が出番だ」
道明の説明によれば、エレベーターに|指向性対人・対車両《Fordonsmina》地雷を仕掛けるという。
エレベーターのドアが開いた瞬間、起爆。
一方向だけ。
この場合はドアが開いた方向に無数の金属球を撃ち出し、待ち構えている敵を一網打尽で無力化。
「で、では、作戦開始!」
警視正は声を上げるが、一瞬言いよどむ。
一階ロビーからは二つ並んだエレベーターのセットが二つ。
つまり四本のエレベーターが存在し、それぞれ片側に地雷が仕掛けられている。
警視正の命令で順次、エレベーターが各階へと上がりだす。
「因みに、どの階層に敵が待ち構えているって判断したのですか?」
「外部からドローンによる超音波エコーと対人レーダー。更にレーザー盗聴を使って調べたの。1号ちゃんのヘルメットモニターにも表示されているわ。今の世の中、逃げる手段の無い篭城は最悪手ね」
ヘルメットを閉じ、いつでも駆け出せる準備をしたわたし。
思わず浮かんだ疑問の呟きに警視正が反応してくれる。
確かにヘルメット側面のサブモニターには、小さくだがビルの三次元像と赤い光点。
敵の大まかな位置が表示されている。
「まずは五階。広い会議室があるところじゃな。部隊が待ち構えるには最適の場所なのじゃ。そして次は乗り換えのある十階じゃな。ここも間違いなく銃口が待ち構えておるのじゃ」
全二十階のビル。
最上階に向かう直通エレベーターは無く、十階ごとのID認識型エレベーターにて乗り換えが必要。
……結衣ちゃんのお父さま経由で、ビル工事時の図面が手に入ったのは、嬉しいやら。怖いやらね。
情報戦の段階で丸裸になっている敵本拠地。
その上、敵の生死を問わないとなれば、どれだけ乱暴な作戦も使われる。
「あ! 今、起爆したのじゃ」
エレベーターシャフトを通じて鈍い振動と爆発音が聞こえる。
今まで動いていたモニター上の光点が止まり、しばし後に消える。
「五階で起爆確認。突撃部隊、上がって」
「了解」
地雷を仕掛けなかった側のエレベーターに四人ほどの自衛隊部隊が乗り込み、上に上がる。
「続いて十階も起爆」
「第二次突撃部隊も上に」
爆発と同時に追加部隊が送られていく。
エレベーター前に居た敵兵を除去してからの部隊移動。
素人のわたしでも、普通はしそうもない作戦だと思った。
「さあ、十階を制圧したら、わたしたちも向かうわよ」
「はい」
再び戦場へ向かう。
時折、ビル全体を揺らす振動と爆発音が響く中。
わたしは刀を杖に、立ちあがった。
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