第53話 守るために人を斬る
「まだ、わたし達は、中に行かないんですか?」
「1号、もう少し待ってて。今、待ち構えていた兵と銃撃戦中なの」
四国組の活躍で、ビル周囲に隠れていた魔神らは殲滅された。
その後、自衛隊レンジャー・警察特殊部隊らが、先行してビル内部に突入。
案の定、入り口には爆発トラップ。
更に強化されたであろう兵士が簡易要塞かされたビル入口で待ち構え。
今も、激しい銃撃音が、わたし達が待機している簡易指揮所テントの中まで響いている。
「お姉さまは、次の魔神戦に備えておくのじゃ。必ず敵は、もう一度魔神を繰り出してくる。今のうちに、屋内マップを確認しておくのじゃぞ」
「そうだと、わたしも思うよ。あやちゃん、慌てたらダメ」
「ウチも同意見や。ウチらは幻覚系以外は対した攻撃が出来へんから、いつも後方で留守番や」
外から見られる危険性は低いので、今はヘルメットを脱ぎ、四国組二人の女性も一緒。
備え付けのタブレットで、敵ビルの部屋マップを見ている。
……工事出入り業者から図面を入手したって言ってたけど。結衣ちゃんは、どこまで凄いんだろう。
「結衣さんのおかげで、攻略が随分と楽になってます。敵が搬入した機材量も分かっていますので、大方の武器所有数も把握できていますし」
警視正も、通信機機能のついたバイザー越しに情報を集める。
「ということで、俺たちの出番はまだまだ。水分と糖分くらいは摂取しておけ」
戦闘服姿の道明が皆の飲み物を持ってきて、渡してくれる。
しかし、よく見れば道明が持つお盆も細かく揺れていた。
飲み物を受け取った警視正も緊張からか、普段より濃い目の化粧の隙間から疲れも垣間見れる。
「ありがとうございます」
「ありがとうなのじゃ!」
わたしとひな、一瞬顔を見合わせて、二人の様子に気が付かないふりをした。
……待っているのって、案外と嫌よね。でも、大人はわたし達に人を殺させたくないから、前に出させない。そこは分かるんだけど。
「あ。今、一階ロビーを制圧できたと報告が来ました。では、行きましょうか」
外から響いていた銃撃音が止まり、警視正の元に制圧情報が入ってきた。
「はい。じゃあ、行きます。お姉さん方、ハジュンさんに宜しくお伝えくださいね」
「二人とも、気を付けてね」
「ウチもご武運を祈ってる」
狸娘と狐娘に見送られ、ヘルメットを被ったわたしは、壁替わりの布を持ち上げて、テントの外に出る。
カメラのフラッシュが幾度も灯され、カメラ越しの視線をいくつも感じた。
「ひ、二号。行くわよ!」
「はい、1号お姉さま」
カメラからひなを庇いながら、ビル入口へと進む。
道明も、わたし達を庇うように後ろに立ち、その巨体で視線を塞いでくれる。
「報告! 魔神が現れました!」
ドアの警備をしていた警官が叫ぶ。
魔神が現れたと。
その声を聴き、わたしは一気に走り出す。
ガラスが割れたビル玄関口を通り過ぎると、弾痕だらけになったロビーの中。
レッサーデーモン、バフォメット種が三体、のそりと現れる。
警官隊の銃撃をモノともしない魔神。
「はぁぁ!」
気合の声を上げ、一気に接近戦の間合いに踏み込む。
「グうォぉぉ!」
奇声を上げながら、四本の腕を振り回す魔神。
その攻撃をひらりとステップで避けながら、背中に回り込み、一閃。
「あれ?」
レッサーデーモンの胴体に切り付けた一撃。
以前なら、もっと抵抗があった気もするのだが、すらりと刃が食い込む。
ほとんど手ごたえ無しに胴体を切断。
すぐに魔神はチリと化す。
「お姉さま、右後ろ!」
ひなの叫びを聞き、反射的に左へステップダッシュ。
魔神から放たれた火球がヘルメットの横を過ぎるのを感じる。
「くぅ」
火球の飛んできた方向へ振り返る。
再び火球を作っているレッサーデーモン。
ジグザグにステップをしながら、剣の間合いまで接近しようとするが……。
「ギぃぃぃ!」
意味不明の山羊頭から放ちながら、火球を投げつけてくる魔神。
「はぁぁ!」
……避けられない。なら!
気合一閃。
火球を刀で切り払う。
「くぅ」
爆炎の火の粉を少し浴びるも、防護服のおかげで無傷。
なおも魔法戦を挑もうとする魔神の喉へ、伸びあがる様に平突き。
刀身を寝かした突きを繰り出す。
「グキゃ!」
声にならぬ声を出すレッサーデーモンの喉を、刺した刀を振って引き払う。
紫色の鮮血を吹き出して崩れ落ちる魔神の背後に回り込む、延髄部分を切り払う。
「もう一匹は!?」
チリと化す魔神を一瞥し、もう一体の敵を探す。
「<大鬼王極冷波>じゃぁ!」
ロビー内に、ひなの可愛くも凛々しい声が響く。
視線を、ひなの声の方向へ向けると、もう一体の魔神は氷結した後、そのまま砕け散った。
「……ふぅ。これで終わりだね」
しばし、周囲を警戒しながら残心。
敵の動きを待つも、殺気は一切感じない。
わたしは、ひとつ大きく息を吐き、刀を腰帯に差した鞘に戻した。
「お疲れ様、1号、2号さん。警察部隊は、生存者の確認。自衛隊は、警察部隊の援護に入ってください!」
周囲を見ると、物陰に生存者や敵兵が残っていないか、警官が確認をしている。
……あれ? 銃撃戦をしたのに、ご遺体や怪我人がいないの?
この場所で銃撃戦をしたのなら、敵兵の遺体や負傷兵が居るはず。
しかし、床には弾痕と敵が装備していたであろう銃器や衣装だけが残っている。
「警視正、ここで撃たれた人は……」
わたしが疑問を口に出した瞬間。
「ぎゃぁ!」
誰かの悲鳴が上がる。
誰もが悲鳴の先に銃口を向け、わたしも姿勢を落として抜刀体制に入る。
「ぐルぅぅぅ」
銃口の先。
ロビーの奥、ロッカーの影には血を腹部から流し、苦しむ警官。
そして、金色の眼を輝かしながら、指先のナイフ状の爪から鮮血を垂らす社員制服姿の女性社員らしき人物がロッカーの中から出てきた。
「く、くそぉ」
「う、撃てねぇ」
一旦は散弾銃を構えた道明も、まだうら若く見えた女性に対し、射撃を躊躇する。
他の警察、自衛隊員も、同じく動きを止める。
「キぃぃぃ!」
だが、無情にも女性社員は、獣のような動きでこちらに飛びかかる。
……ひなちゃんが危ない!
女性が向かう先には、ひながいる。
女性が長く伸ばす爪がひなに迫る。
「……はぁ!」
考える間もなく身体が動き、ひなの元へと高速踏み込み。
そして背後にひなを庇いながら、迫りくる女性へと自然に刀を抜いていた。
「……!」
慣れた動きで鯉口から抜かれた居合の刃は、女性の右下腹から左肩口まで切り抜ける。
続いて、型練習通りに両手による上段からの頭部両断。
「……ごめんなさい」
何の躊躇もなく、女性を斬り捨てたわたし。
目の前で鮮血を吹き出す女性がチリとなっていくのを、涙を血濡れたヘルメット内で流しながら見ていた。
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