第51話 暁の空を切り裂く
「此方、ドキドキするのじゃ」
「わたしも。でも、今回は自衛隊さんとも一緒だから、ちょっとは安心だわ」
春先の日の出を浴びるわたしとひな。
悪魔城と化した「元」帝都安全保障庁長官。
鷹宮 恒二が篭城するビル前に並べられた仮設指揮所の中に入り、作戦前の打合せをする。
周囲では迷彩服を着た自衛隊員や、テレビでもおなじみの青い衣装を着た警察機動隊員らが、ガチャガチャと音をさせながら速足で荷物や武器を運送している。
……仮設テントの周囲には、目隠しに壁替わりの布を巻いているの。
今も規制線の向こう側には、結界を張り誰も寄せ付けない悪魔城。
篭城ビルや突入する部隊を映そうとするマスコミのカメラが沢山。
更に、SNSなどで聞きつけたのか。
野次馬も多数、スマホカメラを構えている。
時折、布越しにカメラのフラッシュの光も見える。
……ひなちゃんを、絶対に敵やマスコミから守らなきゃ。
わたしは周囲の喧騒から、視線を作戦指揮官。
倉橋警視正に向ける。
「千葉や神奈川県警からも、警視庁の敵討ちだってSATが来ているわ。仲間を殺された恨みは、わたしにもあるしね」
仮設テントの中、わたし達に現状を説明しながらも、自衛隊が使っているのと同じ自動小銃をガチャガチャと触っている警視正。
衣装も、SAT隊員らと同じ黒色の防弾ベストなどを着用している。
「警視正。貴女まで現場に出られるんですか? 銃までもって?」
「母さままで、危ないことをするでないのじゃ!」
「だって、今回は絶対に元長官を捕縛しなきゃならないのよ。『特対室』維持。ひいては、綾香ちゃんやひなを『色んな』ものから守るために、わたしも戦う。もう見ているだけなんて……嫌なの」
倉橋警視正は、ひなの母の顔を時たま見せながら、自分も戦うという。
確かにわたしも、ひなだけを戦わせるのは嫌だ。
……廃病院の時、警視正は、ひなを一人送り出すのを悔やんでいらっしゃったものね。
「わたしも、ひなちゃんだけを戦わせるのは、もう無理です。なので、警視正のお気持ちは十分理解します。でも、くれぐれも無茶はしないでくださいね」
「そうなのじゃ。母さまは銃など撃たずに、此方らの後ろでおったらいいのじゃ!」
「わたし、戦闘に関して信用無いのかしら?。一応、説明はしておきますが、わたくし。これでも、SAT隊員へ推薦されたくらいには、銃火器戦闘に詳しいですのよ」
わたしやひなの心配を他所にチャキっと銃を構えて、ドヤっと得意げな顔の警視正。
銃を構えた姿が、妙に様になっている。
更に、以前見たSAT隊員とも遜色ない銃の扱いを見るに、警視正は案外と凄いのかもしれない。
「実際、俺よりも銃の扱いは警視正の方が上手いぞ。俺も短期間ながら訓練したけど、小銃でもろくに当たらんから、今日は散弾銃を使わせてもらうぜ」
目隠しの布を持ち上げながら、簡易指揮所の中に入ってくる道明。
彼もSAT隊員と同じ装備をするも、手に持っているのは小銃ではなく、見慣れない形の散弾銃だ。
「こいつは|普通のじゃない奴《Kel-Tec KSG》を借りてきた。嬢ちゃん達のバックアップは、俺に任せておけ、警視正。元部下を『看取る』のも、隊長だった俺の仕事だからな」
「看取るって……。あ!?」
「恐らくじゃが……。敵部隊の兵は、既にヒトではないのじゃ。時間があって、安全に確保できるのであれば、術式を調べて元に戻す方法を見つけられる可能性があるかもなのじゃが……」
「でも、敵は銃を使い、魔神の力を持ちます。更に敵指揮官の命令には絶対服従。捨て奸、元長官らが逃亡する際に殿となって戦った兵らは、投降を無視し、死ぬまで銃撃を辞めませんでした。なので、殺して止めるしか……」
悲し気に敵兵を殺すしかない事を話す、道明や警視正。
「ひな、綾香ちゃん。いいえ、綾香巡査補やひな巡査補は、兵の相手はしなくてもかまいません。貴女がたは、敵魔神の殲滅のみに力を注いでください。他は、わたくし達、大人で対処します」
「了解しました!」
「了解なのじゃ! でも、母さま。いいえ、室長も無理はなさならいで欲しいのじゃ」
一瞬、母の顔になった後。
倉橋警視正は、わたし達に命令を下す。
敵兵の相手は自分や警察、自衛隊でする。
代わりに、魔神をわたし達で叩けと。
「後は……。絶対命令」
そして、再び柔らかい表情。
母親の顔に戻り、わたし達をぎゅっと抱きしめる警視正。
「ぜーったい、無事に生きて帰ってくること。二人とも、わたしの大事で大好きな娘たち。魔神になんて負けちゃだめよ」
「はい……」
「うんなのじゃ、母さま。じゃが、防弾具が痛いのじゃぁ」
抱きしめる警視正の腕が震えている。
視線の端では、道明が視線をわたし達からずらしているが、彼の銃口もびりびりと震えている。
わたしは何も言えずに、涙をこぼしながら警視正とひなを抱き締める。
防弾具の固さの奥から感じる、人肌の暖かさがとても心地よかった。
◆ ◇ ◆ ◇
「各員、傾注!」
沢山の武装警官、自衛隊員が並ぶ中。
前に立つ倉橋警視正が叫ぶ。
「今回の作戦を指揮させて頂きます、警察庁警備局公安課。超常犯罪対策室長の倉橋です。皆さん、ご存じの通り。今回は警察、自衛隊の合同作戦。面前にそびえる帝都安全保障省、元庁舎ビル内に潜伏する元長官。鷹宮 恒二、及び関係者の逮捕が目的です。なお、敵対する者に対しては、国家公安委員会より射殺許可が出ています。ご自分と仲間たちの命を優先し、躊躇なく敵の無力化を行ってください」
「母さま、気合が入り過ぎなのじゃ」
「しょうがないよ。ひなちゃんを守るためもあるんだし」
警察隊の真ん中付近。
目立たない様に、大柄な道明の影に隠れているわたしとひな。
「嬢ちゃん達は、俺の影に隠れてな」
「ありがとうございます」
「ありがとうなのじゃ」
わたしの装備は、会見場で暴れた時に着ていたスペクトラ繊維製の防弾具の上に、警察庁マーク入りの防刃ジャージと祖父の籠手。
ひなも、防弾具の上にいつもの巫女衣装。
二人とも、フルカウルのヘルメットで顔を隠している。
……背後に控えているマスコミや野次馬のカメラが怖いわ。びしびしと視線が背中に刺さるの。
そうこうしている内に警視正からの訓示が終わり、各員はそれぞれの部隊指揮官の元に集まる。
「一号隊員、二号隊員。わたくしと太田隊員と共に特対室メンバーは先行突撃部隊の後。魔神を警戒しながら進みます」
わたしとひなに向かい、名前でなく番号で呼ぶ警視正。
マスコミの望遠カメラと収音マイクが狙っているのを知っての事だろう。
「了解です!」
魔神は潜む邪悪の城なはずなのに、朝日に照らされて窓ガラスがキラキラと光るビル
いよいよ今から、大きな戦いが始まる。
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