第50話 悪意の声を切り払いたい
「ぶー。お風呂が、ここには無いのじゃぁ。シャワーも一人ずつしか浴びれないのも、ダメなのじゃぁ」
「しょうがないよ、ひなちゃん。今日は合同庁舎から出られないんだからね。お役所の中にお泊りできる部屋があるだけマシだもん」
わたしとひな。
明日早朝の出陣に備えて、今日は一緒にお泊り。
近郊のホテルにて宿泊の予定だったのだが、マスコミが合同庁舎の玄関から一向に離れないため、わたし達は外に一歩も出る事が出来なかった。
……合同庁舎から今、未成年の女の子が二人出てきたら、間違いなくマスコミの餌食になるよね。駐車場から出る自動車にも、カメラがびっしり迫るんだもの。
警視正に施設内の女性用仮眠室や女性シャワー室を案内してもらい、二人で交代しながら仲良くシャワー。
念のために持ってきていたお泊りセットから下着やパジャマ代わりのジャージを取り出して着替えた。
「お姉さまのお背中、流したかったのにぃ」
「今回の作戦が終わったら、一緒にスーパー銭湯に行こうね、ひなちゃん」
仮眠室にて、まだ文句を言うひなだが、彼女には早く寝てもらわないと困る。
……ひなちゃんには、SNSとかの噂話がバレたら不味いからね。
◆ ◇ ◆ ◇
どうしても気になって、ひながシャワーを浴びている間に、スマホを手に取りエゴサーチ。
わたしやひなの身柄が、ネットでバレていないか調べてみた。
……幸い、マスコミの情報では、わたし達の身柄情報はまだないの。警察が情報を止めているのかもしれないわ。
「刀使いの女の子、カッコイイ」
「美人さんだったら、良いなぁ」
「かなりスレンダー体形だな。胸は無いけど、腰のラインは綺麗」
「巨乳じゃ、乳が邪魔してあれだけ刀を振れんだろ?」
「身長と体格からして、JKか?」
「日本刀の使い方がしっかりしているから、剣道経験者?」
「いや、剣道じゃなくて剣術じゃないか? 居合っぽい技も使っていたし」
「古流剣術の道場に通ってそう」
わたしの使う技に対してのネットコメントは多いが、わたしに直接つながりそうな情報は幸いな事にまだ無い。
いいとこ、女子高生と古流剣術の使い手ではないかというくらいだ。
……ふーんだ! メリハリ無い体形で悪かったわね!
まだ大丈夫だと一安心した直後。
わたしは、怖い情報を発見してしまった。
「女子高生剣士の後ろにいた小さな子。多分、女子小学生だけど、あっちの方がヤバくない?」
「どう見ても魔法を使ってたよな」
「リアル魔法幼女、キター!」
「魔法を使うJS? 俺、知ってるかも!」
……え、嘘!?
「ホントか!? マジの魔法少女なんて、いたのか!」
「写真取れなかったけど。廃病院での大量失踪事件の時、魔法を使う巫女姿の幼女が居たぞ」
「そういえば、今回もだけど。廃病院の時も、その子はお札を使ってたな」
……あ!? あの時は、ひなちゃんは素顔で呪術を使ってたわ!
「都内であった廃病院での事件か。珍しかった事件だけど、アレも魔物が犯人だったのかよ?」
「わたしも現場でちょっとだけ見たけど、とても可愛い女の子だったわ」
「少し、幼女の言葉が動画から聞き取れたけど、妙な話し方してなかったか? 『此方』とか話してたぞ」
……これは不味いわ! これ以上話が広まる前に止めなきゃ。
ネットの海で、ひなの情報がどんどん繋がりだす。
それ以上調べるのが怖くなり、わたしはスマホ画面を閉じる。
シャワーを浴びたばかりなのに、背中にじっとりと冷たい汗が張り付く。
ネットで見た、ひなの正体を暴こうとする言葉がわたしの頭から離れなかった。
「早く警視正に相談しなきゃ」
わたしは、ひながまだシャワー中なのを確認して、急いで警視正の元へ向かった。
「分かったわ、綾香ちゃん。知らせてくれてありがとう。まさか、ひなの方が危なかったなんて……」
まだシャワーも浴びずに資料整理中の警視正。
わたしの報告を受け、自分でもSNSを見ながら渋い顔をする。
自分の娘が、社会から「異物」として見られる恐怖。
わたしの両親も同じ様な恐怖を覚えているかと思えば、悲しく怖い。
「ひなちゃん。廃病院の時に、沢山目撃されてましたから」
「綾香ちゃんも含めて、貴女たちを国が守るよう全力を尽くすわ。未成年の女の子を危険な現場で働かせているだけでも批判多いのに、身柄まで世間にバレたら大変よ」
「わたしもですが、普段の生活が出来なくなると困りますものね。家族を巻き込みたくはないですし」
「マスコミには、貴女たちが未成年なので『かん口令』をしていますが、SNSでの個人までは止められないの。便利な反面、止められないから、とても怖いわ」
しばし警視正と今後の対応を話し合うが、明日も今日使ったフルカウルのヘルメットを使うことを決めた。
遠巻きとはいえ、マスコミが居る現場で顔を見せて戦うのは、危険。
少々、視界が悪くはなるが、頭部を守れて顔も隠せるのなら、まあしょうがない。
「この事は、ひなには作戦終了後までは内緒にしてくれないかしら? 動揺は、術の発動を乱すから。綾香ちゃんも、気にしないで……というのは無理かもしれないけど、わたし達。国の力を信じて……」
「はい。では、ひなちゃんが心配する前に仮眠室に帰ってきます。警視正もお早くお休みくださいませ」
「ありがと。本当に貴女がひなの相棒で良かった。これからも、仲良くしてあげてね。良い夢を」
警視正としてではなく、母の顔を見せる彼女。
わたしは、自分の親もこんな風に心配しているのだろうと思い、廊下の窓の外に広がるネオンサインを見る。
無数の灯りが、夜の街に広がっている。
……あの中に、結衣ちゃんや葵ちゃんの毎日がある。
「……絶対に守らなきゃ」
そう呟いて、わたしはひなが待つ仮眠室へと向かった。
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