第49話 正義の刃は誰のものか
「今度は大臣について、コメンテーターが話し出したのじゃな」
「そうね、ひなちゃん」
血の様に赤い夕焼けが照らす窓の外は、まだまだ騒然としている。
マスコミのヘリが飛び回り、見降ろした合同庁舎の玄関には規制線の側まで人混みが溢れている。
「なお、この魔神は、鷹宮恒二氏が設立しました帝都安全保障省の副隊長が変化した存在。この怪物に恒二氏が関与していたとの情報もあります。彼は二世議員として、国民の人気も高く……」
テレビでは、わたし達の戦い以外にも、若き大臣の事について多く語られる。
これまでは、マスコミ受けが非常によく、国民にも大人気だった彼が、多くの悪事。
殺人や非人道的行為を裏で行っていたことに対し、与党、野党が入り乱れて、彼の悪行を訴えている。
「でも、ここまで評判が逆転しちゃうと、大臣やそのご両親が少し可哀そうになりそう。わたし、他人事とも思えない」
「正義の味方」をしたわたしやひなですら、社会から批判を受ける可能性は十分ある。
ならば、本当に悪事をした者。
そして、その家族はどれだけの批判を受けるのだろうか?
母や父、兄や祖父母がマスコミに囲まれる悪夢が、わたしの脳裏に浮かんだ。
「お姉さまは人が好過ぎるのじゃ。あの悪党がどれだけの命を弄んだか、分からぬのじゃぞ。確かに家族は少々可哀そうでもあるのじゃが」
わたしの呟きに、ひなは顔を膨らませて文句を言う。
確かに彼が行ってきた悪行を考えれば、本人が酷い事を言われてもしょうがないのかもしれない。
「しっかし、見事な逃げっぷり。準備万端な警視正が取り逃がすのだからな」
「ええ、見事にしてやられたの。ごめんなさい」
警視正は謝るのだが、敵の撤退があまりに見事だったのでしょうがない。
先程まで聞いた話では、一部の兵を殿。
「生贄」にして、逮捕を狙う警察隊に対しての足止めな銃撃。
「島津の捨て奸のような殿、あらかじめ準備していたかのような逃亡方法。敵の手際が見事すぎる。隊長だった俺も逃亡時の手筈は知らなかったくらいだから、指揮をした奴が凄いな」
足止めの間に乗ってきていたバスを奪還。
あっというまに合同庁舎から逃亡。
そのまま、追跡するパトカーとのカーチェイスに銃撃戦。
帝都安全保障庁の新庁舎となる予定だった、恒二の母が所有する自社ビルへ逃げ込み。
「道明さんもご存じなかったのでは、警視正が負けたのもしょうがないですね」
「うむ。敵が凄いのじゃ」
今はビル全体を強固な結界に包み込み篭城状態になっていると、事務室内のテレビでも報道されている。
規制線の彼方。
マスコミは、遠巻きに望遠カメラでも問題のビル最上層を映している。
「ボンボン大臣は大したことは無かったけど、執事らしい男が凄腕だったわ、ひな。あっという間に逃亡の指揮をして、まんまと逃げられたの」
「俺も何回かは、あの執事に会った事はあるが、あれはタダ者じゃねぇ。それに、何か気配が人離れしてた」
警視正は、敵の逃げ足。
逃亡を指揮していた執事を褒める。
道明も、彼は普通ではないと述べる。
「確か、フロント企業の役員をしていた人物ですよね。あの執事は?」
「ええ。奈良原……。そう記録にはありますね。ただ、経歴が今になっても不明。住民票や戸籍すら定かでないの」
「よく、それで会社登記出来たのじゃな? 代表者が身元不明なぞ、普通無いのは、此方でも分かるのじゃ」
戦闘中に、視線の端にいた黒ずくめで色黒な長身細身の執事。
彼の名前を聞いた時と同じく、何か違和感をその姿に感じはしたが、目の前のグレーターデーモン退治に忙しくて、確かめる間もなく逃げられた。
「もしかして、あの大臣は執事に操られてる?」
わたしは、ふと思いついた疑問を口に出す。
あの執事を見た時のイメージ。
……あの時、一瞬だけ目が合った気がしたわ。でも、人間の眼に見えなかった。まるで何か黒い闇の底を覗き込んだ感じ。
距離はあったはずなのに、妙にはっきりと。
まるで、こちらを最初から観察していたみたいに。
思い出しただけで、ぞくりと背筋が粟立つ。
「バカ大臣の言動から精神支配の術は感じ無んだから、執事に口先三寸でコントロールされておる可能性がありそうじゃな。敵の作戦は、あの執事が『描いて』おるのではないかや?」
ひなも、大臣が真の黒幕とは思っていない様だ。
執事が、細かい差配をしているのではと語る。
「詳しい事は、全員捕まえてからね。逃げ込んだビルを、警官隊で包囲しているから大丈夫。今は、自衛隊にも話をして突撃部隊を編成中なの。二人、いや太田さんを含めて三人とも部隊に参加して欲しい。今度は、わたしも武器持って参戦するわ」
「はい、喜んで!」
「もちろんなのじゃ、母さま」
わたしとひなは、警視正の問いかけに即答。
元より、わたしには逃げるという選択肢は最初からない。
ひなを守るために始まった戦いなのだから。
そして、今は皆の日常を守りたい。
「俺は、上司命令だから拒否権は無いわな。今は、特対室預かりの身だし」
道明、彼は帝都安全保障省からは離職したが、そのままでは事件関係者として逮捕されかねない立場。
今は、警視正が臨時に身柄を預かって、彼女の配下扱いだ。
「まあ、流石に連戦は厳しいし、これから夜になるわ。突入作戦は明朝、日の出とともに開始します。今日は、ご飯食べてゆっくり寝てね」
……今朝、家を出る時に、母さんには必ず帰ってくるって言ったし、皆にもさっきSNSで無事を伝えたから、大丈夫。後で、お泊りになるって連絡しなきゃ。
「此方、今日もお姉さまとお泊りなのじゃ」
「うん。楽しい夜にしようね。お風呂も一緒だね」
明日の戦いで、終わるのか。
それとも、もっと酷い何かが始まるのか。
何も失わずに勝利できるのか。
テレビ画面の端には、速報のテロップが流れ続けている。
『現場にいた“刀使いの少女と、幼い魔法使いの少女”とは何者か?』と。
その一文が、目に飛び込む。
……個人特定、やめて欲しいわ。今は、ひなちゃんと、楽しい時間を過ごす事に集中ね。
そんな不安を一旦忘れ、わたしはひなとの楽しい夜を夢見た。
大事な「日常」を忘れぬ為に。
「流石は女子高校生&小学生。戦う前に元気だねぇ」
「大人たちは、この子達を守りましょうね」
苦笑する道明と警視正を前に、抱き合うわたしとひなだった。
「お風呂、お姉さまと背中の流しっこが夢じゃったのじゃぁ!」
「ひなちゃん。言っておくけど、変なところは触らないでね」
嵐の前の静けさだと、分かっている。
それでも、わたし達は笑っていた。
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