第48話 暴かれる刃
「ホント助かりました、警視正」
「此方、魔神よりもマスコミの追及が怖かったのじゃ!」
「完全に顔バレ、身バレした俺は、どうしたらいいんでしょうねぇ、警視正」
中央合同庁舎第二号館、大会議室でのグレーターデーモン退治から一時間後。
スペクトラ防弾繊維製の戦闘服から普段着に着替えたわたしとひな、道明は、同じ建物内にある特対室の事務所で休憩をしている。
暖かいお茶と甘いお菓子でエネルギー補充中。
……でも、庁舎の外は大騒ぎだわ。
休憩しているこの部屋の外は、全くの別世界。
遠くから、絶え間なく響くヘリのローター音。
窓の外をちらりと見れば、報道ヘリが何機も旋回しているのが分かる。
地上も同じ。
庁舎前には規制線の向こうに、黒い人だかり。
カメラのレンズが、まるで銃口みたいにこちらを向いている気がした。
……これ、完全にわたしがニュースの中心になってるわ。
そう理解した瞬間、喉の奥がひりついた。
「助かったのは、こちらこそよ。でも、ごめんなさい、皆さん。アイツらを捕まえられなくて……」
とても憔悴した表情をしたひなの母、警視正。
今回の作戦において、自分の「手」が入れやすい中央合同庁舎第二号館を帝都安全保障庁のマスコミへの部隊紹介イベント会場になるよう、裏から手を回していた。
更に、一部マスコミや警察関係者と極秘裏に会談を行い、敵首領。
鷹宮 恒二の現行犯逮捕を狙っていた。
……流石にテレビの前で、部下が魔神に変貌したら無関係とは言い張れないものね。少なくとも、事情聴取の意味で身柄確保されるはず。首相も庇わないよねぇ。
「……今回の件、上にも報告は上げているわ。どう転ぶかは分からない。この先、アイツらを逮捕できなければ、最悪。特対室が本当に解散になるかもしれないわ」
静かな声だったけど、警視正が話す内容はとても重かった。
警視正でも、どうにも出来ない領域がある。
正直、そう思い知らされる。
「悔しいのは警視正もですよね。でも、これで大臣が悪玉って世界にも知られましたから、次こそ逮捕すれば一見落着です!」
「そ、そうなのじゃ、母さま。政治的に大勝利。同じミスをせねばいいだけなのじゃ!」
落ち込む警視正を、わたしとひなで励ます。
せっかくの準備が無駄になったので、落ち込むのも理解できはする。
なんでも、与党議員内でも恒二の動きに胡散臭く思っていた者も多く、結衣の家からの「働き」もあって、今回の作戦も次期首相候補から内諾を貰っていたとの事。
マスコミ目撃での現行犯逮捕ともなれば、このまま内閣総辞職にさせて、与党は次期政権で生き延びるという筋書きまで、既に出来ていたんだとか。
……現首相や他の閣僚たち、弱みを鷹宮家に握られていたそうで、結衣ちゃんとこにも、その話は流れていたんだって。政治の世界って、嫌だよねぇ。
「今、国会が開催されていないから、議員特権も使われないと思ったんだけど、敵が本気で銃火器を使ったら警官隊じゃ抑えきれなかったの」
「でも、これで『錦の御旗』は、母さま。特対室の方になったのじゃ。さっきからテレビでは、凄い事になっておるのじゃ。此方は、コスチュームが少々恥ずかしいのじゃが」
「それを言うなら、わたしだって恥ずかしいよぉ。あのスーツ、確かに防御能力は高いし動きやすかったんだけど、体形がもろ出ちゃうのは、恥ずかしいもん!」
テレビでは、わたしとグレーターデーモンの戦いが、一部モザイク処理されて映されている。
「この映像は、会見場での戦闘です。巨大な怪物、魔神と呼ばれる異界の生物が、なんと刀を持った少女と戦っています」
幸い、顔はマスクで隠していたし、変声機越しの声なので、身柄はバレていない……と思いたい。
……本当に? もし、あの映像から何か特定されたら。体格、動きの癖。そんな小さなことから、誰かがわたしに辿り着いたら?
学校に知られたら?
クラスのみんなに知られたら?
マスコミに知られたら?
テレビでは、革新的と言われるコメンテーターの一人が、興奮気味に語る。
「この魔神とやらに勝てる少女たちの異能力、個人で持っていて良い物でしょうか? 一度、国家が管理すべきではないかと」
別のコメンテ―ターも、更に続ける。
「今回の事件ですが、別の見方で言えば、正体不明の武装勢力が、公共の場で戦闘を行ったとも言えます。警察機構は、彼女たちの身柄を保護したように見えましたが、帝都安全保障省と同じく背後にどんな組織があるのかも気になります」
……さっきまで「英雄」みたいに扱っていたのに!?
たった数分で、評価が裏返る。
簡単に翻る世論を感じて、わたしは背筋が冷たくなった。
「お、お姉さま。此方やお母さまが、お姉さまやご家族を絶対に守るのじゃ。だから安心するのじゃ」
「ええ。そこは安心して」
ひなや警視正は、わたしを守るとは言ってくれる。
しかし、わたしだけでなく家族もマスコミや社会からの批判に晒されかねないと思えば、とても怖い。
おもわず自分の名前でネット検索しそうになり、スマホを閉じた。
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