第45話 魔の仮面を断つ
「ねぇ、警視庁で潰された右目、痛かったですか。脳までぐりぐりしてごめんなさい」
「電撃で脳を焼いてごめんなさいですわ、おほほほ!」
騒然とする中央合同庁舎第二号館の大会議室。
マスコミのカメラが、わたし達と帝都安全保障省の側を交互に映す。
「なにぃぃ! もしかして、あの時。警視庁の最上階で俺の眼を潰したメスガキ共かぁぁ!?」
わたしとひなの挑発に、武装した安全保障省の隊員の一人が反応する。
他の隊員が目出し帽で顔を隠す中、その男は顔を晒している。
彼の右目には機械式の義眼が装着されている。
スコープ型の義眼だ。
「あら、簡単に自白してくださったのね。そう、わたし達が戦ったのは、警視庁最上階の武道場。あの時、貴方は魔神の姿をしていらっしゃいましたね」
「あの時、脳を焼かれて、おバカになられたのじゃ……。お、おっほん。おバカになられたのですわね、おほほほ」
「く、くそぉぉ!」
見事なまでに誘導に引っかかった。
先程まで下卑た笑みを浮かべていた機械義眼男は、顔を真っ赤にしてお怒りのようだ。
「なんですと! 本来、東京を守るための部隊に、警視庁を襲ったバケモノが居たなんて!? 大臣、これは一体どういうことなのですか!?」
「ち、違います。こ、小娘どもの戯言にマスコミが乗らないでください。おい、オマエも黙ってろ!」
あらかじめ警視正が仕込んでいたテレビ局のアナウンサーが、少々棒読みではあるが、若い大臣に突っ込んでくれる。
先程までは、さわやかイケメンの姿であった大臣も狼狽えたのか、言葉が荒れだした。
「だ、黙っていられるかよ、ボス! オレの目を潰して、頭の中をかき混ぜて! あの痛みと恨みは絶対に忘れねぇ」
「あらあら。大臣さん、貴方は配下を間違えましたわね。まあ、東京を支配しようとなど思われる愚か者ならですわ」
「そうなのですわ! メッキが剥がれた暴君とは、実に残念ですの」
先程まで世間を舐めきった表情だった義眼男は、すっかり怒りで回りが見えなくなっている。
茹で上がったタコの様に顔を真っ赤にしているし、残った左目が金色をした縦割れの瞳孔になっている。
もう、大臣の言うことなど、聞く耳を持たないだろう。
「ゆるさん! 今度会ったら殺すと言ってたが、マジ殺す。ガキを裸に剥いて泣き叫ぶまで辱め、壊してから喰ってやる!」
「ふぅ。ここまでバカだと対応が楽ですわ。さて、マスコミの皆さま。どっちの言う事が正しいか分かりますか?」
「こな、う。おっほん。この映像を見ている皆さま。どちらの言葉が真実か、お分かりでしょう? わたくし達のような可憐な少女と愚劣な大人では?」
「もう我慢ならぬ! 死ねぇぇ!」
怒り狂い、妖気を放って変貌しだした義眼男に対し、わたしは呆れ気味。
ひなは、少々コミカルにコメントをする。
「ははは! 確かに、下品で物の分からぬ男よりは、清き少女の方が世間的にも受けがいいですわな」
「おい、太田! 隊長のオマエが、笑ってどうする。なんとかして、アイツを押さえろ」
こんな状態になっても一切動きを見せない部隊の中。
ただ一人、顔を晒して豪快に笑う坊主頭の男。
彼も大臣の言うことなど聞きはしない。
「それは無理ですね、大臣。ああ、既に魔神に変身し始めちゃいました。残念、俺はこの辺りで退職させていただきますね。魔神を部下にする組織など、退魔師として看過できませんので」
坊主頭の男、道明は懐から封筒を出し、狼狽えだした大臣に渡して、その場からすっと離れた。
義眼の男の背骨が、不自然な音を立てて軋む。
皮膚の下で筋肉が暴れ、体格が異常に膨れ上がる。
次の瞬間、こめかみを突き破るように捻じくれた二本の羊角が生えた。
「お、おい! くそぉぉ。誰か、何とかしろぉぉ! 奈良原、お前も黙っていないで止めろ」
「無理でございます、ぼっちゃま。こうなれば、早々に逃げる算段を提案致します」
更に変貌していく義眼男を見て、冷静でいられなくなった大臣。
背後に控えていた漆黒の衣装をまとう執事らしき男に文句を言うが、彼も呆れた様子で逃げようと宣言する。
「逃がしません! ここで貴方たちを討ち倒します」
「そうですわ、お姉さま!」
逃げてもらっては困るわたしとひな。
纏っていたマントを跳ね飛ばし、姿をあらわにする。
「お嬢ちゃんたち、すっかり趣味の姿だなぁ」
「道明さん、酷いですぅ。素顔で戦えないんですもの」
「道明おじさま、此方恥ずかしいのじゃ」
知らぬ間にわたし達の背後に来ていた道明。
苦笑しながらわたし達の姿に文句を言うので、こちらも言い返す。
……わたしだって、恥ずかしいんだよぉ。体形がもろわかりなんだもん、この衣装。本当は、これ衣装下に着る防具なんだよぉ。ひなちゃんは、華奢で可愛いんだけど。
頭には小型ながらフルカウル、かつ変声器付きのヘルメット。
衣装は、体形が出てしまうレオタード状の戦闘服。
防弾・防刃仕様ではあるが、どう見ても戦隊ヒロインらしい姿なのだ。
「おい、嬢ちゃん。恥ずかしがる前に敵から目線を外すな。もう、あちらさんは変身しきったぞ」
「ぐるぅぅぅぅ。コロス、絶対に殺して喰らってやる!」
道明の指摘で視線を前に向けると、警視庁で戦った敵。
右目を機械式義眼で補った蒼い巨人。
グレーターデーモンが、そこにいた。
「きゃぁぁ!」
「ほ、本当に魔神なんて居たのかぁ」
「こ、こいつが仲間達を殺した……!」
マスコミたちは、グレーターデーモンにカメラを向けつつ、パニック状態。
悲鳴をそれぞれ上げていた。
「では、鬼退治。魔神を倒します。ひな、お、おっほん。二号、戦いますわよ」
「了解なのじゃ、一号お姉さま!」
わたしは腰の愛刀を抜く。
刃が、会見場のライトを反射して閃いた。
ひなは、わたしの背後で呪符を構える。
……警視正、大臣を逃がさないでね。
視線の端では、兵士らを前に押し出して会場から逃げる大臣が居た。
お読み頂き、ありがとうございます。
面白い、続きが読みたいと思って頂けたなら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけたら、とっても嬉しいです^^
皆様の声援が、作品を書き続ける原動力となります。
なにとぞ、今後とも応援を宜しくお願い致します。




