第43話 反抗の斬撃
「奈良原。僕の計画の進行状況はどうなっているのかな?」
「はい、恒二さま。現在のところ、ほぼ予定通り。いえ、予定よりも順調に進行しております。兵の魔神付与化も問題ありません」
都内某所にある高層ビル。
そこは与党の重鎮議員である鷹宮 正明の妻が所有する建物。
最上階にあるミニラウンジで夜の階下を眺める三十代ほどの男。
間接照明に照らされた彼は、優雅に琥珀色の液体が入ったグラスを揺らし、いくつもの灯りに照らされた摩天楼を見下ろす。
「それは良かった。僕が望んでいたもの。それがようやく手に入った。この東京の街、今や僕直属の部隊により治安維持が行われている。僕の一言で、この世界最大の都市。東京が動くんだよ」
「おめでとうございます、恒二さま。正明さま、お母さま。そして芸能界を選ばれたお兄様もお喜びでしょう」
与党若手議員の中で一番最初に大臣職を手に入れた恒二。
父が大臣を幾度も歴任していた関係もあるが、次男坊の本人自身も自らのルックスと知性を武器に政治の世界を成り上がってきた。
そして、彼の野望は第一歩を大きく踏み出した。
東京の政治的制圧に。
「ふん。古臭い父さんや母さんなんて今更どうでもいい。あの人たちは資金力や『権力』しか知らないんだから。それに政治家の道を選ばなかった兄さんも。先祖が力を得るために、古代魔術結社と手を結んだことすら、忘れて目先の欲にだけ手を出す様な愚か者だからな。所詮、階下に見える愚民の一人にすぎないさ」
「『暁の金羊毛聖騎士団』でしたね。古くはイルミナティやフリーメーソンの母体とも言われた集団。恒二さまのひいお婆様が、彼らの一族なので、恒二さまも魔術の才能、魔力回路を受け継がれていらっしゃいます」
恒二は、窓越しに下を見下ろし、自らの親すらも誰もが愚民と言い放つ。
そして、ふと浮かんだ疑問を自らの側に立つ黒づくめの執事に尋ねた。
「その才能と先祖伝来の魔導書を利用すれば、更に『力』が得られると教えてくれたのは、奈良原。お前だ。どうして父さんではなく僕を選んだのだ?」
「恒二さまが、実に良き野望と才覚をお持ちなさっておりましたから、私はお力をお貸ししました。残念ながら正明さまは『人並』の権力欲はございましたが、支配欲に弱く、所詮は大臣までの御人材。首相にもならず、今や与党役員からも降りていらっしゃるのが証拠でございます。政治家になられなかったお兄さまも同様です」
浅黒い顔の美青年執事は、自らの主に才覚があったから恒二に力を貸したと宣う。
その顔はうっすら笑みを浮かべてはいるが、視線はとても冷たい。
「そうか。なら、これからも協力を頼む。近いうちにマスコミに、我が配下の正式なるお披露目を行う。準備頼むぞ」
「御意、お坊ちゃま」
恒二の視線外。
奈良原は、嘲笑を浮かべ呟いた。
「……ニンゲンとは何百年見ていても、実に興味深い生き物ですね」
◆ ◇ ◆ ◇
「で、ひな。出勤途中のわたしをさらってまで、ここに連れてきたのは、どういう事かしら? 学校もどうしたの?」
「母さま。今回はごめんなのじゃ。母さまにも此方にも、尾行が張り付いておって、こうまでせぬと引き離せなかったのじゃ!」
「美穂さま、申し訳ありません。ひな様、たってのお望み。更に、最近の美穂さまを見ていられませんでした」
目の前で、ひなと母である倉橋警視正。
そして、ひなのお付きの女性が謝り合っている。
お互いに思いあっての行動ではあるが、警視正からすれば想定外であろう。
「葛城。貴女はいつも、ひなに尽くして下さってます。ありがとう。まあ、今回もひなの事を思えばの行動。ゆるしましょう。それに、綾香ちゃんたちも暗躍していたのなら、しょうがないわ」
ペコペコ謝るひなのお付き女性に困り顔で許す警視正。
そして、彼女の視線はわたし達に向いた。
「申し訳ありません、警視正。ですが、貴女と盗聴や妨害なしにお話しできる場所が、ここしかなくて……」
「ひなちゃんのお母さま。ここはわたくしの家です。ちゃんとセキュリティ完備ですので、御安心してくださいませ」
「アタシも謝ります。無理やり、引き込んでごめんなさい」
このまま『敵』が動くのを黙って見ていられなくなったわたしとひな。
警視正を『拉致』して、話を聞こうということになった。
ということで、盗聴の無い安全な場所。
結衣の家に再びお世話になっている。
……結衣のお父さまには、直接ご挨拶してお世話になった事をお話したんだけど、娘を助けてくれた命の恩人の為になるし、このままでは与党も敵と道連れに破滅するかもと、動いたそうね。
「……。ふぅ。皆さんには事が終わってから、みっちりお小言を言わせてもらうわ。わたくしも綾香さんには、お話したいこともありましたし。で、貴女がたは何処まで情報を集めていますのかしら?」
「そのあたりは、結衣ちゃんが詳しいので」
「はい、お母さま。いえ、倉橋警視正。我が家の情報網及び葵さんのご実家のお店から集めました『敵』の正体についてお話します。こちらの資料をご覧くださいませ」
結衣が提出した紙束を、警視正は真剣な目で読みだした。
ひなの横では、お付きの女性が御接待されたお茶を飲み、安堵している。
数分後、全ての資料に目を通した警視正は、凄みのある笑みを浮かべていた。
「よく、ここまで調べ上げたわね。あのクソガキ長官、裏でヤクザとも関係していたと。それにヤクザのフロント企業が、ここ最近の事件の原因だったわけか。わたくしの方でも、ある程度まで。襲ってきた犯人全員が治験に関与していたのまでは分かっていたけど、それがアイツの関係だったなんて……。本家の一部も彼らと手を組んでいたのは、困った事だわ」
「当家でも、政権不振は経済不安にもつながる訳で。悪い『芽』は早いうちに摘んで、与党全体の問題ではなく、『彼』単独の悪事にしたいわけです。葵さんの話でも、既に都内の経済状況は怪しくなってますし」
結衣は銀行家としての意見。
政治不安を起こす前に、事件を解決させたいと言う。
経済破綻など起きれば、大手銀行でも取りつけ騒ぎから破綻という事もあり得ると、結衣は以前話していた。
「ここまで証拠があるのなら、何かの時の逮捕根拠に使えるわ。結衣さん、どうもありがとう。この御恩はいつか何らかの形でお返ししますわ」
「いえいえ。ひなちゃんの笑顔を頂けるのが、わたくしや綾香さん、葵さんの一番ですので」
警視正の嬉しそうな顔を見て、ひなが久方ぶりの笑顔を見せてくれる。
わたしも、ひなの笑顔を守るためなら何でもやるだろう。
「じゃあ、警視正。動くんですか?」
「そうね。チャンスは一度しかないけれど、敵がマスコミを自分の宣伝に使うのなら、逆にそこを狙いましょう。近々、彼らの部隊をマスコミにお披露すると言っていたわ」
その後、わたし達は作戦会議を続けた。
「え!? そんな手を使うんですか、警視正?」
「ええ。敵の油断を最大限、生かすわよ」
その場にいた全員の視線が、警視正に集まる。
警視正は、凄みのある笑みを浮かべた。
「さあ、逆転開始。狩りの時間よ!」
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