第42話 切り結ばれる線
敵の姿がぼんやりと見えたものの、こちらから攻める事は出来ない。
怪しげな会社であっても、捜査権と逮捕権も無いわたしとひなに出来る事は無い。
くやしいが今は辛抱し、チャンスを狙って現行犯として捕まえるしかない。
……でも、向こうが事件を起こすのを待つのはイヤだよねぇ。
しかし、わたしには待っている時間は無かった。
「ひなちゃん、ニュースを見た!?」
「今見て驚いたのじゃ! お母さまもまだ帰ってこぬから、話も聞けぬのじゃ」
二月後半。
まもなく三年生の卒業式が近づく頃。
夕方突如、飛び込んできたニュース。
「どうして、警視庁の代わりに、帝都安全保障庁なんて出来たの?」
「ニュースでは、警察機構の力だけでは東京を守れぬと言っておるのじゃが、まさか警視庁襲撃事件の事を隠さずに発表するとは……」
ニュースでは、ふくよかな中年首相が省庁設立のいきさつを説明。
そして新たに帝都安全保障庁の長官に選ばれた若き議員が、警視庁襲撃事件において異世界の魔物が暴れた事を話している。
「今回、若輩ながら帝都安全保障庁の初代長官に選ばれました鷹宮 恒二と申します。昨年末、警視庁を襲った者たち。以前はテロリストとお知らせしておりましたが、真実は違います。異界からの侵略者、魔神と呼ばれるものが暴れた結果です」
この間まで防衛相政務官であったイケメンが、深刻そうな表情で真実を語る。
彼の周囲に集まる記者たちは、皆驚きの表情を示し、質問すら飛び出さない。
「彼らに対し、これまでの警察機構の力では対応できません。今回設立された帝都安全保障庁。先日、海外派兵されました特務部隊を元にし、異界存在に対しても戦える装備、そして異能を持つ者たちを選びました。この部隊により、再建中の警視庁に成り代わり東京の治安を守ってまいります」
なんと、魔神だけでなく異能を持つ者の存在さえも、マスコミにアピールしていく長官。
記者たちは一瞬、言葉を失う。
カメラのシャッター音だけが会見場に響き、ようやく「魔神?」という小声と共に、騒然となりだした。
「綾香お姉さま。これは、やられたのじゃ。一気に情報を流す事で、新たな組織に正当性を持たせる手なのじゃ」
電話から聞こえるひなの声。
それはひどく震えており、これから起きる事に対して不安を感じさせた。
「もう……」
わたしは思わず呟く。
「わたしでは『斬れない』様になっちゃった」
◆ ◇ ◆ ◇
「綾香さん。少しお話があります。ひなさんと一緒に当家にまた来て下さいませ」
「……あのニュースの件ね」
結衣から、再びわたし達は呼ばれた。
「母さまも、今回の動きに驚いておるのじゃ。せっかく警視庁の再起動を準備しておったのに。ここしばらくは家にも帰って来ぬのじゃ」
「警察機構も、上から動くなと言われて困っていたでしょうね。東京都の治安維持は帝都安全保障庁で行うって言われましたら」
「アタシの家でも大騒ぎしているよ。店の売り上げが激減してるって」
前も集まった応接室にて話し合いが行われる。
今回も盗聴対策は万全だ。
……わたしはともかく、ひなちゃんの周囲には警備の名目で尾行が付いているものね。
「葵さんのご実家はショットバーでしたね。確か、お父さまがカクテル作りの名人バーテンダーと」
「オヤジは昔ながらのバーテンダーだから、女の子とかは雇っていない分、まだなんとかだけどね。アイツらが動き出して夜の街もずいぶんと人が減っちゃったよ」
葵の家は、お父さまが脱サラをしてカクテルの勉強のために海外渡航。
技術を学んでお店を始めた。
お母さまは、自由人な夫に半分呆れながらも、葵や弟を学校に通わせるためにパートタイムで働いていると聞いたことがある。
「そうなのかや。葵お姉さまの家も大変なのじゃな」
「その代わり、街での噂話はよく入ってくるんだ。今回の事も例のフロント企業が『おしぼり』斡旋なんかで飲み屋街に口を出してきてたから」
わたしも葵から聞いたのだが、昔からヤクザは飲み屋街には「おしぼり」の販売や用心棒という名目で収入を得ていた。
もちろん、彼らも贔屓の店にはお金を落としていたとも。
「なんでも、右目が機械っぽい義眼で右手に杖ついてた男が若い衆を使って、中国系ヤクザを街から追い払っていたって話。まあ、これ自体は良い話なんだけどね」
「右目が義眼? むむむ、何か引っかかるのじゃ」
「そうだよね、ひなちゃん。あ!? わたしがグレーターデーモンの潰した眼が右側だったわ!」
「右手に杖、ということは左側に麻痺がある可能性がありますわ。目と共に右脳を破壊されていれば、左側に麻痺が起きます。ということで……」
……つまり、そいつがグレーターデーモン!
「線が繋がった!」
「後、正体不明でしたフロント企業の役員、奈良原 礼斗。彼が『とある』人物の補佐役であるのが分かりましたわ」
「結衣お姉さま。それは、もしや!?」
結衣の言葉を待ち、他の全員が固唾を呑んだ。
「ええ、お察しの通り。若手与党議員にして、二世議員。初代帝都安全保障庁長官、鷹宮 恒二ですわ」
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