第39話 刃の届かぬ場所
新学期が始まって半月。
授業が終わって、机に突っ伏しているわたし。
「あやっち、今日もぼーっとしてるけど、大丈夫?」
わたしに覆いかぶさるように抱き着く葵。
「葵さん、しょうがないですわ。綾香さんの周囲は色々大変なことがありましたから」
結衣は、葵をわたしから引っぺがしてくれた。
「二人とも、ありがと。守秘義務があって話せない案件で、ちょっと困ってるの。今までは目の前の敵を切り払っていたら良かったんだけど、そうもいかないことになっちゃって」
特対室の一時解体。
わたしには一切手出しが出来ない政治的な事が、背後で動いている。
刀を振るだけでは届かない敵がいる。
斬ることすら許されない「敵」が。
「警視庁が、年末にあんな風になっちゃったからねぇ。そりゃ、国は大騒ぎになるか」
「わたくしの耳にも、警察機構の再構成という話は聞こえてきますわ。テロ組織に対して、もっと攻撃的な組織を作るべきではないかと。ですが、犯罪を犯す前に逮捕や制圧するという案は、流石にやり過ぎですわね」
二人とも、気を利かせて、細かいところは聞いてこない。
おそらく警視庁での戦いに、わたしやひなが関与していることまでは気が付いているのだろうが。
「うん。色々察してくれてありがとう。ひなちゃんとも毎日話してるけど、中々いい話も聞けないし」
ひなとは毎日SNS経由で話してはいるが、警視正は殆ど帰宅していないそうで、親子の会話もあまり出来ていないらしい。
「本家も妙な動きをしておるのじゃ。ひいお婆さまにも会ってみたのじゃが、今は本家筋の政から引いておるから、よく分からんのじゃ。本家の様子が、妙なのじゃ。保守強硬派が、水面下で何かをしておるのじゃ」
ひなや道明の話からも、新規部隊の構成員が普通ではない事までは分かっている。
誰もが以前よりも不自然にパワーアップされているらしい。
そして、その構成員にひなの本家が関係している。
「なんか、これまでのことが全部繋がっている様な気がしてならないの」
「そうですわねぇ、綾香さん。偶然は二つまでなら、重なっても偶然ですわね。ですが、三つ以上偶然が重なって、点と点が繋がればそこに真実がある。ミステリーや陰謀ものでは良く聞くお話ですが、あくまでフィクションのお話ですし」
「ゆいっち、怖い事言うなよぉ。陰謀論はネタだけで勘弁だって」
不安から呟いた言葉に、二人が反応してくれる。
……点と点かぁ……。思い過ごしなら良いんだけど。
「そーだね。ちょっと悩み過ぎちゃった。さあ、一緒に帰ろ」
「ええ」
「そーこなくちゃ!」
わたしは不安を一旦飲み込み、親友たちと帰路に就く。
また春遠い季節、小雪が暗い空から舞い降りてきていた。
◆ ◇ ◆ ◇
「綾香お姉さま、ニュースを見たかや」
節分が過ぎたころ、夕刻に慌てた様子のひなから電話が飛んできた。
「え、ひなちゃん? 慌ててどうしたの。ニュースって」
「ちょうど今テレビでやっておるのじゃ! 早く」
ひなに急かされて、自室のテレビを公共放送のチャンネルに合わす。
すると、そこでは海外でテロに巻き込まれた邦人が救出されたと報じられている。
「邦人救出のニュースのこと? これ自体は、良いお話じゃ……」
「救出に向かった者が、問題なのじゃ!」
わたしの言葉を遮るように叫ぶひな。
ニュースを見ていくと、テログループの制圧に日本から制圧部隊が送られたとある。
「あれ? 普通、こういう場合は現地の警察や軍隊が動くよね。帰国時に護衛で日本から行くのは聞いたことあるけど?」
「そうなのじゃ。わざわざ日本から実働部隊が赴くなど、此方も聞いたことも無いのじゃ。で、その面子が特対室に集められるはずだった者達なのじゃ!」
ニュース映像では、部隊を連れて行った防衛庁政務官が説明をしている。
……この人、見覚えがあるわ。確か、有名な政治家の次男坊だったっけ? 若くてカッコイイから主婦から人気が高いって。この間の選挙もトップ当選だったよね。
「今回、部隊を派遣しましたのは、今後の日本防衛のテストケースとしてです」
まだ三十代に見える優男は、立て板に水を流す様にマスコミに話しかける。
「今回、派遣した部隊ですが、警察庁SAT及び他特殊部隊。及び自衛隊作戦群より選抜されましたメンバーです。詳細はお話しできませんが、部隊員及び人質に一切被害なく、テログループの無力化に成功しました」
自慢げに自らが編成した部隊の事を説明する政務官。
彼の背後に顔まで黒いマスクで隠した特殊部隊員が映っている。
全員、自動小銃を構え、微動だにせず整列している。
「え? 特対室に集められる人って、確か霊能力者だよね。なんで、銃を持って……。う、嘘!? この気配は……」
「道明どのから連絡があったのじゃ。今、海外に居るとな。そして彼らが問題なのじゃ。此方も画面越しに『アヤツ』らの気配を感じたのじゃ」
テレビ画面越しにすら感じる気配。
そう、わたしはそれに覚えがある。
「魔神の気配……」
「嫌な予感がするのじゃ」
画面の向こうで、イケメン政治家が自慢げに話す。
その笑顔は、どこまでも整い過ぎていた。
そして、その眼は全く笑っていない。
……この人……。
わたしは、何故か魔神の気配のする隊員ではなく、この若き政治家に恐怖を感じた。
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