第38話 断てぬ禍芽
「通達事項は以上。後、装備品はここに置いておけないから、自宅に一旦持って帰ってくれないかしら、綾香さん?」
「え? こんなに沢山ですか?」
「良いなぁ。此方、カッコイイ衣装もたまに着たいのじゃ!!」
倉橋警視正、ひなの母から警察庁に呼び出されたわたし。
特対室が一時解体となり、しばらくは待機状態になると告げられた。
「今までジャージで戦わせていたのが間違いなのよ。ちゃんと国の組織に所属しているのに、身分証も発行しない上に私物を使わせるのは流石にね。あ、武具に関しては国の支給品じゃなくてもいいわ。大体、ひなの愛用品も大抵は『本家』のものだしね」
警視正に手渡しされたのは、真っ黒なジャージ。
肩口や胸に金色の星型なマークが書かれている。
「これが俗にいう『桜の代紋』なのじゃ! 此方も巫女服に付けるワッペンがあるのじゃ!」
「へー。カッコいいけど、私服には着れないわね。身分バレバレだもん。この生地ってかなり丈夫そう」
「防刃素材だから安心して。内側に着るスペクトラ防弾具と合わせれば、かなり防御力も上がるわね。普通の拳銃弾くらいまでなら致命傷を防げるわ。後、ひなの使っているバイザーも持って帰ってね。これも拳銃までの防弾仕様よ」
ジャージは見た目よりも重い生地ではあるが、防刃・防弾なのはありがたい。
これに祖父から借りている鉢金と籠手があれば、防御は安心だ。
その上に、相互通信の上に情報表示が出来るバイザーもあれば、戦場でも困らない。
……衛星通信を切られて負けた軍隊の話は聞いたことあるわ。
「此方の巫女衣装も同じ素材なのじゃ! 色以外はお姉さまとお揃いなのじゃ」
やっと機嫌がよくなったひな。
わたしと装備がお揃いになったのが、嬉しいらしい。
「じゃあ、そろそろ……」
貰った荷物をリュックに詰め、職務室内の応接ソファーから立ち上がった瞬間。
特対室のドアがノックされる。
「倉橋警視正。太田だが、入っていいかい?」
「ええ。ちょうど良かったわ。どうぞ」
中年男性の声がドアの向こうから響く。
わたしやひなが居ても、構わないのか。
わたしに意味ありげにウインクをした警視正は、男性に入室の許可を出した。
「邪魔するぜ。実働部隊の面子について、相談を……。お!? お前ら、なんでここにいる?」
ドアを開けて入ってきた男性。
頭を下げて入ってくる程の長身、かつ着なれない感じの背広がパンパンになるほどの筋肉量。
更に坊主頭で無精ひげを生やしたワイルドな感じ。
彼がびっくり顔で背を屈め、わたしやひなの顔を覗き込んできた。
……あれ? この人、見覚えが……。あ!?
「もしかして、道明さん!?」
「え、道明おじさま!」
わたしとひなの声がハモる。
「え? ひなちゃん、この人を知っているの?」
「お姉さまこそ、どうして知っておるのじゃ? 小さい頃から遊んでもらっておる高野山の退魔師なのじゃ。あ!? そうだったのかや?」
倉橋警視正に会いに来た人物。
それは、結衣を山の神から助けてくれた退魔師。
わたしに「切る」力がある事を教えてくれた人でもある。
「そうか。魔神を斬り倒した少女がいるって噂を聞いてたが、綾香ちゃんだったのかよ。納得だな」
「道明さん。あの説はお世話になりました。結衣ちゃん、元気に学生してます」
「あらあら。太田さんと綾香ちゃん、知り合いだったのね。なら、本当にタイミング良かったわ」
退魔の世界は狭い。
道明との再会自体は、不自然ではない。
……前にあったのは五年も前だし、背広姿だったから、直ぐに気が付かなかったわ。あの時は、黒い僧衣だったものね。
「警視正。わざわざこの時間にアポの許可を出したって事は、最初から綾香ちゃんたちに会わせるつもりだったのかよ。可愛い顔して油断ならねぇなぁ」
「うふふ。策士と呼んでもいいわよ。さて、何の話かしら?」
二人の話を聞くに、警視正は道明とわたし達を会わせたかったのだろう。
そこに何の意味があるのだろうか?
「つまり二人にも話を聞かせろって事だよな。じゃあ、遠慮なく話すぜ」
余っている事務椅子を応接セットの横に持ってきて、どすんと座る道明。
事務カバンから紙束をばらっと応接机の上に置いた。
「これが、新規設立される対魔部隊の候補者リストだが、どうなってやがる!? 明らかに異常だぞ!」
「貴方も気が付いたのね。わたしも、これは裏があると思っているわ」
道明は興奮気味に紙に書かれたリストを示すが、警視正は今更という感じ。
わたしの横に座るひなは、びっくり顔でキョロキョロと視線を自分の母と知人の間を行き来させている。
「警視正。わたしとひなちゃんに話を聞かせるという事は、この候補者に何かあるんですね」
「……まだ確定では無いですし、二人にはあくまで注意してという話をしようと思ってたの。太田さん、貴方の意見を聞かせてくれないかしら?」
自分からは、はっきりとした事を言わない警視正。
いや、言わないのか、言えないのか。
「警視正のこったから、この部屋には盗聴は無いのを確認してんだろ? だが、レーザー盗聴の可能性もある。一応は警戒させてもらうぜ。オン・バヤベイ ソワカ <風天神よ>」
道明は、何かの印を両手で結んで術を発動させる。
その瞬間、わたし達の周囲に何かが出来たのを感じた。
「風の結界かや? 防音対策としては、完璧じゃな」
……風の壁を作ったんだ。へー、便利な術ね。
「念には念だな。さて、本題に入るが、候補者のやつら。以前会った時と全く違っていた。能力者ではあったが、ここまで『力』は強くなかったぞ。それに、何か『違う』んだよ。何かは分からないが」
道明は、リストに書かれた各員の能力値を指さす。
大抵の人員は、CからBと書かれている。
「ふむ。何人か、此方も名前に覚えがあるのじゃ。確か本家、保守強硬派の者だったが、術の発動がやっとのレベルだったのじゃ」
「えっと。わたしにはよく分からないのですけれど、この能力値のレベルってどういう具合なんですか?」
道明やひながいうには、部隊候補者が短期間でレベルアップしているらしい。
といっても、レベル自身の具合がわたしには分からない。
「そうね。霊を見たり、感じるというのがF。簡単な術が発動できるのがEランク。わたしは、この辺りかしら?。Dで退魔師として最低ランクね。因みにひなはA++。綾香ちゃんも同クラスよ」
「え!? わたし、そんなにレベル高いんですか?」
「綾香ちゃんは自覚が無いのかい? 異空間に関与して攻撃できるってのは、特Aクラス。国から監視対象になって……。あ、失敬」
警視正と道明が説明してくれるのだが、道明の失言が気になる。
「監視対象って……。一体、どういう事ですか?」
「もう、困った人ね。まだ本人には言うかどうか、迷ってたの。ひなも綾香ちゃんも、『国』は良くも悪くも注目しているわ。今のところは保護の意味で監視しているのは、覚えておいて」
警視正の言葉。
それは、装備で重くなったリュック以上に、心を重くした。
……わたしは、この先。何を守って、何を斬ればいいんだろうか?
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