第37話 封じられた刃
「綾香さん。今日は、大事なお話があって呼んだの。学業も忙しいのに、無理を言ってごめんなさい」
「いえいえ。警視正もお家に帰れないくらいお忙しいのに、御気を遣わせてすいません」
正月三賀日も終わり、まもなく新学期の声が聞こえる頃。
わたしは、ひなと共に倉橋警視正に呼ばれた。
警察庁は、警察官が前回来た時よりも多い気がする。
「しかし、ここも大変ですね。隣の警視庁は、まだ中に入れないみたいですし」
「警視庁は規制線は引いてますけど、現場確認は終わったと聞いています。今日辺りから片付けと改修工事が入るはずね。こっちに一部部署が引っ越ししているわ」
まだ襲撃事件からは一週間もたっていないため、警視庁は関係者以外立ち入り禁止。
今日、警視庁の玄関口を覗くと、沢山の人が壊れた機材やガラス窓などを片付けていた。
「今日、二人を警察庁に呼んだのは、今後の事をお知らせするためなの。ひなには、既に話しているけど。綾香さんには特対室の事も含めて全部お話しますわ」
わたしの横に座るひな。
彼女は普段とは大きく違い、俯いた表情はとても暗い。
更に、警視正にも疲れが見える。
目元のくまを消すためか、化粧がいつもよりも濃い。
「は、はい」
……一体、どんな事を話されるのかな? あまり良い感じには思えないんだけど。
二人の真剣な様子に、わたしは言葉が出ない。
そんな様子が気になったのか、ひなはわたしの袖を引っ張り、顔を覗き込んでくる。
「お姉さま、どうしたのじゃ? あまり顔色が良くないのじゃ」
「ううん。大丈夫よ、ひなちゃん。警視正、お願いします」
逆に、ひなに心配されてしまうが、わたしは背筋を正して警視正に話を促した。
「なら、お話しますわ。今後、特対室はしばらく活動を停止。新たなるメンバーを揃えた後に、再度立ち上げをするということになりました」
「え!? じゃあ、ひなちゃんはどうなるの?」
ひなの表情が暗かったのは、特対室が解体されるのが理由らしい。
これまで国や家の為に戦ってきたひなにとっては、酷い仕打ちだ。
「安心して。ひなや綾香さんは、このまま残る予定よ。二人とも未成年だけど、既に雇用契約はなされているから。だけど、他のメンバー……」
警視正は、一旦言葉を切る。
「人類以外の者は、特対室から一旦解雇になったわ」
「皆、とても優しいのに、ヒトでないからって差別するのは間違いなのじゃ!」
「あ、ひなちゃんが前にお話ししてたよね。人間以外の仲間が居るって」
以前、聞いた話では特対室には、ひな以外のメンバーがいて、人類ではないとの事。
警視庁での戦いでは、出張先で足止めを喰らっていたから、来れなかったとも。
……あ、ひなちゃんが機嫌悪かったのは、こっちの理由ね。道具扱いだけして、ジャマになったら切るつもりなの!?
「今回の事件、公安委員会や更に『上』からかなり注目を受けているの。人外の存在の脅威が国の上層部や海外にも広く知られてしまい、特対室に所属している者達もいずれ敵に回った時、対処できなくなるのではと、公安委員長からの通達文にあったの」
……上って誰の事なんだろう? 総理大臣?? 海外からの圧力?
「でも、今まで助けてくださった方々を信用しないのはひどいと思いますが?」
「正直、ひなだけでなくわたしも同意見よ。何度も意見具申したけど、無駄だった。なら、上の命令には従わなければいけない。公務員かつ公安組織である以上、それが理不尽な命令であろうとも絶対に守らなければいけないわ」
わたしが文句を言うと、警視正は渋い顔をしながらも、命令は守らないといけないと話す。
わたしに伝える前に、かなり苦悩したことが、らしくない表情にも見える。
「此方も本家経由で散々文句を言ったのじゃが、決まったことは変えられぬそうなのじゃ。宮仕えは上に従わねばならんのは、今も昔も同じじゃが、悔しいのじゃ!」
ひなも、お怒りの状態ではあるが、どうにもならないらしい。
本家の政治力まで使ったが、ダメだった様だ。
「急な話になって申し訳ないわ。綾香さん、とりあえずIDカードはそのままお渡ししておきます。こちらから招集があるまで、学生をやっててね」
ため息を吐きながら、結果を伝える警視正。
学生に戻れる、日常に戻れると言われても、わたしの心の整理が付かない。
人々を襲う驚異がある事を知ってしまって、今まで見たいに生活なんて出来ない。
ひなだけを戦わせることなんて、もっと出来ない。
「他のメンツとやらが集まるまでに何かあったら、『上』は一体どうする気のかや? 『本家』の一部が今回の命令に関係しておるらしいのじゃ。保守急進派の中にヒト以外を信用できぬという者が多いのじゃ。今回の襲撃犯に裏がおるのは、グレーターデーモンのセリフで分かっておるのに」
ぷんぷん顔のひな。
本家から警察に圧力をかけようとしたら、逆に本家が人以外を排除した大本との事。
なるほど、それで表情がずっと優れないのだろう。
「そういえば、誰かに強化してもらったみたいな事を言ってたわね。……あれ? クリスマスイヴの事件の犯人も似たようなことを話してたような……」
わたしの記憶の中。
クリスマスイヴに暴れた男が、『失敗作』になったと言っていた事を思い出す。
グレーターデーモンになった男は、誰かに強化されたとも言っていたし、レッサーデーモンが人間から変身していた映像も見た。
「そこなんだけど、無差別テロをした人員に幾人かで共通な点があるの。綾香さんが捕縛した以外の人は、残っていた映像から身元が分かったのだけれど、数週間前から行方不明になっていた人たち。闇バイトに応募したらしき痕跡があったわ」
「じゃが、此方ら特対室には、捜査権や逮捕権。犯人を捕まえる権利は無いから、これ以上は何も出来ないのじゃ」
「そうなんですか。じゃあ、向こうから動いてこない限り……」
テロを起こした者たちに共通点がある。
しかし、その背後を調べる事は、わたしや特対室には出来ない。
更に、特対室が無いのなら、戦う事も禁じられたも同然。
わたしの中のモヤモヤは、大きくなるしか無かった。
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