第35話 斬れぬ血、選ぶ刃
「此方、聞いてばかりでは悪いのじゃ。此方も話したいことがあるのじゃ」
「もしかして、本家の事かな、ひなちゃん?」
深夜の小児病棟。
同じベッドに籠り、抱き合うわたしとひな。
多くの事を語り合う。
「うん、そうなのじゃ。もう軽くは話したとは思うのじゃが、此方らの家はな、ずっと昔。平安の世から陰陽道の呪術で『国を守る側』だったのじゃ」
「確か、安倍晴明に繋がる宗家だったよね」
安倍晴明とは、日本史の授業でも聞く名前。
占いや、暦、天文学の技術の大家。
陰陽寮という国家機関の機関のトップだと学校でも教えてもらったことがある。
「本家は血統主義じゃ。あの家はな、『力が』強い者を誇るのじゃ。逆に霊能力が乏しい者は疎外されがちなのじゃ。母さまは土御門家の直系なのじゃが、悲しいかな『見る』以外の力が発現せなんだのじゃ」
「室長、ひなちゃんを助けられないって、いつも後悔なさっているわ。でも、国の為に戦うひなちゃんを助けたいから、警察。国の組織に入られたのよね」
以前、室長は自虐的に自分の立場を『国の狗』と話していたことがある。
本家の意向で、魔と戦うひなを国家組織として守るために、警察機構に入ったと。
「そんな一族じゃから、『力』無き母さまは、家から追い出されたのじゃ。そして子の代での隔世遺伝を期待されて、遠い親戚筋じゃが、能力者が多い家系の父さまとお見合い結婚したのじゃ。『力』持ちの此方が生まれたとき、皆ほっとした顔をしたと聞いたのじゃ」
「酷い! 人はモノじゃないんだよ!? 力が大事だからって競走馬みたいに、恋愛感情も無い結婚はイヤよ」
寂しそうに自分の生誕の秘密を細かく説明してくれるひな。
血統を重んじ、力の遺伝を尊ぶ家での、実験じみた『配合』。
わたしは、怒りと悲しみを覚え、胸の中のひなをぎゅっと抱きしめた。
「じゃが、父さまは無能力の至って普通の人で、とても優しいのじゃ。じゃから、母さまとも今もラブラブ。如何せん、お二人とも忙しくてお会いする時間が少ないのは、残念なのじゃ」
家に結婚相手を無理やり指定されたものの、仲の良い両親の話をするひなが、少し恥ずかしそうに頬を染めるが嬉しそうなのは幸いだ。
「良かったね、ひなちゃん。ご両親が仲良しで」
「じゃが、本家の血統主義も上手くいかなかったのじゃ。母さまのお姉さま、朋美伯母さまに悲劇が起きたのじゃ」
ぎゅっと、わたしのパジャマにしがみ付くひな。
声も、とても悲しそうだ。
「朋美伯母さまは、家系では至って普通の術者じゃった。じゃが、伯母さまの娘。此方からは十歳年上の従姉。茉奈お姉さまが凄かったのじゃ!」
「お二人の名前、ひなちゃんが前に泣きながらお話してたよね」
「じゃった」と過去形で語られる名前。
以前、先に逝かれたと、ひなが涙をこぼしながら話していた二人の女性。
「茉奈お姉さまは、とても綺麗で強かったのじゃ。本家最強だったキヨひいお婆さまの元で修行し、日本一の術者として将来を有望視されていたのじゃ。後に、『力』が発現してひいお婆さまに預けられた此方は、茉奈お姉さまにオシメも交換してもらったのじゃ」
ひなが茉奈の事を話すとき、悲しくも嬉しそうな顔をする。
ひなの中でも、とても大事な人だったのだろう。
……ひなちゃんのオシメかぁ。ちょっと嫉妬しちゃうなぁ。
わたしは、今はいないだろう茉奈に対し、ここまでひなに懐かれた事を羨ましく思った。
「どんな魔物相手でもお姉さまと一緒なら怖くなかったのじゃ。此方も大きくなってからは沢山、お姉さまに術を教えてもらったのじゃ。お風呂にも入れてもらったし、今日みたいに一緒に寝ても、もらったのじゃ……」
ひなの声が、急に弱弱しいものになる。
逆に、わたしに抱きつく力は強くなった。
「じゃが、茉奈お姉さまも運命。病魔には勝てなかったのじゃ。高校入学頃より高熱で寝込む事が多くなり、どんどん動けなくなったのじゃ。此方は何回もお見舞いに行ったのじゃが、無力じゃった。最後まで弱い姿を此方に見せず、お綺麗じゃった……。お姉さまが亡くなった後から母さまから聞いたのじゃが、遺伝性の自己免疫異常。どんな魔物も祓えたのにの、自分の中の敵には、勝てなんだのじゃ」
皮肉にも、能力の遺伝を重視する家系での遺伝病。
部外者のわたしでも悲しくなる。
そして、ひなに弱いところを見せたくないという思いも、自分と同じだと思った。
「茉奈お姉さまが亡くなった後、追うようにして朋美伯母さまも逝ってしもうたのじゃ。子を遺伝病で失い、自分に流れる血を呪ってしもうた伯母さまは、全く眠らなくなったのじゃ。連日連夜、封印されておった魔物退治を行い、最後は狂乱した地方神と相打ちの形で亡くなってしもうた。強い者が壊れても、誰も止めなかったのじゃ」
ひなの口から、ぼそりと語られる本家の悲劇。
血に縛られ、血に狂わされて、命が失われた。
「……ひなちゃん、だからわたしも居なくなるかと心配しちゃったんだね」
「そうなのじゃ。此方、お姉さまと一緒に居ると強くもなるが、弱くもなるのじゃ。昔みたいに、完璧には、もうなれぬのじゃ」
わたしのささやかなる膨らみに顔を押し付け、パジャマを涙で濡らすひな。
この暖かくて小さな命が愛おしくて、大好きでたまらない。
……茉奈さん、貴女も同じ思いだったのかもですね。
「ひなちゃんは、完璧じゃなくていいよ。ひなちゃんは、ひなちゃんのままで強いんだから。これからは、わたしはずっと一緒、二人で強くなっていこうね」
「……うん、お姉さま」
わたしは、少し震えるひなをぎゅっと抱きしめ、その額に優しくキスをした。
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