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比翼の乙女たち~見えぬ呪いを斬り裂き、因果を断つ女子高生異能剣士と祈りの幼女巫女の現代怪異譚~  作者: GOM


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第34話 切れぬ縁、眠れぬ夜

 深夜の小児総合病院。

 病室は静寂に包まれている。

 時折、廊下側から巡回の看護師が歩く音が聞こえるのみ。

 日中も晴天であったし、季節風もほとんど吹かない。

 わたしの耳に届くのは、自分の心臓音と呼吸音のみ。


 ……いや、ひなちゃんの呼吸音が聞こえるか。


 警視庁で起こった異界の存在、魔神(デーモン)による大規模テロ。

 多くの犠牲者を出すも、ひなとわたしがSAT。

 警視庁特殊強襲部隊との協力で魔神を撃破。

 不完全ながら事件は解決となった。


 大きな怪我をしていなかったわたしとひな。

 二人は急遽、以前お世話になった小児総合病院に担ぎ込まれ、検査入院となった。

 ひなの治癒呪術のおかげで、今回は動けなくなる事も無かったが、二人とも無理をしすぎだとの判断。

 念のための入院措置の命令がひなの母、倉橋警視正から出ている。


 ……ひなちゃんは、わたしと一緒の部屋で眠れるとあって、さっきまで元気にわたしに話しかけてたわ。


 夕食後、急に電池が切れる様に眠ったひな。

 わたしは、その可愛い顔をそっと撫で、布団を被せる。

 そして、自分もベッドに入った。


 ……もっと良い戦い方があったんじゃないか。後悔しちゃう。


 しかし、中々眠れない。

 どうしても、昼間の戦いにおいて心残りが沢山あった。


 レッサーデーモン、バフォメット種を簡単に倒せるようになって調子に乗っていたわたし。

 しかし、その後に現れた青い異形なる巨人。

 グレーターデーモンには、わたしの剣術は一切役立たず。

 SAT隊員らが自らの命を張って作ってくれた隙。

 ひなとの協力技でようやく撃退できた。


 ……それでも、トドメをさせずに逃がしたのは失態よ。躊躇しなきゃ良かった。


 自分一人では何もできなかった。

 自分の子どもと遊ぶ日々が楽しいと話していた若いお父さん隊員。

 父と同じくらいの年齢で、わたしやひなちゃんを可愛がってくれたSAT隊長さん。


 彼らの勇気ある行動が無ければ、わたしは今ここにいない。

 警察署の地下安置室、冷蔵庫の中。

 物言えぬ冷たい骸として死体袋に入り、急遽帰ってきた父や兄。

 生きて帰ってくると誓った母や祖父母に、嘘つきと号泣されていたはず。


 ……さっき、皆と会った時も、泣かれはしたけど。


「ひなちゃんにも感謝だよね」


 消灯時間を過ぎ、医療機器のランプ以外は真っ暗な病室。

 隣のベッドに眠るひなへと顔を向ける。


「あれ? ひなちゃん?」


「お姉さまも眠れないのかや?」


 先程まで規則正しい寝息をしていたひな。

 夜の闇の中、榛色の瞳でわたしに視線を合わせ、問いかけてきた。


「うん。そうなの、ひなちゃん。もっと何かできた。誰も死なずに勝てなかったのかなって思って……」


 正直に今の思い。

 後悔を話すと、しばらくの静寂の後。


「お姉さま。そっちのベッドに行って良いかや?」


 ひなは突然、一緒に寝たいと言い出した。


「え!? ま、まあ良いけど。ベッドは一人用だから狭いよ? わたしは、別に構わないけど」


「それでも、此方の子ども用ベッドよりは大きいじゃろ?」


 ベッドが狭いと伝えるも、ひなは自分のベッドを飛び出す。

 そして可愛いピンクのパジャマ姿のまま、わたしのベッドに潜り込んできた。


「暖かいのじゃぁ!」


「ちょ、胸に抱きついちゃ、恥ずかしいよ」


 わたしのささやかな膨らみに、自らの顔を押し付ける様に抱きついてきたひな。

 わたしの背に腕を回し、しばし沈黙をしていた。


「綾香お姉さま、とっても優しくて良い匂いなのじゃ! 母さまと同じ匂いなのじゃ」


「もー。ひなちゃんってば! そういえば、連くんも同じ様な事を話してたっけ?」


 わたしの脳裏に、この病院で一週間程前に別れた少年の事が思い出される。


「連どのは、まだ入院中とのことじゃったな。明日にでもまた会おうぞ」


「だね。うまく角膜が定着したらいいよね」


 個人情報とは思ったが、先日お世話になった看護師さんに今日会った時に聞いてみると、先日片目に角膜移植が行われたとの事。

 問題が無ければ、もう反対側も移植を行うそうだ。


「成功するに決まっておるのじゃ。此方、母さま経由で聞いたのじゃが、連どのの母上の角膜がアイバンクとして死後保存されておったらしいからの」


「じゃあ……」


「後で、連どのに真実を話すのは、大変じゃろうて」


 死後、愛息子の目となって見守れる。

 それは、幸せでは無いか。


「最高の贈り物だよ。死んでも、子どもを守れるのなら……」


「お姉さま。亡くなったSAT隊員の事が心残りなのじゃな? 彼らも父であったからのぉ」


 わたしの不安な心を見透かしてきたひな。

 胸元に押し付けていた顔を、わたしへと向けてきた。


「うん。わたしは家族と生きて会えたけど、あの人たちの家族は今頃……」


「此方も、大事な人とは別れた事があるのじゃ。じゃが、戦う人は皆覚悟をしておるのじゃ。愛する人の日常を守るために、己の命を賭ける」


 ひなは淡々と戦士の心構えを語る。

 確かに、わたしも今日戦う前に、覚悟を決めていた。


「電話で、お姉さまに戦う理由が無いと言って悪かったのじゃ。お姉さまにも理由があるのを、結衣お姉さまに聞いたのじゃ」


「あ、結衣ちゃん。ひなちゃんに、あの時の事を話したのね。恥ずかしいなぁ、今回以上に何もできなかったんだもの」


「それでも、山の神に挑むとは凄いのじゃ」


 小学五年生の時、わたしの学校では山奥にある少年自然の家に泊りがけに行った。

 そこで悪ふざけをしていた男の子を叱ったクラス委員だった結衣と副委員のわたし。

 男の子が封印の紙を剥がした祠から、封印されていた山の神が現れた。

 そして、目の前にいた結衣を連れ去ってしまった。


「棒切れで殴りかかって、ちょっと斬れたんだけど、吹っ飛ばされっちゃったわ」


「でも、結衣お姉さまが神隠しにあった事をご両親に訴えたのじゃろ?」


 山の神は、わたし以外には見えず。

 結衣は、事故による行方不明と警察発表はされた。

 しかし、わたしは必死に訴えたので、結衣の両親は高野山の退魔集団に相談した。


「高野山のお坊さんが来て、結衣ちゃんを助けてくれたの。その時に出会ったお坊さんが、わたしに『切る』概念(スキル)。目に見えないものも、断てると教えてくれたわ」


「それで、葵お姉さまも助けたのじゃな。そちらも葵お姉さまから聞いたのじゃ。二人とも綾香お姉さまに助けてもらったと感謝しておったのじゃ」


「葵ちゃんの時は、無事に助けられたんだけどね。こっくりさんの紙を切れば終わったから」


 わたしが二人を救った話を、興味いっぱいの顔で聞くひな。

 まるで自分が助けられたかのように嬉しそうだ。


「此方も綾香お姉さまに何度も命を助けてもらったのじゃ」


「それはお互い様だよ。ひなちゃんがわたしの後ろでサポートしてくれるから、戦えるんだよ」


 胸の中のひな。

 彼女の髪が甘い香りを漂わせ、その小さくも柔らかく暖かい命。

 この命を守れたのも事実。

 他の命が、わたし達を守ってくれたのも事実。


 ……きっと、縁は切れないんだ。何処かで誰かが繋がっている。


 だからこそ、わたしは生きている。

 ひなの体温を感じながら、夜は更けていった。

お読み頂き、ありがとうございます。

面白い、続きが読みたいと思って頂けたなら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけたら、とっても嬉しいです^^


皆様の声援が、作品を書き続ける原動力となります。

なにとぞ、今後とも応援を宜しくお願い致します。 

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