第29話 庇いあう背中、斬り進む刃
「お姉さま、しっかりするのじゃ」
「ありがと、ひなちゃん。少し休んだら、また動けるから」
警視庁のロビーには沢山の警官らが入ってきて、臨時の指揮所となっている。
レッサーデーモンを倒したわたし。
『力』を使い過ぎ、気が遠くなって倒れてしまった。
目まいが残る今は、ひなや女性警官のお姉さんたちに看護してもらい、床に敷かれた毛布の上で寝ている。
……ひなちゃんの回復呪術で、少しは体調も良くなったんだけどね。
「地下一階、文書課に立てこもっていた人員と合流できました。駐車場に居た魔物らも殲滅完了。最上階の総合指揮所も健在です」
「二階以上には、迂闊に突っ込むなよ。あの巨人相手では俺たちの火力じゃ勝てないんだからな」
「おい、自衛隊も呼べ。これ以上、お嬢ちゃんらに無理をさせるな!」
「警視監どの、無茶を言わんでください。都内で武装した自衛隊など投入できません。せめてSATの到着を待ちましょう」
周囲では、大声で警官らが怒鳴り合う。
かなりの犠牲者が搬出されていくのも見えた。
「ふぅ。さあ、もう次行かなきゃ。二階より上は、まだなんでしょ?」
「お姉さま、まだ寝てておるのじゃ!」
小物なら警官らで対処可能らしいが、魔神がまだいる。
目まいはまだ残るが、わたしは戦わなくてはいけない。
……わたしが行かなきゃ!
「ひなちゃん。まだ、上に魔神の気配がする。残り、四体くらい?」
「……此方が全部相手するのじゃ。お姉さまは無理しないで良いのじゃ」
起き上がるのを、ひなに制止されるが、まだ寝ている時間じゃない。
わたしは、無理やり笑みをひなに向けて、起き上がった。
「ううん。わたしは、ひなちゃんの剣だもの」
刀を杖にし、萎える脚に力を込めて立ち上がる。
そして、看護してくれていた女性警官のお姉さんに礼をして二階への階段に向かおうとした。
「エレベーターが動いています!」
「警戒! 何が出るか、分からんぞ」
そんなとき、上階からエレベーターが降りてくる。
「気を付けるのじゃ。中に居るのは間違いなく魔神じゃぁ!」
ひなの声で、わたしはエレベーターの方へ視線を向ける。
踏み込む準備をするが、ひなが制止する。
「皆の衆、此方が仕留めるのじゃ。うぉぉぉ」
ひなは、警官らも制止し、呪符を取り出して念を込める。
チンと音を立て、エレベーターの扉が開く。
ドアが開き、巨大な山羊の頭が飛び出す。
「きゃぁ」
「ひぃ」
女性警官らから、恐怖におののく悲鳴が飛び出す。
エレベーターの中から背を屈めた魔神、バフォメットが顔を出した。
「凍り付けぇぇ、<大鬼王極冷波>!」
しかし、ひなの一撃が魔神を直撃。
エレベーターから完全に姿を現す前に、一瞬で氷像となって砕け散った。
「えっへん! 此方だけでも魔神を倒せるのじゃ!」
自慢げにドヤ顔をするひな。
しかし彼女の手足は震え、呼吸も荒い。
……ひなちゃんも無理しちゃって。わたしも頑張らなきゃね。
「でも、ひなちゃんだけじゃ、呪術を使う間合いは取れないでしょ。わたしが前に立つからね」
ひなの横に立ち、頭をひと撫で。
彼女の手を握り、階段へと脚を進めた。
◆ ◇ ◆ ◇
「そういえば、今まで教えて頂かなかったのですが、魔神は何体が警視庁に入ったのですか?」
「出現した魔神は全部で七体。分かっている範囲で、五体が庁内に乱入しています。残り二体は皇居前にて暴れ回り、皇宮警察とも協力して、そちらはなんとか撃破しました」
警察側も女の子を矢面に出したままというのはバツが悪いらしく、今は駆け付けてくれたSAT。
警察の特殊急襲部隊が、わたし達のサポートに来てくれている。
わたしの質問に、フル装備な覆面姿の若そうな男性隊員が答えてくれた。
しかし、彼らの動きに違和感を感じる。
……皆、緊張しすぎちゃってないかしら? 素人のわたしからも、動きが固く見えるわ。
「だったら、残りは三体ですね。ちゃっちゃと倒して、皆さん。お正月休みを楽しみましょう」
「ですね。僕も娘や奥さんと一緒に遊びたいです」
「流石、女子高生。こんな時でも遊ぶことを考えられるのか」
わたしの軽口に、誰かが小さく笑う。
張り詰めていた空気が、ほんのわずかに緩む。
さきほどまでバケモノ退治だと肩に力の入っていたSAT隊員の構えが、自然体に戻っていた。
ぎこちなかった足運びが、滑らかに変わる。
部屋の扉の前や廊下の曲がり角では必ず警戒をしつつ、動く。
「飛行魔物、発見」
「撃て!」
各員が持つ短機関銃を襲い来るインプ達に向け、発砲。
一瞬のうちに、敵は撃ち落とされる。
「流石ですね。空を飛ぶ素早い魔物を簡単に倒すなんて」
「それは、こちらの台詞ですよ。お嬢さん方が魔神とやらを魔法や日本刀で倒す方が信じられません」
若いお兄さんは、機嫌よくわたしの質問に答えてくれる。
素顔は覆面で見えないが、先程の会話では子持ちの父親とのこと。
頼もしいし、彼を無事に家に帰さなきゃとも思った。
「ま、魔神、出現です!」
七階まで脚を進めた時、再び魔神。
バフォメット種が、わたし達の面前に現れた。
「わたしが相手します。皆さんは、他の残敵殲滅を優先してください」
「此方、お姉さまを支援するのじゃ。身体回復、<薬師如来呪>じゃぁ!」
SATの人たちの前に進み、刀を鞘から抜くわたし。
ひなの呪術により、身体に力が満ちてくるのが分かる。
「ありがと! いくよ」
軽くなった身体で、一気に魔神の間合い内に踏み込む。
……動きが見える!
山羊の眼をした魔神。
その眼からは、感情や知性らしきものは一切感じられない。
また、四本腕と獣のような脚を持つ巨人。
魔法と剛腕を武器にし、銃弾をものともしない強敵。
しかし一度、同種と戦ったからか、敵の動きが完全に読める。
剛力を振り回すだけで、知性なく何の工夫も無い動き。
対人を主に学んでいたわたしは初戦にて人とは大きく違う姿に苦戦したが、大ぶりで読みやすい動きしかしないのなら何も怖くない。
……魔法は使わせない!
振り下ろす腕をかいくぐり、魔神の股下に滑り込む。
「は!」
そして趾行性な脚のアキレス腱らしき部分を切り裂いた。
「グギャ!」
脚を踏ん張れなくなった魔神は、前に倒れる。
暴れまわるその背に飛び乗り、山羊首の延髄付近を狙い、体重をかけて刀を突きさした。
「ふぅ。魔法を使う前に倒せて良かったわ」
わたしは、魔神の首から噴き出す紫色の鮮血を避け、背中から飛び降りる。
魔神は、激しく痙攣をしながらチリになっていく。
視線の向こうでは、Vサインのひな。
SATらにより、ゴブリンやインプも撃退されていた。
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