第28話 突撃、警視庁。闇を斬り払う
わたしの放った一撃。
剣先より放たれた青い閃光が、警視庁の手前に張り巡らされた透明な結界へと激突する。
ガラス状の膜は大きく揺れ、向こう側の風景を歪ませた次の瞬間。
全体に無数の亀裂が走り、ガチャンと乾いた音とともに砕け散った。
「お姉さま、凄いのじゃ! じゃが、技の反動は大丈夫なのかや?」
「うん。大丈夫だよ、ひなちゃん。今日は妙に体が軽いんだ。木刀じゃなくて良い日本刀を使ったのもあるんだけど、気合が違うからかな」
心配そうに顔を覗き込んでくるひなに、わたしは日本刀を鞘に仕舞いながら笑みを返す。
周囲では、警官たちが大騒ぎをしていた。
「い、一体。今のはどういう現象なのだ!?」
「警視監、今は通信が復旧した方が重要です。最上階の総合指揮所と連絡が取れました。多くの方々が、そこに逃げ込んで防戦をしているようです」
どうやら、結界の崩壊で警視庁内と連絡が取れたらしい。
「お姉さま! お母さまとSNSが通じたのじゃ。今、助けに行くってメッセージが既読になって、無理はしないでって返答来たのじゃぁぁ」
「良かったね、ひなちゃん。さあ、鬼退治に行きましょうか」
ひなは、涙ぐみながら母の無事を祝う満面の笑顔を見せる。
わたしは軽くひなの頭を撫で、警視庁の入口。
ひびが入ったり、割れたガラス戸が多数並ぶ玄関へ足を進めた。
「き、君たち。ふたりだけで行くのか?」
「ありがとうございます、警視監さん。わたし達が先行して魔物を叩きますので、後から来て救護や支援をお願いしますね」
「此方たちに任せておくのじゃ!」
なおも、心配そうな声をかけてくれる中年太っちょの警視監に笑みを返し、わたしとひなは魔城と化した警視庁へと乗り込んだ。
◆ ◇ ◆ ◇
ジャリと割れたガラスを登山靴で踏みしめて、一歩ずつ足を進めていく。
「電気がついていないから、昼間でも薄暗いよね。よっこいしょ」
「油断大敵なのじゃ。四方八方から邪気を感じるのじゃ」
警視庁一階玄関口のロビー。
そこは天井が高く、総合相談センターと表示されたカウンターが広がる。
IDチェックをするゲートもあるが、全て停止している。
わたしは、ゲートを軽く飛び越える。
ひなも、わたしに続いてゲートを乗り越えた。
「お姉さま!」
ひなの声が聞こえると同時に空中から二体の影が、わたしに襲い来る。
「ふん!」
帯に刺した鞘を左手で握り、少し傾け、鯉口を切る。
そして柄を握った右手を一閃。
斬り捨てた魔物が、どすんと地面に落ちる。
灰色の肌をした羽の生えた悪鬼は、胴体が両断されており、直ぐにチリと化していく。
「す、凄いのじゃ。インプやガーゴイル種を一閃なのじゃ」
抜き打ちによる右上への片手居合、そして右上から左下への両手袈裟懸け切り落とし。
祖父の教え通りの連携技。
「身体が自然に動いちゃった。お爺ちゃんに対空技、習ってて良かったわ」
しかし、斬り捨てた後も残心を忘れない。
周囲には、まだまだ殺気。
わたしとひなへ迫る悪意が多数存在するから。
「ひなちゃん。わたしの後ろからあまり離れないでね」
「此方、呪術で支援するのじゃ」
背中を合わせながらの戦い。
心が通じ合った二人なら、何も怖くない。
「囲まれているね」
「おそらくはゴブリン種じゃ。魔神どもが自分たちの世界の魔物を呼んだのじゃろう」
今にも襲い掛かろうとしている敵。
机や物の影から赤い目がいくつも光って見える。
注意してみれば、至る所に血痕や丸い穴。
倒れ伏した人影が見える。
「許せない! ひなちゃん、一掃して早く救援を呼ぼう」
「そうなのじゃ。<歓喜天・大鬼王極冷波>じゃぁ!」
呪符を使ったひなから、凍結系の呪術が周囲に放たれる。
今にも飛び出そうとしていた影の大半が氷の彫像と化して砕け散る。
残った数体も、わたしが簡単に斬り捨てる。
「お姉さま、大丈夫かや? 小鬼族共は人に似ておる。人を斬るのは……」
「わたし、覚悟を決めてきたから。後で後悔したくないから、悪鬼なら人でも斬るわ」
ひなには強がりを見せるが、胃液が上がりそうなのを我慢する。
襲い掛かってくるは、子どもくらいのサイズの人型な魔物、ゴブリン。
彼らは手に手に、小型の刃物。
ナイフや手斧を持って襲いかかってくる。
人間に姿が近いが、わたしは容赦なく斬り捨てる。
しばし、インプやゴブリンらを斬り捨てていくうち、奥の方から凄まじい殺気を感じた。
「本命登場ね……。う!」
「ひ、酷いのじゃぁ」
カウンターの一番奥。
しゃがみ込んでいた巨体が身体を起こす。
二メートルを越える巨人、それは異形の存在。
「レッサーデーモン。バフォメット種じゃ」
四本の腕を持ち、山羊の頭を持つ赤銅色な肌の巨人。
そいつは、片手に制服を着た女性警官らしき人体を持っており、彼女の身体の腹部には大きな歯型と血痕。
更に、くちゃくちゃとしている巨人の口元は鮮血で塗れていた。
「はぁぁぁ!」
「お姉さま、単独吶喊は危ないのじゃ」
怒りで、ひなの制止も聞かず思わず魔神に飛び込んだわたし。
女性の遺体を放り投げた魔神と一対一の対決となる。
「しょうがないのじゃ。背後の雑魚は殲滅しておくで、お姉さまは魔神を倒すのじゃ」
ひなの声を背後に聞きながら、わたしは魔神に切り付ける。
「くぅ。硬い!」
簡単に斬り捨てられたゴブリンらとは違い、魔神の肌は強固。
『力』を込めた一撃ですら、皮一枚くらいしか切り込めない。
「ふぅ!」
わたしの頭部を狙う鍵爪の抜き手。
動く先を狙う薙ぎ払い。
更には床に大穴を開けるパンチ。
その攻撃を、殺気を頼りに避けていく。
「どうしたら……」
しかし、避けてばかりでは勝ちは無い。
それに殺気が読めても、全部の攻撃は避け切れない。
腕の薙ぎ払いを回避しきれず、籠手で受け止めるも、身体が吹き飛ばされた。
「お姉さま! 雑魚は壊滅したのじゃ。今から助けに行くのじゃ」
怯みながらも隙を狙っていたわたしに、ひなの声が響く。
しかし、その声はわたしだけではなく、魔神にも届いていた。
「ぐギャぁぁァ!」
魔神は、脅威でないと判断したわたしを完全に無視するように背を向け、四本の腕を上に掲げる。
そして咆哮と共に巨大な火球を作った。
「ひなちゃん!」
わたしの脳裏に、ひなが燃え尽きるビジョンが一瞬浮かぶ。
……そんな事はさせない!
机を台にし、わたしは一気に跳躍する。
そして日本刀を大上段、頭上に構えながら、魔神の頭の高さまで飛び上がる。
「虚空一閃!」
技の名前を叫び、一気に日本刀を振り下ろす。
「……グハァァ」
青い軌跡は、魔神の身体を背中側から頭より股下まで通り過ぎ、床まで達する。
悲鳴を上げた魔神は、自ら作っていた火球を自分へと落とし、左右半分ずつ分断されて倒れ伏す。
そして、あっという間に燃え尽きた。
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