第27話 封鎖される警視庁、斬り開くふたり
「とーちゃく! 本気で久しぶりに走ったわ。ベストタイムかしら?」
「はぁはぁはぁ。あー。怖かったよぉ」
都内を疾走した母の軽自動車。
なんと、祖父の家から三十分程度で警視庁の近く。
日比谷公園まで到着した。
……途中でパトカーに捕まりそうになった時は、流石にわたしの警察庁IDを示したわ。
「ここから先は、ナビちゃんによれば封鎖。規制線が引かれている様ね」
車窓からも、公園の向こうでは多くのパトカーの赤いランプが多数見える。
機動隊の車列と規制線の内側に、誰も踏み込めない空白が広がっていた。
「そ、そのナビちゃんってAIナビの起動キーワード?」
「そうよ。さあ、落ち着いたのなら出陣してね」
とんでもない母の運転で、現場まで到着した。
三半規管の混乱が落ち着いてきたわたしは、手荷物の風呂敷を解く。
「それ、お父さんの秘蔵品ね」
「うん、嬉しいわ」
風呂敷の中身、鉄板で額部分を補強した鉢巻である鉢金。
刀を差すための博多帯。
そして鎖帷子の上に鉄板を貼り付けた籠手。
……お爺ちゃん、使わせてもらうね。
助手席から降りたジャージ姿のわたしは、それらを一つずつ身に着けていく。
髪をアップにまとめて、鉢金を締める。
ぎゅっと腰に硬めの帯を巻き、愛刀を刺す。
籠手も両腕に装備して、臨戦態勢だ。
「カッコいいわねぇ、綾香。じゃあ、家で吉報を待ってるわ。多分パパやお兄ちゃんは、遅れて帰ってくると思うけど、元気な顔をひなちゃん共々見せてね」
「うん、行ってきます!」
母と別れたわたしは、公園を走り抜けて警視庁に向かった。
◆ ◇ ◆ ◇
「ここは警察関係者以外は立ち入り禁止です。女の子が危ない場所に近づいたらダメですよ。え、その刀は本物か!?」
規制線の前で長い警棒をもって警備をしていた制服警官のおじ様。
わたしの恰好を見て絶句する。
「えっと、わたし。一応、警察関係者です。ここに同僚と上司がいると思うのですが?」
首から下げている顔写真入りの警察庁IDカードを見せると、おじさんは更に驚愕の表情になった。
「え? 警察庁、公安? こんな女の子が? 本物、ですか」
「詳しい事は、警視庁で閉じ込められています室長、倉橋警視正から聞いてください。なので、早く通して下さい」
わたしの周囲に警官や機動隊員が多数集まってくるのだが、中々信用してもらえず、中に入れない。
遠くからは爆音らしき音が時折発生し、空気も焦げ臭い。
「……早くしなきゃ、警視正が」
焦りから強行突破を一瞬考えた時、背後から聞きなれた声が聞こえてきた。
「綾香お姉さま? どうして、ここに」
幼いひなの声に、周囲に渦巻いていた剣呑な空気が和らぐ。
「ひなちゃん、助けに来たよ」
振り返ると、おどろきの表情をした巫女姿の少女、ひながいた。
「でも、でも。お姉さまは刀を振るえないのじゃろ? 此方なら、一人で戦えるのじゃ」
「あれだけの数の魔神を相手にして、ひなちゃんだけじゃ厳しいと思うけど。それに、警視庁の周りには結界が張られているんでしょ。ビンビンと嫌な感じが分かるわ」
視線を警視庁に向ける。
多くの木々に囲まれた中、入り口のガラス製の開き戸が見えるが、視界に違和感を感じる。
何か薄膜のようなもので覆われている感覚があり、警官たちも警視庁の中には入ろうとしない。
そのガラス戸も、ヒビが入っていたり、割れていたりもするのに。
「……。それでも、お姉さまには戦う理由もないのじゃ。それに、魔神相手では、また最初の事件の様に、お姉さまは無理をして倒れてしまう。最悪、命まで……」
「そんなことは、最初から覚悟済みよ。もう、わたしは後悔したくないし、わたしに戦う力があるのなら、それを使って人々を助けたい。その中には警視正やひなちゃんもいるの」
わたしとひなの会話を聞いている警官たち。
警視庁に何故か入れない事、更には異形なるものが中で暴れている事は知っている様で、追い出そうとはしなくなった。
「……お姉さま」
「一緒に警視正やみんなを助けに行こ、ひなちゃん」
わたしは籠手を着けた両腕で、今にも泣きそうなひなの手をぎゅっと握る。
「うん、ありがとぉ、お姉さま」
「さあ、行きましょうね。あ、すいません。警視庁のフロアマップとかありますか?」
涙をぬぐうひなの頭を撫で、周囲の警官らにわたしは問いかける。
攻め込むにしても、部屋の数やフロア分けを知らないと、背後から攻められかねない。
「お、お姉さま。此方はフロアマップを知っておるのじゃ。このゴーグル。情報提示端末になっておるのじゃ。次までにはお姉さま用の物を準備させるのじゃ」
「へぇ。これって外部との連絡以外にも、そんな便利な機能があるのね」
先程まで涙ぐんでいたひな、今度はわたしに自慢できるとドヤ顔だ。
「じゃあ、道案内はひなちゃんに任せるわ。お兄さん達、警視庁までの道を開けてね」
「此方と綾香お姉さまに任せるのじゃ!」
警官らが、まるで海が割れるかのように動いて道を作る。
ゴーグルを装備したひなは、すっかり元気な様子でわたしを先導する。
「うふふ、まるで聖書に出てくるモーゼみたい」
そして、警視庁の玄関が目前に迫った時。
「こらぁ。子どもが現場に来たら、いかんだろぉ!」
金ぴかの階級章を付けた太っちょの中年男性が、わたし達を制止するように飛び出してきた。
「警視監、こんな場所に出てきたら危ないです。いつ、バケモノが出てくるか、分からないですよ」
「そんな危ない場所に子ども。それも女の子がいる方がダメだろ。第一、駐車場からも隣の警察総合庁舎からも警視庁本館には入れんのだし」
どうやら、真剣にわたし達の事を心配してくれる人らしい。
「ご心配ありがとうございます、警視監。ですが、わたし達は前に進みます。バケモノ、魔神を倒してきますので、警察の方々は後から警視庁内部に入って支援をお願いします」
「お姉さまのいう通りなのじゃ。此方らが人外の化け物を退治するで、おじ様たちは後から付いてくると良いのじゃ」
わたし達はIDを見せて、警視監に笑みを返す。
「ひなちゃん。嬉しいよね、みんな心配してくれて」
「此方ら達が弱く見るのかや? うふふ。『力』を見せれば評価も変わるのじゃ!」
わたし達を不思議そうに見る警官たち。
IDを見ても、中々信じてはもらえない様だ。
「しかし、でも……」
「警視監。今は、彼女らを信じましょう。残念ながら、私どもでは何も出来ないのですから」
お付きの警官らに制止される警視監。
彼らに手を振って、わたしは結界の手前まで足を進めた。
「ふぅ。思いっきりやっていいんだよね、ひなちゃん」
「どうぞなのじゃ。ただ、身体に無理は禁物なのじゃ」
刀を腰に差した鞘から抜き、大上段に構える。
そして深呼吸をしながら目を閉じた。
……この嫌な感じの膜が結界。暖かい光は、まだいくつも感じるわ。真っ黒なイメージが魔神かな? 後ろのひなちゃんの気配が気持ちいいわ。
「はぁぁぁぁぁ……」
大きな声で息を吐き、刀身にわたしの念。
何物をも切り裂くという思いを込める。
「ふぅ、はぁー!」
そしてひと息吸った後、目を見開いて刀を一気に振り下ろした。
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