第24話 切れない年末、迫る悪意
「あやっち、何か元気ないよ? 大丈夫?」
「綾香さん、思いつめられていませんか?」
葵や結衣からSNSのメッセージが、定期的にくる。
わたしが気のない返事を返してしまうのも悪いが、ひなも含めて誰もが心配してくれている。
母は、わたしの様子から何か察したのか、祖父に聞いたのか。
あえて、何も尋ねてはこない。
「でも……」
わたしの視線は、まだ返していない刀に向かう。
祖父に、刀を返せと言われた。
なのに、祖父に合わす顔が無くて、あれから三日も経つのにまだ返せていない。
「このまま、年越しちゃいそう……」
日めくりカレンダーは、残り二枚。
もう、今年も終わろうとしているのに、わたしの心だけが取り残されたまま。
「ふぅ。お茶を飲もう」
宿題を片付ける手が一向に進まないので、いったん休憩。
自室を出てダイニングキッチンに向かおうとして、リビングを通る。
「今日は十二月三十日。今年もまもなく終わろうとしています。皆さま、今年はどんな年でしたか?」
お節料理の準備を終えた母がソファーに座り、昼過ぎの年末情報放送を眺めている。
「お父さんもお兄ちゃんも、今日の夜までには帰ってくるんだったっけ、お母さん?」
「そうね。今のところ、道路は混んでるけど、他は大丈夫みたい」
お気に入りのティーバックを入れたカップに、ポットから熱湯を入れる。
ほわっと湯気と共に、フレーバーの香りが舞い上がり、わたしの鼻に届く。
「ふぅ。良い匂い」
紅茶を一口。
口に含み、このまま自室に帰ろうとしたとき。
「あ! り、臨時ニュースです。今日十三時半ころ、警視庁に、武装した集団が乱入したとの情報が入りました!」
「え!? 警視庁って『特対室』がある合同庁舎の隣じゃない!?」
テレビから飛び出した臨時ニュースに、わたしは大きく驚いた。
「特対室って、ひなちゃんのお母さまが勤めているところじゃないかしら? でも、今は年末お休みじゃ?」
「そのはずだけど、お母さま。警視正はお忙しい方だから……。明日までは、ひなちゃんは警視正には会えないって話してた」
二日前のひなとの会話では、母や外務省勤務で海外出張中の父とは大晦日までは顔を合わせられないと言っていた。
「じゃあ、大変じゃないかしら。ご無事ならいいんだけど……」
母の言葉に、わたしの中で不安がずきんとよぎる。
「続報は……、ここなら分かるかしら?」
母はテレビのチャンネルを、それまで見ていた民放から公共放送へと変える。
そこでは、ニューススタジオに座った若手アナウンサーが少し慌てたように、現在分かっている情報を告げる。
「もう一度お知らせします。本日十三時三十分ころ。今から二十分ほど前に、警視庁に対し武装した集団が襲撃を行ったとのことです。未確認情報ですが、銃撃音や爆発音などが聞こえた、との一報も入っています」
どこかの屋上固定カメラからの映像では、以前わたしが出向いた建物。
中央合同庁舎第2号館や隣の警視庁付近から煙が上がっているのが見える。
「煙が出ているところ、わたしが行った場所に近い!」
「それは大変じゃない!? お母さま、大丈夫かしら?」
わたしは、母の言葉で警視正に連絡ができることに気が付く。
「迷惑かもしれないけど、安否を聞かなきゃ」
警視正の個人SNSアカウントへ、メッセージ送信と音声通話を試してみる。
「……。あー、繋がらないわ。メッセージも既読にならない」
頭の中で、嫌な予感がどんどん膨らむ。
冬なのに、背中に冷たい汗が流れる。
「ひなちゃんには……。連絡しない方がいいよね。無駄に心配させてもダメだし、警視正からの連絡を待ってるかもだし」
「そうね、綾香。向こうから連絡があるまで待ちましょう。でも、一体だれが年末にこんな大それた事をするのかしら? 被害者が出なきゃいいけど」
母もひなへは、こちらから連絡をしない方が良いという。
わたしの心は不安でざわつくのだが、実の娘はもっと心配だろう。
……今は我慢しなきゃ。あ、そうだ!
「SNSや動画サイトに情報が上がっていないかな?」
「流石、綾香。今時なら、それはありそうだわ」
母とわたしはスマホを駆使し、SNSなどを検索する。
多くのコメントでは、ニュースを聞き驚く声が書かれている。
「あ、これ。現地にいた人のコメントだ」
「どれ、ああ……」
わたしのスマホを覗き込んだ母は、言葉にならない声を吐く。
コメントには、警視庁への在留外国人逮捕を非難するデモ集団から、何かが現れて人々を襲いだしたとあった。
「これ、現地での動画と写真みたい。え!? 化け物が!」
母のスマホでは、デモ集団を遠くから映した動画が流れる。
在留外国人犯罪に怒っている人が撮影していたようだ。
「嘘……」
警視庁の入り口。
長い警棒を持って警備をしている制服警官の前で、プラカードを持ちシュプレヒコールをしている集団。
その中の数人が、突然うなり声をあげて身体を抱え込む。
異様な様子にデモは中止、警官らも苦しむ人を助けようと、彼らに歩み寄った。
「きゃ!」
「うぅぅ」
次の瞬間、苦しむ男らの身体が突然膨れ上がる。
衣服がはじけ飛ぶ……だけでなく、男らの血や肉すらもはじけ飛ぶ。
男の身体を破壊して生まれた存在、それは異形なる巨体であった。
「何よこれ……」
「まさか、魔神!?」
母は表情を険しくして、口元を抑える。
わたしは、映像から以前倒した魔神と同じ感覚。
背筋が凍り付き、吐き気が起きるようなイメージを感じた。
更に動画は続き、魔神らしき存在。
赤銅色の肌をし、頭部が山羊の形をした四本腕の大男。
それが、鋭い爪をもった腕を振り回し、周囲の人々を無差別に襲いだした。
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