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比翼の乙女たち~見えぬ呪いを斬り裂き、因果を断つ女子高生異能剣士と祈りの幼女巫女の現代怪異譚~  作者: GOM


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第23話 切ることを禁ず

「はっ! はっ!」


 年末の寒風が木々を揺らす朝。

 わたしは、祖父の道場で木刀をふるう。


 ……今日は、今一つ乗らないなぁ。


 いつもなら、木刀を振るたびに、心は刃と一体になって凛とした。

 目の前の敵を切り捨てるたびに、雑念が消えていたはずなのに。


「うーん。どうしたんだろう?」


 しかし、今日は心が妙に騒ぐ。

 切り捨てることを躊躇した存在が目の前に浮かび、刃を振るう手がどうしても乱れてしまう。


「綾香! 今日は、もうやめろ。これ以上、剣を振るってもろくな事にならん」


 そんな時、祖父から練習中止を告げる冷たい声がかかった。


「え!? まだ、練習を始めて三十分も経ってないよ?」


「そんな気の乗らん刃は、敵どころか己をも害する。剣が死んでいるぞ」


 練習を中断されたことに文句を言うが、祖父は聞き入れるどころか、更に叱責を加える。


「それは……」


 わたしには、言い返す言葉が何もなかった。

 己の手の中の木刀を見るが、握りが乱れた上に剣先が震えていた。


「今日の綾香は、構えも足さばきもなっておらん! 切る覚悟がない剣は、守るべき人を斬る事になるぞ」


 ……ひなちゃんを、わたしが斬るって!?


 祖父の言葉は、わたしの心の中の乱れにズキンと突き刺さる。


「今日は帰れ。お前は、しばらく道場には来るな」


 祖父は、淡々とわたしに告げる。

 その言葉には怒りの感情はなく、落胆すら感じる。


「お前に渡した日本刀も、俺に一旦返せ。今の綾香には、任せられん」


 祖父から告げられた言葉が悔しくて、情けなくて。

 祖母に心配する声を掛けられても、わたしは言葉もなく、帰路についた。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「あー、今日はダメだぁ」


 冬休みの宿題が並ぶ机に突っ伏すわたし。

 いつもならスラスラと解ける問題が、全然頭に入らない。


「やっぱり、ショックだったんだなぁ」


 祖父に剣を握ることを禁じられた日の夜。

 夕食時も、母との会話も上の空。

 入浴しても、気持ちは晴れず。

 宿題をしていても、一向に集中できない。


「覚悟かぁ」


 わたしの視線は、ベッドの横に立てかけられた袋に向かう。

 そのまま袋を手に取り、中身を出す。


「……。ひなちゃんを、わたしが切るなんて……」


 祖父の言葉を一旦否定はしてみるが、わたしの心は揺らぐ。

 教えてもらっている通り、息と唾液が刀身に掛からぬように半紙を唇に咥え、鯉口を抜く。

 華麗な刃紋を持つ刀身を鞘から抜き、構える。


「……。とっても重い」


 刀身の重さに思わずつぶやいてしまい、口から半紙がひらりと床に落ちる。


「前は、もっと軽く感じたのに?」


 冷え冷えとした美しさを持つ刃、その重さがずしんと手に掛かる。

 刀が生まれてから今日まで、数百年にもわたる歴史の重み。


「刃の向こう……」


 そして、切るべき相手の命、背後で守るべき命の重み。


「重いなぁ」


 魔神や老婆怪異を斬り裂いた感触。

 強盗犯の手足を叩き折った感触。

 今も、すべてわたしの腕に残る。


「化け物も人も全部、わたしが『斬った』んだよね」


 斬るべきだったのか、斬るべきではなかったのか。

 救いたかったのか、救えなかったのか。

 その重みを感じ、迷いは一向に晴れない。


「あー、もうわかんない!」


 心の中のもやもやを一旦吐き出し、刀身を鞘にしまう。


「明日にでも、お爺ちゃんに返しに行かなきゃ……。でも、気が重いなぁ」


 祖父と顔を合わす気まずさに悩んでいた時、スマホがSNSメッセージの到着を告げた。


「あれ、ひなちゃんから? こんな時間にどうしてだろう? 声が聴きたいって?」


 スマホの時間表示を見ると、既に二十二時過ぎ。

 小学生のひなにとっては、遅い時間だ。


「こんばんは。どうしたの、夜遅くに?」


「お姉さまの声が、と、突然聞きたくなったのじゃ」


 SNS経由での音声通話をしてみると、どこか慌てた感じのひなの声が聞こえた。


「ふーん、まあいいわ。もうすぐお正月だけど、ひなちゃんはどうするの?」


「正月三日は、本家に顔を出して正月の挨拶をせねばならぬ。ひいお婆さまに会えるのは嬉しいのじゃが、他の大人たちとは、あまり顔を合わせたくないのじゃ?」


 ひなが少し変な気もしたが、雑談を振ってみる。

 すると、億劫そうな声で本家のことを話してくれた。


「本家って、陰陽師の御家だよね。格式あって、窮屈そう」


「そうなのじゃ! こと、『力』のない母さまは良い顔をしてもらえぬ。父さまも、分家からの見合い結婚じゃから、本家筋とは折り合いが良くないのじゃ」


 初めてひなから、父親のことを聞いた気がする。

 どうも、家系内でややこしいことがあるようだ。


「伯母さま、母さまのお姉さまが早くに亡くなって以降、本家筋は我が家に圧力を沢山かけるで……。あ! つい自分のことばかり、しゃべってしまったのじゃ!」


「ううん、大丈夫だよ。ひなちゃんも苦労しているんだから」


 ひなの言葉からは、早くに大人にならざるを得ない事情が垣間見える。


 ……なのに、歳上のわたしは悩んでばかり……。


 あまりに情けなくなり、わたしは言葉がでなくなってしまった。


「……お、お姉さま。どうしたのじゃ? お姉さまは、警察庁からの帰りからおかしいのじゃ。此方、ずっと気になってたのじゃ!」


「べ、別に大丈夫だよ? 風邪もひいていないし。元気だよ?」


 無言を心配するひなに、わたしは嘘をついてしまう。

 その後も、空元気でしばし会話し、電話を置いた。


「ひなちゃんに嘘ついちゃった。どうしよう……」


 わたしは床に置かれた刀を見つめたまま、その重みと自己嫌悪に押しつぶされそうになった。

お読み頂き、ありがとうございます。

面白い、続きが読みたいと思って頂けたなら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけたら、とっても嬉しいです^^


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なにとぞ、今後とも応援を宜しくお願い致します。 

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