第22話 切り分けられる真実
クリスマス・イブの夕方。
真っ白な雪で全てが覆われた街に、パトカーの赤いランプが沢山灯る。
今も、多くの警官たちが街の中を走り回る。
「綾香さん、わたくし、とっても怖かったですぅ」
「ゆいっち、アタシも気が気じゃなかったよぉ」
謎の男によるファーストフード店への襲撃事件。
男はわたしとひなによって制圧され、犯人の男以外は誰も大きな怪我人は出てはいない様に見える。
「二人とも、怖がらせてごめんね」
「此方も巻き込んでしもうて、ごめんなのじゃ!」
今までしっかりと、わたしとひなを助けてくれていた結衣や葵。
事件が終わった瞬間、二人は堰を切ったようにわたし達へ飛び込んできた。
手足が振るえ、目元に涙が浮かんでいる二人を、わたしはぎゅっとハグをする。
「助けてくれて、ありがとうね」
しかし、ハグをするわたしの手も震えている。
犯人の骨を砕いた嫌な感触がまだ手の中に残っていて、更に相手を殺してでも止める覚悟が出来なかったから。
いや、殺さなくても良かっただけ。
……でも、ひなちゃんが居なかったら、相手を殺していたわ。
自分の力が人を殺せるものなのを、今更ながら気が付いてしまったのだ。
「そこのお嬢さん。お取込みのところ、すみません。署にまで同行して下さいませんか? 事件解決に協力していただいたのは感謝しておりますが、犯人の怪我について少しお話を聞かないといけない事になりまして……」
そんな時、若そうな制服警官がわたしに向かって、一見すまなそうにしつつも警察署へ連行すると言ってきた。
言葉の雰囲気から、過剰防衛を疑われているのだろう。
「何を言うのじゃ、巡査ごときが! 綾香お姉さまが戦わねば、もっと被害が大きくなっておったのじゃ。あれが過剰防衛じゃとぉ!? 刃物持って襲ってくるのを、殺さずに制圧して何が悪いのじゃ!」
「ちょ、ひなちゃん。あんまり酷い事を言っちゃダメだって。確かに、わたしが犯人に大怪我をさせちゃったのは本当だもの。警官のお兄さん、ひなちゃんが酷い事を言ってごめんなさい。警察署には後からお伺いしますが、先に公安。『超対室』の上司に連絡させてください」
職務とは言え、わたしの身柄を確保しようとしている警官に対し、ひなが怒る。
どっちの立場も分からないでもないので、わたしは上司である倉橋警視正。
ゆいの母に連絡をしてみることにした。
「あ、警視正。お仕事中、申し訳ありません。休暇中に少々厄介なことになってしまいまして……」
スマホから電話をしている間、先程まで高圧的だった若い警官は「弁護士では無くて公安? 警視正? 一体、なにがどうなっているのか?」と首をひねっていた。
◆ ◇ ◆ ◇
「一昨日は大変だったわね、綾香さん。でも、今回もひなを助けてくれてありがとう。被害者も殆ど出なくて、警察としても助かったわ。でもね、全てが良かった訳でもないのよ」
クリスマスを越えて十二月二六日。
わたしは、初めて警察庁のある霞が関。
中央合同庁舎第2号館に来ている。
……地下鉄の霞が関駅から直接ビルの地階に入れるなんて知らなかった!
「いえいえ。わたしこそ、急に電話で救援をお願いして申し訳ありませんでした」
わたしとひなが通されている部屋。
最上階まですべてが吹き抜けなビルの19階、奥まったところにある小さな事務室。
そこが、「特対室」。
「今日は、事件について詳しい事が分かったので、警察庁への案内共々来てもらったの、綾香さん」
「此方、顔パスで警察庁にも警視庁にも入れるのじゃ」
「違うでしょ、ひなちゃん。建物の入り口でIDカード見せてたじゃない」
流石に国の機関。
それも警察の総本山ともなれば、入り口の警備やチェックも厳しい。
「ウフフ。最初はひなも、ID見せても信用してもらえなかったからね」
「此方、何回もIDカードを見せつけたのじゃぁぁ!」
今日は、いつもよりも賑やかなひな。
こと、母である警視正の前では行儀よくしていたはずなのに、変だ。
……あ、もしかして?
小さなひなが精一杯わたしを庇ってくれた気がして、思わずひなの手をぎゅっと握ってしまった。
「さて、お遊びはここまで。ここから先は、綾香さんには心が傷つく話になりますが、覚悟良いですか? ダメなら、お話はここまでです」
「警視正! わたしは、ひなちゃんと共に戦うべく、ここに来ています。どんな話でも聞きます」
「此方、綾香お姉さまのお心も守るのじゃ」
わたしの宣言に、ひなが手を握り返してくれる。
嬉しくて、小さくても暖かい手をわたしは離したくなかった。
「仲がいいわね。では、一昨日の事件について話しますが、あの事件は単独事件では無かったの」
「あ! じゃあ、今朝のニュースで言ってた事件も……」
「あれも、そうじゃったのじゃな」
今朝、朝の情報番組が放送中に、突如事件報道が割り込んできた。
刃物を持った男が、出勤ラッシュ時の駅に乱入。
暴れまわって多くの怪我人。
更に死者を数名を出した後、自分からホームドアを飛び越えて、レールの上に降りた。
「今朝の犯人は死んでしまったのだけれど、彼からも綾香さんが倒した犯人と同じ薬物が検出されちゃったのよ」
「じゃあ、誰かが変なクスリをばらまいているんですか?」
警視正は、ひなに似た美しい顔を歪ませ、事件について説明してくれる。
「そのあたりは、まだ分からないわ。で、綾香さんが倒した犯人だけど、今は精神科もある総合病院に入院しているの。骨折自体は、きれいに綾香さんが折っていたから、後遺症もなく治ると聞いているわ。身体だけはね……」
「身体は? では、まさか??」
「ええ、綾香さん。犯人が正気に戻る事はまずないだろうというのが、医者の話ね」
わたしは、犯人の身体を殺さなかったが、犯人の心は既に死んでしまっていた。
「わたし、また救えなかったのですか……」
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