第21話 聖夜、刃の向こう側
「おらぁ、メスガキが大人に偉そうに言うなぁぁ!」
「立派で偉い大人は、強盗なぞするはずもないのじゃ。まったく、大人の風上になど置けぬ愚か者じゃのぉ」
なおも、錯乱状態の犯人を挑発するドヤ顔のひな。
その歩みは、確実に一歩ずつ前へ。
犯人の男、そして彼に抑え込まれて気を失いそうになっている女性店員へと近づく。
「く、くるなぁ。それ以上、近づいたら……あ! こ、この女を殺すぞぉ」
犯人は焦点の合っていない虚ろな目で周囲を見回し、今更ながら自分が抑え込んでいた女性店員の存在に気が付く。
そして、右手に持つ柳葉包丁を彼女の胸元へと近づけた。
「ほう。それが脅しかや? 確かにそこなる女給のお姉さまは悲しい事になるが、オマエは死ぬぞ」
しかし、脅しに対して、更なる脅しをかけるひな。
「それだけの覚悟があっての発言かや、この大タワケがぁぁ!」
幼い美少女が、卑怯な犯人を罵倒しながら迫る。
小さな身体から圧倒的な覇気を放ち、誰もが彼女から眼を離せない。
わたしと葵以外は。
「あやっち。ひなっちが、これを渡してって。それと作戦を……」
ひなが衆人の注目を受ける間、わたしは這うように店内を進み、トイレ前で待っていた葵と合流。
「ありがと、葵ちゃん。ほい、うん。これなら扱えそうね」
ひなが、見つけてくれていた「得物」と「作戦」を手に入れた。
軽く振るい、手ごたえを確認する。
「じゃあ、いってくるね」
「ひなっちを宜しく」
わたしは、葵にウインクをした後、視線を犯人。
そしてひなに向ける。
……ひなちゃんが作ったチャンス。絶対に生かして見せるわ。
わたしは、使うべき技の組み立てをしながら、這うような低い姿勢で犯人の死角から彼に近づいて行った。
「ひぃぃ。が、ガキが大人を。俺をバカにするんじゃネェェ! 俺はなぁ、絶対に無敵なんだぞぉぉ。なのに、世界は俺を認めねぇ。だったら、そんな世界は……!」
男の血走った眼は何も見ておらず、よだれまみれの口が放つ戯言には何の意味もない。
ただただ己の不満を叫び、他人に不幸を擦り付けるだけ。
「誰かが言っておったのぉ。世の中を不満に思うなら、自分を変えよと。自分を変えれぬのなら、正しい方法で世界に告げよ。さもなくば、黙っておれ!!」
ひなは、高らかに凛とした声で叫ぶ。
自分が思うであろう「正義」を。
「アイツらは、俺を失敗作だと言い切りやがったんだぞ。母さんは、俺を立派だと言ってくれたのに!」
……何を言っているのかしら? でも、こっちを見ていないのなら、好都合。
わたしは、徐々に犯人へと近づく。
犯人は、わたしに気が付くことなく、ひなすらも見ない。
大きく天を仰いて、意味不明な事を叫ぶのみ。
いかにも隙だらけではあるが、刃物を突き付けている人質がいるので、うかつに切り込めない。
「失敗作じゃと? オマエは、生まれた頃から失敗じゃないではないかや? お母上が可哀そうなのじゃ。それとも、お母上も失敗作かや?」
「か、母さんをバカにするなぁ! このクソガキがぁ!」
そして、誰もが傷つくであろう「言葉」をワザと放つひな。
激情した犯人の男は、刃物をひなに向け彼女を睨みつけた。
「かかったのじゃ! ぴかり!」
その瞬間、ひなから呪術による激しい閃光が放たれる。
「ぐぁあぁぁ。眼、眼がぁぁ」
「今!」
あらかじめ、作戦開始の「キーワード」を聞いていたわたしは、行動を開始する。
眼を閉じていて、閃光を見なかったわたし。
ひなの背後から飛び出し、犯人へと飛びかかる。
閃光を浴びて、両腕で眼を抑え込む犯人。
眼を見開いたわたしは、ファーストフード店のトイレから借りたモップを剣代わりに使う。
「はぁぁ!」
初撃は、刃物を持つ右肩元へと柄の側で突き。
「ぐわ!」
後ろへとズレた刃物を目指して、二撃目。
「切れろ!」
木製モップがわたしの念。
「切る」という概念を受けて「刃」と化し、斬撃が弧を描く。
その軌跡は、包丁を通過。
刃物を、バラバラに切断した。
「はぁぁ!」
三撃目。
モップをひっくり返し、床を拭う側で今度は犯人の顔を思いっきり突いた。
「ぐはぁぁ」
激しくふっとび、机にぶつかり倒れ込む犯人。
ひなは、すかさず一緒に倒れ込んだ女性店員を助け出していた。
「ひなちゃん。大丈夫?」
「それは、こちらの台詞じゃぞ。綾香お姉さま。むふふ。作戦がうまくいったのじゃ。店員のお姉さま、先程はすまなかったのじゃ。怖かったであろう」
犯人へモップの柄を突きつけながら、わたしは一瞬ひなに視線を向ける。
ひなは、泣き叫び抱きつく女性店員さんを苦笑しながら慰めている。
「あら、やっと警察が来たのね?」
ヒビの入った大型ウインドウの向こう側。
やっと到着したパトーカーからの赤い光が見える。
大急ぎで防刃チョッキらしき物を着た警官たちがパトカーから降りてきていた。
「ぐぉぉぉ! こんなことで、俺は負けるかぁぁ!」
わたしが視線を外した隙に、飛びあがる様に起き上がる犯人。
柄だけになった包丁を振りかぶって、襲い掛かってきた。
「くぅ!」
あまり人を傷つけくなかったが、見逃すことは出来ない。
モップを一閃。
犯人が包丁を握る右手首に強烈な打撃を撃ち込んだ。
……いやな感触……。
ぐちゅりと硬いものが砕ける感触。
柄だけになった包丁は、遠くへと吹き飛ぶ。
「死ねぇぇ!」
しかし、犯人は一向に止まらない。
今度は左腕で殴りかかってくる。
「止まれ!」
しかたなく、今度は左鎖骨への袈裟懸け。
再び、わたしの手に骨が砕ける感触が届く。
「ぎゃは」
なのに、止まらない犯人。
わたしは、大きくステップバックしながら距離を取る。
……もう、止まってぇ!
「きゃぁ」
「怖い!」
後ろに、怯える客がいるのを感じ、仕方なくわたしは犯人の足首を狙った。
「……下弦斬!」
半円を描いたモップの一撃は、男の両足首を砕いた。
「ぐは! し、死ねぇ」
だが、這いながら、なおもわたしへと迫りくる犯人。
不気味にも激しい痛みを無視して、殺意をわたしへと向けてくる。
「こ、殺さないと止まらないの!?」
男への恐怖で剣先が鈍ってしまった時。
「こんな雑魚の血で、お姉さまの手を汚す必要はないのじゃ。動けぬ今なら無力化出来るのじゃ! 不空羂索観音菩薩 捕縛呪」
ひなが呪文らしき言葉を呟くと、犯人の身体を七色の糸で紡がれた縄が巻きつく。
そして自殺さえ出来ぬように口元まで縄で縛られる男。
「ふぅ。これで状況終了かしら?」
騒然とする店内。
多くの客のすすり泣きと、ようやく到着した警官らが割れたガラスを踏む音が混じる中。
わたしは大きく息を吐く。
「そうなのじゃ、お姉さま」
横に立つひなの笑顔を見て、ようやく日常が帰ってきたことに気が付いた。
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